YK13-02航海の目的をもういっちょ紹介する!編

2013/02/20

川口 慎介(海洋研究開発機構 海洋・極限環境生物圏領域)

【ちっちゃな頃から悪ガキで】
「共生」って,いつからはじめるんでしょうかね。だってね,スケーリーフットもアルビンガイも,はじめは受精卵っていう1つの細胞なわけですよ。まさか受精卵が隣にある微生物細胞をチューチュー吸って栄養をとることで,細胞分裂を繰り返して大人の生物に成長していくってことは,ありえないでしょう(完全には否定できませんが)。そこはやはり,人間の子供がへその緒からの栄養で育ち,乳を飲み,やがて乳離れするように,個体の成長段階ごとに栄養の取り方を変えていると考える方が,妥当な気がするわけです。つまり,最初はなんらかの方法で栄養を取りつつ受精卵が細胞分裂を繰り返し,そのうち各器官が発生し大人の個体へと成長し,その過程のどこかの段階でエラや食道といった器官に共生菌を獲得し,共生菌から栄養を取る方式へと路線変更していると想像されるわけです。そうです。つまりこれが『腹足類の発生と共生菌獲得過程の解明』という課題名の示すものです。

アルビンガイはエラに共生菌を保持していますが,スケーリーフットは食道に共生菌を保持しています。なぜ種ごとにこういった違いが起こっているのかは,わかっていません。もしかすると,スケーリーフットがウロコの足を持っていることと何らかの関係があるかもしれませんが,ないかもしれません。共生菌は熱水に溶けている化学成分を食べますから,宿主(アルビンちゃんやスケ君など)の体の中でも,熱水に触れやすく,かつ宿主が共生菌を食べやすい場所に置いておくことがキモなんじゃないかと想像しますが,わかりません。まだまだわからないことだらけなのです。

『腹足類の発生と共生菌獲得過程の解明』とはつまり,大人の個体のみならず,子供の個体も合わせて成長段階を網羅するように採取し,それぞれの成長段階における器官の発生や共生菌獲得の有無を調べることで,そこから腹足類がどのような一生を過ごしているのかを類推することなのです(たぶん)。


写真:揺れの激しい首席部屋より居心地の良いラボで眠る西澤首席