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平成15年度海洋科学技術センター委託
海洋調査観測活動に伴う海洋環境に対する影響調査報告書
―海中音響の海産哺乳動物への影響に関する研究動向―

2.水中音の種類と特性

2−1.水中音の種類

水中音は「自然音」と「人工音」の二種類に大別でき、その主なものは次のようである。

(1)自然音

自然音の種類およびその音源としてあげられるのは次のようなものである。

  • −海底地震
  • −海底火山の噴火
  • −海面への落雷
  • −風浪
  • −海洋生物(クジラ・イルカ・アザラシ・オットセイ等海産哺乳動物の鳴き声、魚介類の活動等)

(2)人工音

人工音の種類とその音源としてあげられるのは次のようなものである。

  • −船舶航行(大型船、小型船:エンジン・ポロペラ音、その他)
  • −海洋資源開発(地震探査、石油掘削作業、等)
  • −漁業操業(魚群探知機、魚網等の漁具の投入・引き揚げ等の作業機械、その他)
  • −沿岸での海洋工事(埋立・浚渫、その他の海洋作業)
  • −海洋調査観測(音波探査等海中観測作業、観測機器の投入・回収、その他)
  • −軍事用船舶活動(潜水艦等による探索活動、その他)

こうした海洋における人工音の区分、種類分けについては次のようなものもある。

表2-1. 主な海底鉱物資源の概要
(General types of man-made sounds in the oceans)
TRANSPORTATION
・Aircraft(fixed-wing & helicopters)
・Vessels(ships & boats)
・Icebreakers
・Hovercraft and vehicles on ice

DREDGING AND CONSTRUCTION
・Dredging
・Tunnel boring
・Other Conbstruction Operations

OIL & GAS DRILLING & PROD’N
・Drilling from islands and caissons
・Drilling from bottom-founded platforms
・Drilling from vessels
・Offshore oil and gas production
GEOPHYSICAQL SURVEYS
・Airguns
・Sleeve Exploders & Gas Guns
・Vibroseis
・Other techniques

SONARS




EXPLOSIONS
OCEAN SCIENCE STUDIES, e.g.
・Seismology
・Acoustic Propagation
・Acoustic Tomography
・Acoustic Thermometry
(出典:W.John Richardson, et al. Marine Mammals and Noise、1995、p.102)

2−2.水中音の大きさと特性

(1)水中音の概括

海中音響学(Ocean Acoustics)は、海中での音とその挙動を研究する学問分野である。海中の物体が振動すると音圧の波が発生し、海中を伝播していく。海中の音は、図2-1に示すように、次のもので構成される。

  • −周波数(frequency)
  • −波長(wavelength)
  • −振幅(amplitude)

図2−1で示されている海中音は、1回の音の波のサイクルの時間幅は0.5秒であり、周波数は1秒間当たり2サイクル(または2Hz)である。

人間は、一般に20Hzから20,000Hzの間の音を聞いている。20Hz以下をinfrasonic といい、20,000Hz以上をultrasonicと呼ぶ。ちなみにピアノの中間“C”の周波数は246Hzである。

図2−1.海中音の構成

図2−1.海中音の構成

振幅(amplitude)は、音圧の並みの高さを表し、その音の“大きさ(loudness)”を表し、通常、dB単位で表される。次の二つの図は、周波数の高いものと振幅の大きいものとを示している。

図2−2.同一の周波数の図

図2−2.同一の周波数の図

図2−3.同一の振幅の図

図2−3.同一の振幅の図

(2)大気中の音と水中の音との比較

ところで、大切なことは、dBで音の振幅(大きさ)を論じる時に、それが大気中でのものか海中でのものかをはっきり区別することである。海中の150dBの音は、大気中の150dbの音と同じではない。

大気中の音と水中の音との比較を表2−2に示す。

表2−2.大気中の音と水中の音との比較
Amplitude of Example
Sounds
In Air
(dB re 20μPa @ 1m)
In Water
(dB re 1μPa @ 1m)
聞き取れる音の出発点 0 dB --
1 mの距離でのささやき 20 dB --
通常の会話 60 dB --
人間の耳にとって苦痛となる音 130 dB --
ジェットエンジン 140 dB --
シロナガスクジラ -- 165 dB
地震音 -- 210 dB
スーパータンカー 164 dB
(example conversion)
190 dB

注)ハイドロフォンでは音圧を通常、マイクロパスカル(μPa)で表す。大気中では1dB は20μPaであるが、水中では1μPaであることに注意しなければならない。たと えば、スーパータンカーが発生する音は、水中では190dBであるが、大気中では 164dBで、ジェットエンジンの音よりも大きい。ただし、この表に示した数値は概 数値であって、その振幅(大きさ)はしばしば周波数によって変わってくる。

(この部分の内容は、次のwebsiteによる。
http://oceanexplorer.noaa.gov/explorations/sound01/background/acoustics

(3)水中音の調査事例

上記のような水中音は、さまざまなレベルがあり、その大きさ(一般的にはdBで表示)については、ここ10年前後で急速な研究が進められてきている。その理由は、第一には、冷戦の終結により潜水艦戦の戦略・戦術のもつ軍事上の重要性が低下し、そのことによって水中音響技術の学術・産業用への応用が活発に行われるようになったという背景がある。第二に、海洋の開発・利用もさることながらその前提となる調査観測、あるいは海洋環境の保護・保全のため、海洋科学研究のための調査観測活動も、海洋環境に対しての働きかけといった意味では同類であって、その影響についても把握・評価すべきであるという意見が浸透してきたことがあげられる。

