このプレスリリースには、ジュニア向け解説ページがあります。
2010年 6月 8日
独立行政法人海洋研究開発機構
独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 加藤康宏)の運用する地球深部探査船「ちきゅう」は、建造後5年が経過したことから、平成22年4月1日から6月10日までの予定で定期検査工事を実施しています。「ちきゅう」による本年度の統合国際深海掘削計画(IODP) ※1 研究航海の実施計画が決まりましたので、以下にお知らせいたします。
1. 本年度のIODP研究航海予定
7月15日〜8月8日 | 南海トラフ地震発生帯掘削計画 (NanTroSEIZE: Nankai Trough Seismogenic Zone Experiment)※2 ステージ3 (IODP第326次研究航海) |
9月1日〜10月3日 | 沖縄熱水海底下生命圏掘削-1 (DEEP HOT BIOSPHERE) (IODP第331次研究航海) |
10月25日〜12月12日 | 南海トラフ地震発生帯掘削計画 ステージ2 (IODP第332次研究航海) |
12月13日〜平成23年1月10日 | 南海トラフ地震発生帯掘削計画 ステージ2 (IODP第333次研究航海) |
2. 航海内容
(1) 南海トラフ地震発生帯掘削計画 ステージ3(IODP 第326次研究航海)
1)目的
ステージ3では、巨大地震発生メカニズム解明のため、超深度ライザー掘削※3により、海洋地殻が沈み込むプレート境界面(注)を掘りぬき、海底下の非常に深い場所に存在する巨大地震発生帯を目指します。本研究航海は、この超深度ライザー掘削のため、孔井の基本準備を行います。
(注)海底下6,000〜7,000mと予想されています。
2)実施計画
平成22年7月15日から8月8日までの24日間、C0002地点(【図1】、【図2】、【図3】)において、将来の超深度ライザー掘削孔の基礎部分を開孔し、上部孔井設置作業を行います。
3)研究代表者
調整中
(2)沖縄熱水海底下生命圏-1(IODP第331次研究航海)
1)目的
沖縄トラフ熱水域における熱水噴出孔周辺を掘削し、柱状地質試料(以下、コアサンプル)を採取する事により、熱水活動域の海底下で活動している微生物群集の数および種類、さらにその生態系の実態を世界に先駆けて解明することを目指します。ここで得られる知見は、現在の地球に残された地下圏における生態系の役割を明らかにするとともに、熱水中に高濃度に含まれるメタンの海底下での生成・供給メカニズム、あるいは海底下熱水鉱床の生成と海底下微生物群集の拡がりの関わりの解明に大きく寄与するものと期待されます。
2)実施計画
平成22年9月1日から10月3日までの33日間、【図4】および【図5】に示す各地点において掘削を行います。そのうち、現在熱水が噴出している噴出孔またはその極近傍にあたるINH-1、2、3 の3地点において、最大50mの掘削およびコアサンプル採取を行うとともに、将来の現場培養器設置に備え、ケーシングパイプ(注)を設置します。INH-4地点およびINH-5地点は、熱水活動域の縁辺部にあたり、熱水と海水が海底下堆積物の中で混合する、微生物活動の極めて活発な場所(陸上河川で言えば河口域にあたる場所)と考えられています。この地点ではそれぞれ海底下100m、200mまでの掘削を行い、コアサンプルの採取とケーシングパイプの設置を行います。
(注)掘削孔壁の保護パイプ。今回は、熱水と反応しにくい特殊なステンレス素材を用います。
3)共同首席研究者
高井 研(海洋研究開発機構)
他1名調整中
(3) 南海トラフ地震発生帯掘削計画 ステージ2(IODP 第332次研究航海)
1)目的
巨大地震発生メカニズム解明を目的として、付加体内部の圧力・温度変化を長期間モニターする為の観測機器の設置を行います。
2)実施計画
平成22年10月25日から12月12日までの49日間、C0010地点およびC0002地点(【図1】、【図2】、【図3】)において、下記作業を実施します。
まず、昨年度に掘削した巨大分岐断層最浅部(C0010地点、掘削深度560m)にて、孔内に設置した温度・圧力計の回収を行います。さらに、超深度ライザー掘削孔井地点(C0002地点 別孔井)において、1,000mまでのライザーレス掘削とケーシングパイプを設置します。これらの孔に、簡易型および恒久型の長期孔内観測装置を設置します(どちらの孔にどちらの装置を入れるかは現在検討中)。
3)共同首席研究者
調整中
(4) 南海トラフ地震発生帯掘削ステージ2(IODP 第333次研究航海)
1)目的
巨大地震発生メカニズムの解明を目的として、海洋プレートが陸側プレートに沈み込む直前の地点で表層堆積物の採取を行うとともに、熱流量の測定を行います。
2)実施計画
