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2008年02月05日
独立行政法人海洋研究開発機構

統合国際深海掘削計画(IODP)
地球深部探査船「ちきゅう」による南海トラフ地震発生帯掘削計画(速報)
〜平成19年度第3次研究航海の結果について、今年度の南海掘削を終了〜

1. 概要

海洋研究開発機構(理事長:加藤康宏)の地球深部探査船「ちきゅう」は、平成19年9月21日から、初めての科学掘削航海となる統合国際深海掘削計画(IODP)(※1)「南海トラフ地震発生帯掘削計画」(南海掘削:NanTroSEIZE)を紀伊半島沖熊野灘において実施しておりましたが、平成20年2月5日に第3次研究航海が完了し、今年度の南海掘削を終了いたしましたので、その結果概要をご報告します。

2.第3次研究航海の実施内容

平成19年12月19日から平成20年2月5日までの全49日間、南海トラフのプレート境界断層、岩石の変形破壊過程とその広がり、断層帯の物性を包括的に調査することを目的として、掘削により海底下から柱状地質試料(コア)の採取を実施しました。

本研究航海における共同首席研究者は、木村学(東京大学大学院理学系研究科教授)とエリザベス・J・スクリートン(米国フロリダ大学地質科学学部准教授)で、10カ国・全26名の科学者が乗船し研究を実施しました。

3.第3次研究航海の結果

本研究航海では、南海トラフの付加体(※2)中央に位置する巨大分岐断層の浅部(掘削地点C0004とC0008)と、付加体先端に位置するプレート境界断層前縁部(掘削地点C0006とC0007)の4地点(図1参照)において、計13カ所で掘削を行い、断層帯のコアを直接採取することに成功しました。各掘削孔の結果概要は別添の通り。

掘削地点C0004は、巨大分岐断層が付加体斜面上まで延びていることが予想されていました。本研究航海では、巨大分岐断層の活動履歴や、津波を引き起こした過去の斜面崩壊についての情報を記録している地層をはじめて掘削し、巨大分岐断層の浅部からコアを直接採取することに成功しました。変形破壊の痕跡やプランクトン化石分析による地質年代の逆転が観察されたことから、このコアは、断層の複雑な変形破壊作用の履歴を記録していると考えられます。

また、南海トラフの付加体先端に位置する掘削地点C0007でも、プレート境界断層を貫いて掘削し、断層のコアを採取することに成功しました。採取されたコアの一部は、断層のすべりによって100万年以上の地質年代の逆転を示していました。また、断層の活動などによって生じた岩石の変形破壊作用を確認しました。

船上では、採取したコアから5,000以上のサンプルを採取しました。今後、乗船研究者が進める詳細な研究により、南海トラフのプレート沈み込み帯の発達過程と巨大地震・津波発生のメカニズムを解明する重要な知見が得られることが期待されます。

5. 今後の行動予定

「ちきゅう」は2月12日(火)に新宮港を出港し、高知新港(高知県高知市)で高知コアセンターへのコアの積み下ろし作業を実施する予定です。

2月12日(火)  新宮港出港
2月13日(水)  高知新港入港 コアの積み下ろし作業等
2月14日(木)  高知新港出港
(※上記の予定は海気象等の状況によって変更することもあります。)

なお、本科学計画では、和歌山県新宮市の新宮港と三重県度会郡南伊勢町の宿田曽漁港に支援基地とヘリポートを開設しておりましたが、「ちきゅう」の科学掘削が再開される平成20年秋まで一旦閉鎖する予定です。この間においても、海難事故など緊急事態の発生の際にヘリポートが利用できるよう調整を進めております。

(※1)
統合国際深海掘削計画(IODP:Integrated Ocean Drilling Program)
日・米が主導国となり、平成15年(2003年)10月から始動した多国間国際協力プロジェクト。現在、欧州、中国、韓国の21ヶ国が参加。日本が建造・運航する地球深部探査船「ちきゅう」と、米国が運航する掘削船を主力掘削船とし、欧州が提供する特定任務掘削船を加えた複数の掘削船を用いて深海底を掘削することにより、地球環境変動、地球内部構造、地殻内生命圏等の解明を目的とした研究を行う。

