海洋研究開発機構

3)報道された津波の高さと地震断層モデル

1 .はじめに

これは前回の続報である。図1に、本震発生後20時間以内に発生した余震分布を示す。これらの余震が本震によって既に破壊された断層面で起きたと考えると、本震の断層長さは約1200kmとなる。一方で、現在までに得られた遠地地震波の解析結果(例えば、山中、2004)によれば、このうちの南側半分(約600kmの長さ)が本震時に破壊した可能性が高いとされた。今回、信頼のおける震源情報、その他の地震学的情報、海底地形、及び複数の文献に基づき、いくつかの副断層から成る地震断層モデルを考え、津波の数値シミュレーションを行った。そして、インド洋全体で海岸の最大津波波高を計算し、インターネットで報道された津波波高と比較した。前回は海岸での最大津波波高は計算していない。

2.報道された津波の高さ

図2に、現在までにマスメディア等を通じて得られた、現地の津波波高の分布を示す。タイのプーケット島やその北側のカオラックでの津波波高は、秋田大学、港湾空港技術研究所、電力中央研究所、京都大学防災研究所、横浜国立大学の合同調査チーム(2005)が実際に現地で測定した値であるが、それ以外の地点ではどの程度の信頼性があるのか現時点では不明である。ここでは、マスメディア等を通じて得られた、現地の津波の波高を「報道波高」と呼ぶ。

3.地震断層モデルと津波の数値シミュレーション

今回の数値シミュレーションで想定した地震断層モデルを図1に示す。それぞれの地震断層モデルは2枚以上の副断層から成る。表1に各副断層のパラメタを示す。

モデル1〜3までは南側半分の副断層A、Bのみの破壊、モデル4〜6は全体の破壊,モデル7と8は副断層A、B、Cの破壊、モデル9と10は全長約1200kmの余震域のうち南から900kmの破壊に相当する。

-モデル1を山中(2004)により得られたMw8.8の大きさの地震とし、それ以外のモデルでは米国地質調査所やハーバード大学が求めた値Mw9.0の大きさの地震と設定した(Abe(2005)によるスマトラ島沖地震の津波マグニチュード*1もMt9.0である)。

-モデル2では、副断層A、Bの2つでMw9.0の大きさの地震になったと考えた。モデル3では、副断層A、Bの下部にそれぞれ副断層A2、B2を設定し、これら4枚の副断層全体でMw9.0の大きさになったと考えた。

-モデル4〜6では、副断層C、Dの断層滑りの方向のみが異なっている。津波は、海溝軸に垂直となるような滑り方向(pure dip slip)をもつ断層によって最も大きく励起されるので、これら3つの中でモデル6がもっとも津波を発生させる。

-モデル7は、副断層A、Bの2つの合計でMw8.8、副断層CでMw8.8とした。モデル8は、副断層A、B、Cの応力降下量*2を等しく3.3MPaとした。

-モデル9は、副断層A、Bの2つの合計でMw8.8、副断層CとD2がそれぞれMw8.8と8.4と設定した。モデル10は、副断層A、B、C、D2の応力降下量を等しく3.1MPaとした。

各モデルに対して、地震発生後12時間までの津波数値シミュレーションを行い海岸線での最大津波波高を決定した。なお、陸上への津波の遡上は計算に含まれていない。今回は、インド洋全体の海岸津波高の計算結果と報道による現地の津波波高の大まかな傾向を2m単位で比較する。

4.報道された津波波高と計算波高の比較

報道波高と計算波高を合わせて表2にまとめた。報道波高と計算波高の両者がほぼ一致しているものを青色で示している。全長1200kmの余震域の南側半分のみが破壊したとする地震断層モデル(モデル1、2、3)は、スマトラ北西端を除き、インド洋全体において計算波高が報道波高よりかなり小さい。例として、これら3つの中で全体的に最も大きな波高となるモデル2の計算波高を図3に示す。

