地球発見 まだまだ知らない「ちきゅう」がある。

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あらゆる状況を想定し、対策を講じる

 船上代表の役割は船の上だけではない。「研究航海が行われる全ての作業を事前に検討し、状況に応じてどんな装置が必要か考え、開発するのも大切な仕事です」と説明するように、安全に作業が進行するように、運航前に掘削の計画を細部にわたって練るのも重要な役割だ。ちきゅうでは、黒潮の強い潮流を受ける海域や、プラスチックが溶けるほど高温の海底熱水鉱床などさまざまな場所で掘削する。そのため、その場所や状況に応じた技術を開発したり、特別な部品をあつらえたりする必要がある。「状況に応じて方法や装置に工夫をすることが、掘削の新しい可能性につながります。とてもやりがいがあります」。

猿橋具和「ちきゅう」OSI(船上代表)

 4月から行われる予定の東日本大震災震源域掘削計画は、水深7,000mの海底下を1,000m掘削する。科学掘削ではいままでに経験した事がない最大の深さだ。それゆえ、通常の掘削とは違う未知の課題がたくさんある。その課題を克服するため、対策を考えている。 「まず、懸念されるのはドリルパイプ(掘管)の使用限界です」。ドリルパイプとは鋼材でできた管のことで、このドリルパイプをちきゅうから7,000mの海底まで下ろし、海底下を掘り進むさなければならない。ドリルパイプが海底に到達したところから、1,000mを掘り進むが、水深が深くなればなるほど、潮流や波による船の振動のドリルパイプに対する影響が大きくなる。しかも7,000m分のドリルパイプは相当重く、海底に接する一番下のドリルパイプにかかる重量は400トンにもなる。このような状況では、ドリルパイプの性能に限界がきて、損傷するかもしれない。ドリルパイプの耐久試験を行ったり、より強度の高いドリルパイプの購入を進めたりしているところだ。地下を掘り始めたとしても、地表より先は掘ったことがないので、地層が固いのかやわらかいのかもわからない。「あらゆる状態を想定し、対策を講じるしかありません」。
 通常、掘削中の位置の確認は、ちきゅうに搭載される無人探査機から送られてくる映像を使う。しかし、無人探査機は水深3,000mまでしか潜れないので、今回の掘削には使えない。そこで、Under Water TV (水中テレビ)を使うことにした。パイプに伝わらせてカメラを海底に送り、作業を確認する。あらゆる位置に移動できる無人探査機と違い、上下にしか移動できない水中テレビは視野も限られる。また、水中テレビを水深7,000mまで下ろすのにも相当な時間がかかる。水中テレビの機能を改善するとともに、効率よく海底下に下ろせるような装置も開発している。「何より重要なのは安全に運航を行うことです」と4月の掘削出発前の準備にも余念がない。