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2009年04月13日
独立行政法人海洋研究開発機構
独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 加藤 康宏)は、海洋調査船「かいよう」(調査期間:3月10日〜3月31日)により、独自に開発したインド洋小型トライトンブイ(図1)をインド洋(南緯1.5度、東経90度:図2)に設置し、ARGOS-3 システム(注1)対応の海洋観測ブイ用衛星通信機(以下「観測ブイ用PMT-HD」:注2)を搭載したこのブイで、世界で初めてとなるARGOS-3システムを利用した高速データ通信に成功しました。
この通信システムを用いた双方向大容量通信により効率の良いデータ通信が可能となり、詳細な観測データのリアルタイム取得が実現しました。これにより気候変動研究の促進や多くの研究分野への利用拡大、観測ブイデータの効果的な利用の進展が期待されます。
本研究は、文部科学省の受託研究、地球観測システム構築推進プラン「インド洋観測研究ブイネットワークの構築」により進められています。
当機構では、太平洋西部赤道帯域ならびにインド洋東部赤道帯域において海洋観測係留ブイの運用を行っており、洋上のブイからのデータ通信には、アルゴスシステムを利用してきました。しかし、従来のアルゴスシステムではデータ送信容量の制限のため、ブイの取得した全データの送信は出来ず、一定時間の平均値データを送信していました。このため詳細な観測データ(ブイ内部に保存)の入手は、約1年後のブイ回収まで待たなければならない状況でした。
そこで、リアルタイムでのブイデータの高速通信を目指して、ARGOS-3システムの打ち上げ前の早い時期より国産無線通信機メーカと協力し、観測ブイ用PMT-HDの開発に取り組んで来ました。
今回の高速データ通信実現により、リアルタイムでかつデータ解析時に欠測のない連続データを利用することが可能となり、より短いスケールの大気海洋現象の詳細な分析に対応できることが期待できます。
また、通信容量の増大から従来の物理観測に加え化学・生物関連の観測も可能になり、今後多くの研究分野へ利用が拡大することも期待できます。
現在、インド洋には2基のインド洋小型トライトンブイが設置されていますが、今年度はこれに1基追加して、3基に増強されます。これらに観測ブイ用PMT-HDを搭載することにより、重要なデータの迅速かつ確実な取得を進め、インド洋における気候変動研究の促進に貢献をしていきます。
2006年10月打ち上げられた欧州気象衛星機関(EUMETSAT)の地球観測衛星MetOp-Aに搭載されている。今回使用した機能(高速チャンネル(4.8kbps)サービス、双方向通信)は2008年1月から運用が開始された。
これらにより、従来の10倍以上のデータ送信が可能となり、また衛星の軌道情報を各送受信器にダウンリンクすることで、送受信器は衛星飛来予測が可能となり、効率よい通信が行え、さらに衛星上で受信内容のエラーチェックを行って、送受信器側へ結果を返信することで確実なデータ通信が可能となる。
PMT-HD はPlatform Message Transceiver High Data Volumeの略。
ブイからのデータを蓄積する機能、衛星飛来時に合わせて送信する衛星同期機能、衛星との通信データ照合機能、バッテリ消耗を検出してバックアップバッテリに切り替える電源監視機能を有している。データ通信容量は4800bps×4608bit/Packet(従来は200bps×256bit/Packet)、送信出力は5W(従来送信機は1W)。従来通信方式に対して、通信容量で10倍以上、送信出力は5倍になったが、従来送信機が常時発信だったのに対して、PMT-HDでは衛星同期機能により衛星が上空に飛来した時に効率的に通信を行う事で、消費電力は従来送信機の1/3程度に抑えられている。