同位体地球化学研究

概要

当研究所では、掘削コア試料などに記録された化学的な情報を微量元素・同位体分析、あるいは超微細構造観察の手法を用いて読み解き、地球表層から内部への物質循環や地球環境変動を解明するための研究を行っています。高い技術力やそれに基づく分析機器の高度な運用、機器の密接なリンケージなどに代表される研究開発方針は、当研究所の大きな特徴の1つとなります。



研究内容

微量元素・同位体分析と組織観察は、あらゆる分野に必要な基幹技術であるとともに、あらゆる科学分野に適用可能です。その利点を生かし超高精度同位体分析、及びサブミクロンスケールの微小領域の同位体と微量元素分析、高解像度組織観察の技術の確立を目指しています。TIMSとICPMSによる高精度分析法とSIMSとTEMによる微小領域分析法を組みわせることで、高知コア研究所にはマクロスケールからナノメートルスケールに至る様々な空間分解能での元素・同位体の高精度・極微量分析と組織観察において、あらゆる科学的ニーズに応えられる強力な分析基盤が構築されました。 将来のマントル掘削を含む大深度~超大深度掘削で得られる希少試料を用いた地震発生のメカニズムや海底下深部に生息する生命の代謝機能の解明など革新的な研究の展開が期待されています。


1)高精度同位体分析法の開発

2005年に高知コア研究所の開所後、実験室の整備と分析機器を立ち上げ、掘削コア試料を用いた研究を円滑に進めるべく各種化学分析ルーチンを構築することが必要とされました。開所時からの主力機器であるマルチコレクターICP質量分析計(MC-ICPMS)Neptuneと表面電離質量分析計(TIMS)Tritonは、掘削科学コミュニティーを始めとした多様な共同研究の展開を想定し「高精度・迅速・簡便」な同位体分析を目指すことを方針としました。この方針に基づき、試料からの元素の化学分離法および質量分析法の開発が行われています。


2)地球化学的手法による地震時の断層滑り機構研究の新展開

地震時の断層の摩擦発熱により間隙水圧が上昇すると、断層の強度が大幅に低下し滑りやすくなること(熱圧化)は従来から理論的に指摘されていましたが、実際に地震時の断層内部でそのようなプロセスにより高温流体が生じた証拠は見つかっていませんでした。当研究所では、1999年台湾集集地震(M 7.6)で活動したチェルンプ断層の掘削(ICDPチェルンプ断層掘削計画:TCDP)コア試料を詳細に分析しました。その結果、3つの主要断層滑り帯の岩石のみにリチウム、ルビジウムとセシウムの含有率、そしてストロンチウム同位体比が減少しストロンチウム含有率が増加するという特徴的かつ明瞭な化学組成変化を発見しました。さらに水熱実験データを組み入れたモデル計算を新たに考案・適用することで、地震時の断層内部に350℃以上の高温の流体が存在し、断層岩と相互作用したことが世界で初めて証明するという画期的な研究成果をあげました。


3)革新的な微小領域研究の展開

2011年度最先端研究基盤事業による超高解像度二次イオン質量分析計(NanoSIMS)の導入は、当研究所のポテンシャルを飛躍的に増大させました。高解像度の同位体イメージングにより、当該装置の主たる導入目的である海底下微生物単一細胞の研究のみならず、サブミクロンスケールでの様々な物質移動・循環過程に関わる極微小領域での固相-固相、液相-固相間における諸素過程の解明が新たに可能となりました。 2013年度末には大型二重収束セクター磁場質量分析計(IMS-1280HR)、集束イオンビーム極微試料加工システム(FIB)、原子分解能透過型電子顕微鏡(TEM)が新たに導入されました。これにより高知コア研究所は、東京大学から移設された標準型の二次イオン質量分析計(IMS-6f)、既設のNanoSIMSを合わせ、世界最高クラスの超高感度・高精度微小空間分析機能を有する研究所となりました。 新規導入の微小領域分析機器群は初期の立ち上げを終え、分析ルーチンの開発・応用段階に入っている。例えば、はやぶさ小惑星試料の軽元素同位体分析研究、ジルコン単結晶の高精度酸素同位体に基づく大陸地殻形成過程の研究、メルト包有物のマルチ同位体・微量元素分析(水・CO2・ハロゲン・硫黄など揮発成分濃度と鉛同位体比など)に基づく地球内部の水・物質循環の研究、堆積物中における粘土鉱物の生成過程研究など多くの研究が既にスタートしています。



研究設備

ICP質量分析準備室
岩石試料などの分解や前処理、化学分離などを行います
二次イオン質量分析計(NanoSIMS)
超高感度で微小領域(~0.1 μm)の元素濃度測定や同位体比測定を行います
高精度同位体地球化学クリーンルーム
リチウム・ホウ素などの軽元素の分析前処理と、同位体スパイク処理をする際に使用します
二次イオン質量分析計(IMS-6F)
~10 μmのビーム径で元素濃度測定などを行います
表面電離質量分析計(TIMS Triton)
超高精度同位体比分析に用います
二次イオン質量分析計(IMS-1280HR)
~10 μmのビーム径で高精度同位体分析を行います
マルチコレクターICP質量分析計(MC-ICPMS Neptune)
高精度迅速同位体比分析に用います
走査型電子顕微鏡(SEM)
微小領域の試料観察に用います
ICP質量分析計(Agillent 7700x)
迅速元素濃度分析に用います

原子分解能透過型電子顕微鏡(TEM ARM-200F)
サブミクロン〜ナノスケールでの組織観察・結晶構造解析・元素分析、3次元形状解析に用います

ICP質量分析計(Elan DRCII)
主にリチウム・ホウ素の迅速元素濃度分析に用います
集束イオンビーム(FIB SMI4050)
数センチ大の試料の微細加工やTEM用薄膜作製に用います
フェムト秒レーザー(IFRIT)
ICP質量分析計に接続することで、微小領域(30 μm)の迅速元素濃度分析が行えます
集束イオンビーム(FIB SMJ4000L)
1-2mm程度大の試料の微細加工と走査電子顕微鏡観察に用います
NanoSIMS TEM

TEM, FIBについての詳細はこちらをご覧下さい。



メンバー


石川 剛志 上席研究員

清水 健二 主任研究員

牛久保 孝行 主任研究員

若木 重行 招聘主任研究員