シンポジウム参加者からの質問と回答

こちらは、シンポジウムにご来場下さったお客様からお寄せいただいた質問とその回答を公開しています。

「質問内容」は、頂いた質問票からニュアンスを損なわないよう、ほぼ原文どおり掲載しております。
本回答には、回答者の個人的な見解が含まれます。誠意をもってお答えしておりますが、不正確な部分があるかもしれません。 ご意見・ご質問はシンポジウム事務局(E-mail)までお寄せください。
荒木 文明
EXTRAWING-あたらしい地球科学情報の共有のために-
Q 研究者から社会の人々へ、直接伝えるのは、難しい。可視化だけでは、理解不能な画像はたくさんある。なぜ、可視化すれば伝わると思うのですか? A 可視化はデータ解析手段にもちいるだけでなく、視覚表現を工夫することで研究結果を直感的に把握しやすくすることにも一役買います。しかし、もちろん可視化画像それだけですべてが伝わるというわけではありません。その意味を、言葉や文章など、別の手段で情報を伝えることももちろん大切です。
EXTRAWINGのwebページには研究で得られた現象の3次元的な全体像を簡単な操作で自由に観察することができる3D表示と同時に、その3Dシーンに合わせた解説を表示する機能も用意されています。現象の具体的な特徴を捉えられるように可視化された視覚情報と平易な解説文の両方を組み合わせてその意義を伝えることで、よりよい理解の促進につながることを期待しています。
Q EXTRAWINGは、公開されている情報は日本域だけですか?全世界は? A 現在は日本近海の地域のみですが、世界の様々な地域に関する研究結果の情報発信についても現在計画を進めています。
金田 義行
防災科学情報発信のあり方
Q 深海底に地震計が設置されておられますが、これは震源域の近くに設置してあるため、地震の横ゆれであるS波が到達する前に大・巨大地震がくるという予報に役立つといわれますが、予報がでた時は既に横ゆれが伝搬していることが多いと思います。この点をどう考えたらよいでしょう。 A 震源の位置にもよりますが、海溝型巨大地震に関してはS波に関しては少なくとも十数秒の猶予時間があると考えます。その場合、警報のあとに横揺れが来ると想定されます。
Q 例えば初期微動継続時間が30秒あると約200KM離れているところとなり、震度は3程度でないでしょうか。 A 短周期地震動の場合はそうですが、長周期地震動の場合は初期微動(短周期)の震度とは評価が少し異なります。長周期地震動は減衰が少なく、変位量や継続時間(南海トラフではおよそ10分から15分規模で揺れていると想定しています)を考慮した被害想定が必要不可欠です。
Q 時間がないということで見せていただけなかったシミュレーション動画を見せて欲しい。 A この点は可能ですが、具体的にはどのように?
(APL補注)「例えば単にWEB上で公開する」では不十分である、というのが、本シンポジウムで得られた教訓です。APL・JAMSTECとして、今後の活動を通じて、伝える方法を検討していくべき課題です。
Q 大地震や火山噴火が連続するのは事実でありますが、その連動メカニズムは解明されていないと思いますが、、、? A はい、その通りです。
ただし、太平洋プレートやフィリピン海プレートを介していろいろな応力・ひずみの蓄積・開放過程のメカニズムを理解するモデル(初期的なものではありますが)があるので、それらをより高精度化することで理解の推進を図っていきます。
また、観測網の整備による各種のデータの活用も期待できますのでモデルと観測データとの総合解析が今後の課題です。
池辺 靖
協創社会を目指した創造的対話
Q 未来館のコンセプトとして3つ挙げていましたが、このような文言は、既に多項目で用意されていらっしゃるでしょうか。コミュニケーション分野で他にありましたら、是非、教えて頂ければと思います。 A よろしければ、「日本科学未来館とは」(PDF, 未来館ホームページ)の5頁をご覧下さい。詳細が書かれております。
Q 政府が民意を無視して走る時それをどう防ぐか、その手出しをどうお考えか? A これまで民意は主に選挙によって示されてきましたが、これからは明確な民意を住民対話の中からつくり、政策決定プロセスにおいて参照される仕組みを構築することが必要だと考えます。2012年の夏に行われた「エネルギー環境の選択肢に関する討論型世論調査」は、そのような民意づくりのひとつの試みでしたが、手法的な改善がまだまだ必要と思われます。
