海底地震とその後にやってくる津波。人類はその防ぎ得ない自然現象の姿を捉えようと長年挑戦してきた。「ちきゅう」が採取した岩石サンプルは地震と津波の発生メカニズム解明に寄与し、地震研究に新たな知見を与えると期待される。有機物の一種ビトリナイトに着目し、プレート沈み込み帯先端での地震発生の痕跡を世界で初めて発見した地球内部ダイナミクス領域の坂口有人博士に聞く。
(2011年11月 掲載)
取材協力 坂口 有人 博士 地球内部ダイナミクス領域(IFREE) 技術研究主任 |
地震の常識を覆す証拠を発見
100年から150年ごとにマグニチュード8クラスの巨大地震が発生する南海トラフ。海側のフィリピン海プレートが陸側の大陸プレートの下に沈み込む際のエネルギーが巨大分岐断層に蓄えられ、限界に達すると断層が一気にずれて大地を揺るがす――これが現在考えられている東南海地震発生のシナリオである。しかし具体的には、数ある断層の中で、どれがいつ活動するのかはほとんどわからないままである。
「ちきゅう」が採取した岩石サンプルの一つに、巨大分岐断層の表層部分サイトC0004を掘削した試料がある。この試料に摩擦熱の痕跡が見つかれば、この断層が地震を起こしたことが立証できると、坂口有人博士は考えた。
「断層が一気にずれたとき、その表面は摩擦熱で瞬間的に300度から400度に達しますから、一部の有機物は変質します。ということは、採取した試料の中の有機物を調べて、熱による変質の痕跡が見つかれば、ずれが発生したことの“物的証拠”になるわけです」
坂口博士が注目した有機物は石炭の一種であるビトリナイト。もしも断層が高速でずれたら、その部分のビトリナイトは摩擦熱で炭化が進む。変質した部分は光の反射率が変わるため、試料の反射率を測定すれば、摩擦熱が生じたかどうかが明らかになる。
石炭の組成調査などでビトリナイトの反射率を使うことはあるが、今回は試料中のサイズがケタ違いに小さいため、坂口博士は独自に測定器を製作している。1日8時間かけて測定できる試料はわずかに2cmと、気の遠くなるような作業。しかし、着実に成果は現れた。明らかな痕跡が見つかったのである。
- |1|
- 2|