(※2)
付加体
駿河湾から東海沖-紀伊半島沖-四国沖-九州沖まで続く南海トラフ(トラフとは海底の細長い凹地を指すが、ここでは海溝を意味する:長さ約770km程度)は、南からフィリピン海プレートが、西南日本の地下に沈み込んでいくところである。南海トラフでは海洋のプレートの上に堆積した堆積物(一部火成岩も)が剥ぎ取られ、陸側のプレートに付加していく地質現象が起こっている。このプレートの沈み込みに伴い形成された地質体付加体と呼んでいる。付加体の発達は造山運動の基本的なプロセスとして重要であると認識され、また巨大地震の発生場所としても、第一線の研究がなされている。

図1 掘削海域図
(赤点が今回掘削した地点)

写真1 南海トラフで掘削作業を行う「ちきゅう」
(2008年1月21日撮影)

写真2 海底下から採取した柱状地質試料(コア)を船上に回収した様子
(2008年1月21日撮影)

写真3 海底下から採取した柱状地質試料(コア)を扱う技術者
(2008年1月21日撮影)

写真4 船内の研究ラボで柱状地質試料(コア)を観察する乗船研究者たち
(2008年1月18日撮影)

別添資料

掘削・コア採取概要

掘削地点名:C0004(掘削提案地点名:NT2-01I)
緯度(北緯):33°13.0′ 経度(東経):136°43.0′
掘削
孔名
水深
(海面下)
コア採取深度
(海底下)
結果概要
C 2,627.0m 0 mから89.2m
(HPCS)
89.2mから127.2m
(ESCS)
127.2mから135.0m
(HPCS)
斜面海盆と斜面下部堆積物を掘削し、135メートル分のコアを採取。地層の不整合や小断層の痕跡と海溝斜面堆積物の堆積作用の理解が期待される。
D 2,630.5m 0 m から100.0m
(掘削のみ)
100.0mから400.0m
(RCB)
付加体堆積物、巨大分岐断層の上側と、その下の斜面海盆堆積物を掘削し、130.7メートル分のコアを採取。断層の観察と、幅広い種類の断層岩を採取。付加体の内部変形作用と付加体の岩石が斜面海盆堆積物の上に乗り上げるメカニズムの解明が期待される。巨大分岐断層系での逆断層の活動時期と活動規模について新たな知見をもたらすことが期待される。
掘削地点名:C0006(掘削提案地点名:NT1-03B)
緯度(北緯):33°01.0′ 経度(東経):136°47.0′
掘削
孔名
水深
(海面下)
コア採取深度
(海底下)
結果概要
C 3,880.5m 0 m から9.5m
(HPCS)
前縁断層の上盤で堆積物のコアを一本採取。コアから海底面のサンプルを確認できなかったため掘削孔を変更。
D 3,877.5m 0 m から9.5m
(HPCS)
同上
E 3,875.8m 0 m から79.3m
(HPCS)
79.3mから409.4m
(ESCS)
前縁断層上盤での堆積物と、前縁断層に沿って運ばれた、付加体を構成する岩石を掘削し、330.3メートル分のコアを採取。複数の年代逆転と様々な種類の断層岩、断層に至るまでの様々な種類の物質を回収。変形した付加体の内部変形と地殻変動の履歴に新たな知見をもたらすことが期待される。
F 3,875.5m 0 m から395.0m
(掘削のみ)
395.0m から603.0m
(RCB)
前縁断層システムの上盤の古い部分を構成する岩石を掘削し、56.4メートル分のコアを採取。年代逆転をともなういくつかの断層と、様々な種類の断層岩を含む。前縁断層系の上盤での内部変形と地殻変動の履歴に新たな知見をもたらすことが期待される。
掘削サイト:C0007(掘削提案地点名:NT1-03A)
緯度(北緯):33°01.0′ 経度(東経):136°47.0′
