地球発見 まだまだ知らない「ちきゅう」がある。

CDEX
For the Future:東センター長インタビュー 地震と津波の真実を科学的に探求

2012年の「ちきゅう」は、従来からの掘削計画に加えて、東北地方太平洋沖地震の震源域調査という新たなミッションが加わり、多忙な一年となる。
地球深部探査センター(CDEX)の東垣センター長に詳細を訊く。
(2012年3月 掲載)

東 垣 地球深部探査 センター(CDEX) センター長 取材協力
東 垣
地球深部探査
センター(CDEX)
センター長

東日本大震災から一年

 一年前の3月11日、あの日、「ちきゅう」は青森県の八戸港に停泊中でした。港内の「ちきゅう」は津波に翻弄されて左舷後方の推進装置であるアジマススラスタを1基失い、船底も一部破損しました。しかし、船内見学の小学生を含め乗船者全員が無事でしたから、災害の規模に比して被害は抑えられたと思っています。一方で、スケジュールには大きく影響が出ました。スラスタが足りない状態では技術的にもチャレンジングな科学掘削を安全に行えないため、3月15日から予定していた「下北八戸沖石炭層生命圏掘削調査」は新しいスラスタが完成するまで、延期を余儀なくされました。
 津波による破損を補修した「ちきゅう」は2011年末までスリランカ沖で資源掘削にあたりました。当地は海洋・気象ともに穏やかで、スラスタが5基でも問題ありませんでした。「ちきゅう」の本来の目的は科学掘削ですが、資源掘削も社会貢献の一つですし、科学掘削の特殊性に比べて汎用性の高い資源掘削の任務に挑戦したことで、オペレーションやエンジニアリングには基本的な掘削技術を確認し直す良い機会になったと思います。

「東北地方太平洋沖地震調査掘削」にむけて

 東日本大震災の特徴の一つは巨大な津波が発生したことです。通常の海溝型地震の場合は、断層のずれは海底下深くにある震源域が最大で、浅い部分ほど小さくなるのですが、今回は浅い部分で大きく断層がずれ、津波を引き起こしました。これまでの調査で、海溝軸付近では海底が水平方向に50m、垂直方向に10mも動いたことが明らかになっています。
 そこで本プロジェクトでは海溝軸付近を掘削し、2つのミッションを遂行します。1つは温度計測。温度から地震を発生させた断層のずれ(変位)の大きさに相当するエネルギーを導き、地震の実態を知ることが目的です。もう1つは試料採取。浅い部分で大きく動いたのはその地点の摩擦抵抗が小さいためだと考えられますから、試料を使って実験室で再現し、津波を引き起こした地震断層のずれのメカニズムの解明に挑みます。
 特に津波への科学的理解が深まれば、将来の防災に役立てられますから、極めて社会的意義が大きいプロジェクトだと考えています。しかも、マグニチュード9.0レベルの地震の後に温度等を実測した事例は過去にありません。世界の注目度も高く、人類史上初となる本調査結果が科学の発展に寄与することを確信しています。
 もちろん従来からの計画も推進していきます。東北沖地震の調査の後は新しいスラスタを取り付け、改めて下北半島八戸沖の調査に向かいます。ここでは海洋科学掘削における世界最高到達深度(海底下2,111m以深)においてサンプル採取などを行い、メタンハイドレートなどの炭素循環システムの理解、海底下深部地層への二酸化炭素の回収・貯蔵技術の可能性などの研究を行います。さらにそのあとは継続実施している南海トラフ地震発生帯掘削計画に取り組みます。
 2012年は「ちきゅう」にとって多忙な一年となりますが、科学で社会貢献するために、関係者一同、安全には十分配慮した上で、調査および研究を進めてまいります。「ちきゅう」の活躍にご期待ください。

東センター長と「ちきゅう」