このことは、特にエコ−・ロケーションなど水中音を基礎とした生態を有するクジラ等の海産哺乳動物等の海洋生物に対する人工音の影響に注目する動きがでてきたことから、研究が促進されてきたという時代の趨勢に表れてきた。

そこで、こまでの知見から、上記の水中音の大きさや特性について述べている文献・資料のなかから参考になると思われるものを抜粋して、以下に掲げることとした。

表2−3は、後述するATOC調査資料の中に含まれているもので、自然音=3、海産哺乳動物の音=6、人工音=6、一般外洋域の音=1、の計16種類の水中音の大きさについて、根拠となる出典を明示して総括表としてまとめられたものである。人工音について、エアガンといった機器によるものと海洋石油掘削や沿岸浚渫などのような活動分野を一くくりにしたものが同列に並べられている点に留意しなければならないが、他方で、6種類のクジラの鳴き声について簡潔に表示されているのが分かりやすい。

表2−4も、同様に各種の海中音響のスケールを示しているが、右欄に海産哺乳動物の受容限界等についても付記されているので興味深い。

こうした音源種類別の水中音の概要については、ビジュアルにグラフ化されたものがあり、理解を深めるのに役立つ。図2−4に示したものがそれで、地震や爆発によるものから船舶航行によるものなどの相互比較が目で見て分かりやすく、スペクトラムによって表現されている。

次いで、図2−5だが、これは付属資料に全体を収録したもののなかの一部であるが、これも水中音のスペクトラムを図示している点で分かりやすい。

さらに、図2−6に、代表的な水中音の個々のスペクトラムをビジュアル化した有益かつ貴重な資料を示す。これは、自然音=海底地震・海底火山の爆発の2種+クジラ4種類の泣き声、人工音=大型船・小型船+エアガン、さらに最後に不明音、をそれぞれ示したものである。NOAAのoceanexplorerというホームページの中に掲載されているものだが、現在、NOAAにはOffice of Ocean Explorationという部署が設置されていて、こうした海洋研究に大いに力を入れている。

表2−3. 自然界および人間活動による音の比較
ノイズの種類 最大レベル 摘 要 Reference
海底地震 272 dB マグニチュード4.0 Wenz, 1962.
海底火山の噴火 255+ dB 集中的蒸気爆発 Deitz and Sheehy, 1954;
Kibblewhite, 1965;
Northrop, 1974;
Shepard and Robson, 1967;
Nishimura, NRL-DC, pers. comm., 1995.
エアガン(地震探査) 255 dB ピストンからの圧縮空気の放出 Johnston and Cain, 1981;
Barger and Hamblen, 1980;
Kramer et al., 1968.
海面への落雷 250 dB 海上荒天時のランダム現象 Hill, 1985;
Nishimura, NRL-DC, pers. com., 1995.
地震探査用の機器 212-230 dB バイブロサイズ、スパーカー、ガススリーヴ、エクスpローダ、ウォーターガン、地震探鉱プロフィアラ等 Johnston and Cain, 1981;
Holiday et al., 1984.
コンテナー船 198 dB 船長274m、23kt Buck and Chalfant, 1972;
Ross, 1976; Brown, 1982b;
Thiele and Odegaard, 1983.
スーパータンカー 190 dB 船長340m、20kt Buck and Chalfant, 1972;
Ross, 1976; Brown, 1982b;
Thiele and Odegaard, 1983.
海洋石油掘削 1185 dB MotorVesselKulluk;石油ガス開発 Greene, 1987b.
沿岸浚渫 185 dB Motor Vessel AQUARIUS Greene, 1987b.
シロナガスクジラ 190 dB
(avg. 145-172)
鳴き声:低周波うなり声 Cummings and Thompson,
1971a; Edds, 1982.
ナガスクジラ 188 dB
(avg. 155-186)
鳴き声:パルス、うなり声 Watkins, 1981b;
Cummings et al., 1986;
Edds, 1988.
ザトウクジラ 180 dB
(avg. 175-180)
尾ビレ・胸ビレによる海面打ち Thompson et al., 1986.
ホッキョククジラ 180 dB
(avg. 152-180)
鳴き声:歌 Cummings and Holiday, 1987.
セミクジラ 175 dB
(avg. 172-175)
鳴き声:パルス調シグナル Cummings et al., 1972; Clark 1983.
コククジラ 175 dB
(avg. 175)
鳴き声:うなり声 Cummings et al., 1968;
Fish et al., 1974; Swartz and Cummings, 1978.
大洋での環境ノイズ 74-100 dB
(71-97 dB in deep sound channel)
中部カリフォルニア沖、海象3-5 船舶航行時はもっと高い
(120dB以上)
Urick, 1983, 1986.

(出典:http://atoc.ucsd.edu/ASTpg.html

表2−4 海中音響の多様なスケールと相互関係

表2−4 海中音響の多様なスケールと相互関係

(出典:W. John Richardson, et al, Marine Mammals and Noise, Academic Press, 1995)

図2−4.各種の水中音源の概観

Generalized ambient noise spectra attributable to various sources, Compiled by Wenz(1962) from many references and replotted in presently used units

図2−4.各種の水中音源の概観

(出典:W. John Richardson, et al, Marine Mammals and Noise, Academic Press, 1995)

図2−4.各種の水中音源の概観

図2−5.各種の水中音源の概観(2)

図2−4.各種の水中音源の概観

図2−6.NOAA Ocean Explorer: Sound in the Sea
http://oceanexplorer.noaa.gov/explorations/sound01/background/seasounds/seasounds.html