モデル4、5も全般的に計算波高が報道波高よりかなり小さい。一方、モデル6(図4)では、インド東岸、スリランカの計算波高は報道波高と似た値を持つようになる。但し、カールニコバル島では4〜6mの計算波高しか再現できない。モデル7(図5)では、カールニコバル島で最大で15mを超える計算波高が出現する。モデル8(図6)でも、カールニコバル島で6〜10mの計算波高となる。これらの値は報道波高をほぼ満足するが、モデル7と8はインド東岸での計算波高が6m以下となり報道波高を説明できない。モデル9、10(図7図8)では、カールニコバル島でそれぞれ6〜10m、6〜8mの計算波高となり、報道波高にはやや足りないが、モデル4〜6に比べれば計算波高は大きくなる。また、モデル9はインド東岸とスリランカの報道波高もうまく説明する。

次に、マレー半島、スマトラ島付近について考察する。図9に報道波高分布を示す。モデル6〜10の計算波高(図10図11図12図13図14)は、モデル9を除き、プーケット島及びその北側のカオラックでの報道波高をほぼ説明する(表2)。モデル9のプーケットでの計算波高(図13)はやや大きくでるが、報道波高とそれほどかけ離れている訳ではない。なお、プーケット西海岸に比べカオラックで計算波高が高くなる傾向は10個のモデルすべてについて現れており、津波波源の形状、大きさ以外に、この付近の海底地形も影響していると考えられる。

以上の考察から、全長1200kmの余震域の南側半分のみが破壊したとする地震断層モデル(モデル1、2、3)は報道波高からすると適当ではない。また、北側半分の副断層C、Dが斜め滑りを起こした地震断層モデル(モデル4、5)や、副断層すべてで応力降下量が均質な地震断層モデル(モデル8、10)も、マレー半島を除き、一致しない。しかし、残った3つのモデル、6、7、9のうちどれか1つを選び出すのは現状では難しい。マレー半島の実測波高を再現するにはモデル6が有利だし、インド東岸で大きな計算波高を出現させるためには、モデル9が有利である。現状では、どのような地震断層が生じ、どのように津波が励起されたのかについて断定できない。

モデル6、7、9のアンダマン諸島とニコバル諸島及び、インド東岸とスリランカをよく眺めてみると、それぞれのモデルで計算波高の分布が異なっているように見える。換言すると、これらの海岸の津波波高は、地震断層が北側にいったいどれだけ伸びていたのかに敏感である可能性がある。また、いずれのモデルもスマトラ半島ビルン県での報道波高「10m」を全く説明できてはいない。

5.まとめ

インターネット等で報道された現地での津波高さの資料を基に、スマトラ島沖地震の地震断層モデルについて考察した。海岸線での最大津波高さを計算したが、計算に使用した水深データはまだ粗く、海岸線付近の浅い海底地形によっては、局所的に数倍くらい増幅されている場合もあると予想される(場所は分からない)。また、精度の高い観測データが今後次々に明らかになれば、今回と異なる結論となる可能性もある。なお、今回は、インド東岸、スリランカ、スマトラ島、マレー半島プーケット島付近の潮位補正なしの報道波高のみを用いたが、地震発生後12時間以内の現地での天文潮位は、インド東岸、スリランカ、スマトラ島付近で±0.5m、マレー半島プーケット島付近で±1.0mと推定されるので、潮位補正無しでも、本ホームページの結論は大きくは変わらない。

平成16年12月29日掲載「スマトラ島沖地震(Mw9.0)による津波の最大波高モデル」のページ

用語解説
*1 Mwと等しくなるように開発された、津波波高から求めるマグニチュード。
*2 地震断層が破壊する直前まで断層面に応力が蓄積されており、地震破壊によってその応力が解放される。その応力の解放量を「応力降下量」と呼ぶ。

参考資料
Abe,K., 2005. http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/topics/SUMATRA2004/abe.html
秋田大学、港湾空港研究所、電力中央研究所、京都大学防災研究所、横浜国立大学合同調査チーム(タイ班)、2005、2004年スマトラ島沖地震津波災害調査研究グループホームページ,http://www.drs.dpri.kyoto-u.ac.jp/sumatra/ index-j.html#survey_result.
山中佳子、2004.EIC地震学ノートNo.161,http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/index-j.html

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