平成22年12月13日から平成23年1月10日までの29日間、巨大地震発生帯に運び込まれる物質の初期状態の解明を目的として、昨年度掘削を実施した、フィリピン海プレートが沈み込む南海トラフよりも沖合の四国海盆の2地点(C0011地点およびC0012地点(【図1】、【図2】、【図3】)において、地震発生物質に変化する前の起源物質の表層堆積物および海洋プレート基盤玄武岩をライザーレス掘削し、コアサンプル採取を行います。併せて、掘削孔内の地層温度を計測し熱流量の測定作業を行います。また予備サイトとして、付加体斜面の地滑り堆積物のコアサンプル採取を行います。
3)共同首席研究者
金松 敏也(海洋研究開発機構)
Pierre Henry(フランス地球科学環境研究センター)
(注)なお、上記の計画(掘削予定地点、掘削予定深度含む)は、海気象状況、地質状況等により変更することもあります。
(参考)
※1 統合国際深海掘削計画(IODP: Integrated Ocean Drilling Program)
日本・米国が主導国となり、平成15年(2003年)10月から始動した多国間国際協力プロジェクト。現在、欧州(17ヶ国)、中国、韓国、オーストラリア、インド、ニュージーランドの24ヶ国が参加。日本が建造・運航する地球深部探査船「ちきゅう」と、米国が運航する掘削船を主力掘削船とし、欧州が提供する特定任務掘削船を加えた複数の掘削船を用いて深海底を掘削することにより、地球環境変動、地球内部構造、地殻内生命圏等の解明を目的とした研究を行います。
※2 南海トラフ地震発生帯掘削計画(南海掘削:NanTroSEIZE)
(1) 背景
南海トラフは、日本列島の東海沖から四国沖にかけて位置するプレート沈み込み帯で、地球上で最も活発な巨大地震発生帯の一つです。南海トラフの一部にあたる紀伊半島沖熊野灘は、東南海地震等の巨大地震震源と想定される領域(プレート境界断層が地震性すべり面の性質を持つ領域)の深さが世界のプレート境界のなかでも非常に浅く、「ちきゅう」による掘削が可能であると考えられています。
「南海トラフ地震発生帯掘削計画」では、プレート境界断層および津波発生要因と考えられている巨大分岐断層を掘削し、柱状地質試料(コアサンプル)の採取や掘削孔内計測を実施することにより、プレート境界断層内における非地震性すべり面から地震性すべり面への推移、および南海トラフにおける地震・津波発生過程を明らかにすることを目的としています。
(2) 全体計画
本計画は、全体として以下の4段階(ステージ)に分けて掘削する計画で、紀伊半島沖熊野灘において南海トラフに直交する複数地点を掘削する計画です(【図3】)。
ステージ1
巨大分岐断層やプレート境界断層の浅部などで掘削を実施しました。地層の分布や変形構造、応力状態など、地震時に動いたと考えられる断層の特徴を把握しました。(成果については(3))
ステージ2
巨大地震発生帯の直上を深部まで掘削し、地質構造や状態を明らかにします。掘削した孔内には後年に観測システムを設置し、地震準備過程をモニタリングします。また、プレートとともに地震発生帯に沈み込む前の海底堆積物の組成、構造、物理的状態を調査します。(成果については(4))
ステージ3
巨大地震を繰り返し起こしている地震発生帯に到達する超深度掘削を実施します。地震発生物質試料を直接採取し、物質科学的に地震発生メカニズムを理解します。
ステージ4
長期間にわたり掘削孔内で地球物理観測を行うシステムを超深度掘削孔に設置します。将来は、地震・津波観測監視システム(DONET)と連携し、地震発生の現場からリアルタイムでデータを取得します。
(3)ステージ1(平成19年9月21日〜平成20年2月5日)の成果
平成19年に「ちきゅう」は、初めての科学掘削航海となるIODP「南海トラフ地震発生帯掘削計画」ステージ1を紀伊半島沖熊野灘において実施しました。全3研究航海を通じて掘削同時検層(LWD: Logging While Drilling)5サイトの計測、6サイト合計約3,400mの試料採取掘削、全体で33孔、約12,800mの掘削を実施し、地震発生帯浅部の応力場の把握、メタンハイドレート層の発見、断層活動の履歴の把握等の成果を挙げました。
(4)ステージ2(平成21年5月10日〜平成21年10月10日)の成果
引き続き、平成21年にステージ2を紀伊半島沖熊野灘において実施し、大水深(水深2,054m)におけるIODP史上初のライザー掘削(海底下掘削深度:1,603.7m)の成功をはじめ、所期の目的を達成しました。全2研究航海を通じて掘削同時検層(LWD)2サイトの計測、3サイト合計約594mの地質試料採取掘削、全体で6孔、約5,100mの掘削を実施し、熊野海盆の堆積物やその下の付加体の特徴および孔井の状態の把握、巨大地震発生帯に運び込まれる初期堆積物と基盤岩の特徴の解明等の成果を挙げました。また、将来予定されている長期孔内計測装置設置に向けた準備を行い、簡易測定器を孔内に設置しました。
※3 ライザー掘削
「ちきゅう」と海底の掘削孔を連結したパイプ(ライザーパイプ)の中をドリルパイプが通る二重管構造での掘削方法。ライザーパイプとBOP(噴出防止装置)を用いて、泥水循環掘削(泥水で孔壁を保護し、地層圧力とバランスを取りながら行う掘削)を行うことで、掘削孔の崩れを防ぎ、より深くまで安定して掘削することを可能とします(【図6】)。