Q ミクロな対話に研究者も入るべきか?マクロから加わるのか? A "ミクロな対話"はface to faceで意見を交換しあう場を意味しています。研究者も当然、ミクロな対話に参加して、個人として変化することが重要だと考えます。異なる分野間のマクロな対話には仕組みが必要ですが、その本質はミクロな対話によって個人が変化することの重ね合わせによって実現すると考えています。
小出 重幸
福島原発事故のコミュニケーションの失敗と、社会の混乱
Q 今回講演された「福島原発事故のコミュニケーションの失敗と、社会の混乱」の内容の出版物またはネットで読むことは出来るでしょうか。 A シンポジウムのHPに掲載されると思います。
Q 英国のシステム(政府が設置する専門家委員会)は有効だろうが、日本で同様のものがすぐに 始められるとは思えない。当面、考えられるのは専門家が自主的に形成する委員会であろう。このアイデアをどうお考えか A 専門家が、領域を超えて価値を判断することができれば、それがなり立つと思いますが、「専門以外のことを触れるのも、他人がやるのも、いやがる」日本の専門家社会が、いつ、そこまでたどり着くのが、未知数です。
Q 福島原発事故の行政側および東電の不作為に対する責任をとえないのですか。(原子力安全保安庁等) A 十分問えると思います。告発もされ、検察庁も捜査中です。
Q 事故後原子力ムラ(メディアも含んでいたと思いますが)は解消に向かっていますか A 「原子力業界の不信感を回復させる」という根本の理念が、まだできていません。これが第一歩だと思います。それには何よりも、東京電力がアカウンタビリティ・情報開示へと、舵を切らなければ、電事連・原子力業界・経産省・文科省、いずれも動けない、というのが実情です。現在の中途半端な意識意識で取りかかれば、必ず同じ破綻を繰り返すと思います。
Q トップの人間力が重要との事。安部首相の時に3.11が発生したら事故収拾は全く異っていたと思われますか? それとも、官僚組織・東電の体質が一番重大でトップの問題ではなかったのでしょうか? A もう少し、官僚が動きやすかった分だけ、情報の開示も早かったと思いますが、事故の技術的処理は、大差ないと思います。
Q 大衆に分かりやすく伝えるのは重要です。科学者、技術者がうまく伝えられなかったのは事実ですが、それをホンヤクして伝えるのは、あなたたちの仕事のひとつではないですか? 科学者、技術者が市民の言葉で伝えられるのであれば、インターネットが普及した現代において、マスコミが不要であると言っているように聞こえます。 A 英国では、科学者個人、メディア、科学者ソサエティ、政府、市民社会、教育界――などが、連携を取って、はじめてコミュニケーションが可能になりました。メディアだけが音頭を取っても十分な効果がない、あるいは変わらないのは、これまでの歴史に見られるとおりです。
市民に科学リテラシーが必要であると同時に、研究者・技術者にも社会リテラシーが求められています。さらに、「生活言語」に近い英語での説明と、これからかけ離れた日本語での科学・技術用語の説明、この大きな言語文化の落差も、考えなければなりませんね。
Q 「福島原発事故の結果」として 「20-30KM住民避難、居住制限」と提示なさっているが、飯館村は45km(F1)以上離れたところも居住制限区域となっているので、数字をかえるか補足説明が必要と思います。 A そのとおりですね。飯舘村などのケースは、もっと広く「地域社会の崩壊」の被害として、正面から評価しなければならないと思います。
Q 「ミドルメディア」はどのようなイメージですか? facebook,twitter は、そこに含まれるのですか? A ミドルメディアは、これまでのソーシャル・メディアとは、少し性格が違います。
社会と科学のはざま、トランス・サイエンス領域で起こる混乱、行き違いの原点に何があるのかをさぐるため、「ミドルメディア・シンポジウム」 を開き、当事者からじっくり話しを聞くとこを通して、混乱の原因や、それを解決するための智恵を見いだすプロジェクトです。
その後、ここで得 られた智恵やメッセージを、編集作業を経てホームページで伝え、「情報の救急箱」的なデータベースとして発信して行く、遅延性のメディアで す。facebook,twitterのように「リ アルタイム」でのレスポンスを重視していません。