掘削
孔名
水深
(海面下)
コア採取深度
(海底下)
結果概要
A 4,081.0m 0m から3.14m
(HPCS)
海底面のコアを一本採取。
B 4,081.0m 3.14m から12.6m
(HPCS)
海底下3.14から12.5メートルのコアを一本採取。作業とコア管理上の理由から掘削孔の名称を変更。
C 4,081.0m 12.6m から43.0m
(HPCS)
43.0mから147.5m
(ESCS)
147.5mから176.0m
(HPCS)
前縁断層沿いに上方に移動した堆積物から59.3メートル分のコアを採取。前縁断層の活動履歴と規模についての新たな知見をもたらすことが期待される。砂などを含む層のコア採取中に、コア採取機器の不具合が発生したため、次の地点へ移動。
D 4,049.0m 0m から175.0m
(掘削のみ)
175.0m から493.5m
(RCB)
隆起してきた海溝堆積物などを掘削し、87.9メートル分のコアを採取。幅広い種類の断層と断層岩、さらに前縁断層の下盤のサンプル採取に成功し、付加体内部の変形メカニズムである圧縮作用と、前縁断層系の地殻変動の履歴に新たな知見をもたらすことが期待される。
掘削地点名:C0008(掘削提案地点名:NT2-10A)
緯度(北緯):33°12.0′ 経度(東経):136°43.0′
掘削
孔名
水深
(海面下)
コア採取深度
(海底下)
結果概要
A 2,751.0m 0mから224.7m
(HPCS)
224.7mから357.7m
(ESCS)
357.7mから掘進なし
(HPCS)
巨大分岐断層のすぐ沖側で斜面海盆の砂と粘土からなる堆積物を掘削し、271.2メートル分のコアを採取。幅広い種類の堆積物と堆積構造が観察され、最近の地質年代期間にわたる付加体の構造的変化に伴う堆積パターンの変化と、この地域の堆積システムについての新たな知見をもたらすことが期待される。沈み込みによって付加体中に取り込まれる以前の、斜面海盆の特徴の理解と、巨大分岐断層の下で採取された同様の物質との比較から、地殻変動による圧縮作用と逆断層の活動を受けた物質の物理状態の時間変化について知見をもたらすことが期待される。
B 2,796.3m 0mから9.5m
(HPCS)
コアから海底面のサンプルを確認できなかったため掘削孔を変更。
C 2,797.0m 0mから139.1m
(HPCS)
139.1mから176.2m
(ESCS)
巨大分岐断層のすぐ沖側で斜面海盆の堆積物を掘削し、189.6メートル分のコアを採取。

※コア採取システムについて
水圧式ピストンコア採取システム(HPCS):

超軟質な地層のコア採取に用いる。ナイフのように鋭い先端を水圧で地層に貫入させ、ドリルビットを回転させずにコアを採取する。

伸縮式コア採取システム(ESCS):

HPCSでは採取が困難な軟質な地層のコア採取に用いる。地層の硬さに応じてバネの力で先端の刃先を調節できる。

回転式掘削コア採取システム(RCB):

中質から硬質な地層のコア採取に用いる。ドリルビットを回転させ地層を削りながらコアを採取する。割れ目の少ない固結した地層に有効。

掘削のみ:

科学目的に合わせてコアを採取せずに掘削のみを実施。

お問い合わせ先:

(「ちきゅう」及び掘削計画について)
海洋研究開発機構 地球深部探査センター
企画調整室長 田中 武男 TEL:045-778-5640
(本航海について)
東京大学 大学院理学系研究科
教授 木村 学 TEL:03-5841-4510
(報道について)
海洋研究開発機構 経営企画室
報道室長 大嶋 真司 TEL:046-867-9193