地球シミュレータを用いて、スマトラ島沖地震で発生した地震波が伝播する様子のシミュレーションを実施した。これまでの研究から地球シミュレータの243ノード(1944CPU)を用い、数値解法の手法としてはスペクトル要素法*1により3次元地球モデルを54億個の格子点に分割することで、周期5秒までの広帯域地震波形*2を現実的な3次元地球モデルに対して計算できることが分かっている(Tsuboi
et al., 2003; Komatitsch et al., 2003; Tsuboi et al., 2004; 坪井・他,
2004)。ここでは、3次元地球モデルとして、マントル3次元地震波速度構造モデルにS20RTS (Ritsema et al., 1999)、地殻構造モデルに
CRUST2.0 (Basin et al., 2000)、 地表及び海底の地形データにETOPO5を用いた。これにより、このシミュレーションでは海水中を伝わる地震波を除き、考えられるすべての効果が取り入れられている。また、地表における格子点の間隔は約2.9kmとなる。震源過程は、広帯域地震波形のインバージョンで得られた複数の点震源を断層上に配置したモデルを用いており、ここでは共同研究をしているカリフォルニア工科大学のグループが求めたモデルを用いた(http://neic.usgs.gov/neis/bulletin/neic_slav_ff.html)。この震源モデルが推定するマグニチュードはMw=9.0で震源断層はスマトラ島南西沖に仮定しており、津波の波源から推定されるアンダマン諸島及びニコバル諸島には伸びていない。また、震源における破壊の継続時間は約200秒である。
図1には発震時から20分間の地震波伝播シミュレーションの結果を示した。この動画は地表における上下動成分の空間分布を10秒ごとに示しており、赤色は上向きの変位を、青色は下向きの変位を示している。震源断層での破壊が200秒経過した後、地震波のP波及びS波が震源からほぼ同心円状に広がっていく様子が分かるが、複雑な震源過程を反映して波面がゆがめられている様子が見える。このような様子はそのあとに広がる大振幅の表面波の波面でより顕著に見ることが出来る。図2には日本の松代(MAJO)、カムチャッカ半島(PET)、及び南アフリカ(SUR)の観測点において観測された地震波形と地球シミュレータにより計算した理論波形の比較を示した。これらの波形を詳細に比較すると、観測に見られるP波が到着した後の複雑な波形が理論波形では再現できておらず、ここで用いた震源過程モデルが十分ではないことがわかる。これらの観測点では理論波形の表面波の振幅が観測より大きくなっており、震源モデルの再考が必要となっている。この震源モデルでは震源断層はスマトラ島南西沖に限定しており、地震波形の解析からも津波の波源から推定されているような、より北側に延びた断層面にまで破壊が及んでいる可能性が推測される。
*1 有限要素法の一種で、地球内部を格子点に分割し格子点の間は多項式により内挿する方法。
*2 周期が10分の1秒から数100秒までの広い範囲にわたる波を含んだ地震波形記録のこと。
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