Q コミュニケーションの失敗における行政の責任と科学者、技術者の責任、その構造の分析と問題点の指摘、いずれも鋭く興味深く拝聴しました。ただ、そこにメディアの責任という観点、議論はややうすかったように思います。あのときのコミュニケーションにおいてメディアの責任は どうであったと見るか?またこれからのコミュニケーションに おいてメディア、科学者、技術者、行政がそれぞれどう(協力しながら)役割を果たすと良いだろうか?をお伺いしたいです。 A このスライドも用意していましたが、お話をする時間の余裕をいただけませんでした。これだけで1回のパネルが成りたつくらい、大きな課題を抱えている問題です。
さらに「マスコミ」と一口にいっても、「報道」と「娯楽」があり、まずこの区別からステップを追って評価する必要があると思います。考えるべきいくつもの入り口があり、短い文章ではむずかしいですね。また、パネルがあればお話しし、皆さんと一緒に考えたいと思います。
それぞれがどのように協力するか、こうしたコミュニケーションは日本では始まったばかりの試みで、まだ、人材もほとんどいません。困ったことです。やはり、数十年後をにらんで、教育に傾注することが一番の早道だと思います。
Q その後、日本に危機対応の仕組みは変更してきているのでしょうか? A ものごとの根本に戻って考える――National security of energyという視点から考え直すような動きは、まだ見られず、残念です。他国のメディアなどはみな、日本のNational security of energyのことを心配していますが……。
河野 健
全球海洋観測網から得られる海洋環境変化
Q 今から数千年前の間氷期といわれる縄文海進では現在の海水面より数M上昇しており、現在は氷期に向かっているものと地質学上は考えられる。そこで、現在の地球温暖化は社会生活上の問題で氷期・間氷期とは関係していないものでしょうね。 A 現在の地球温暖化は、過去の氷期・間氷期のサイクルのような「自然変動」ではなく、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)による第4次評価報告書にあるように、人為起源の温室効果ガスの増加によってもたらされた可能性が非常に高い、と考えられています。
Q 北極海の様子は、船が行けないのに、どう測っているのですか。 A 船による観測は時期や場所によって可能です。例えば夏期に氷がとける場所では、海洋地球研究船「みらい」のような耐氷機能をもつ船舶で観測できますし、砕氷船によればある程度氷結していても観測可能です。この他にも人工衛星による観測や海中係留、海氷に穴を空けて観測するなどの方法によってデータを得ています。
山本 啓之
生物と生態系、海洋から伝えるべきこと
Q OBISなどで、世界から収集されたデータの精査方法は? A データベースでは、寄託されたデータはそのまま受け取り、登録するのが原則です。ただし、生物名については確認作業をします。生物の名前は、分類基準が変わると新たな名前に付け替えられることがあります。DNAのデータが生物分類の基準に採用されてから、分類体系には多くの変更がありました。分類群が再編されて名前も変更された生物もいます。この場合、名前が変更されたという記録とともに、古い名前もデータとして残されます。この履歴を消してしまうと、昔の文献を探すことができなくなります。
データベースの記録には、信頼度に欠けるものが混入します。信頼度に欠ける場合、管理委員会などで内容を確認して削除することもあります。問題があるデータの発見は、管理者よりもユーザーからの指摘に頼る割合が多くなります。
生物多様性を維持しながら海洋の生態系サービスを持続的に利用するために、生物と生態系および社会学と経済学の専門家が事例研究を重ねています。例えば、里山あるいは里海などの事例から、最適な方法を見つけようとしています。また事業者自身が維持するための試行を始めています。生態系と生物多様性の経済学(TEEB)の研究と実践はインターネット上でも紹介されています。研究者だけの課題ではなく、実践され始めています。陸に比べると海はこれからという感じがします。

参照サイト: など
Q 生物多様性・海底ゴミなど、浮き彫りにされてきた問題への解決方法の提案をさらに教えてください。 A 海底ゴミについては、回収の見込みはありません。瀬戸内海の水島地域あるいは大津波後の三陸沖などでの海底ゴミの除去という例はありますが、それは底引き漁船の漁業回復を対象にしており、水深が深くなれば放置するしかありません。技術よりも経費の問題になります。私たちがとり得る方策は、捨てないことしかありません。