2010年 9月 22日
独立行政法人海洋研究開発機構
独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 加藤 康宏)の海洋地球研究船「みらい」は、北極海での海洋構造の形成過程とその変化、貯熱量、淡水量変動等を明らかにするために研究航海(9月2日から10月16日まで)を実施しておりますが、北極海チャクチ海(図1)に設置した係留系(※1、図2)の回収ができず亡失しました。今後、このような事象が発生しないよう十分な対策を講じたうえで、北極海における観測を継続したいと考えています。
1.概要
北極海チャクチ海には、4つの係留系を設置しており、これらの係留系を本航海で回収する予定でした。
しかし、20年度にバロー海底谷に、設置した3係留系(図1の(1)〜(3):BCW、BCC、BCE)について、切り離しを試みましたが、回収できませんでした。これらは、昨年10月にも応答確認ができていませんでした。当該海域は9月15日から来月中旬まで捕鯨が行われる予定で入域することができなくなることと、今後風が強くなるなど海況も厳しくなることから、回収を断念せざる得ないと判断いたしました。
また、21年度から、同海の異なる地点に設置している係留系(図1の(4):ESS)については、船舶から切り離し信号を送信しましたが、反応がなく、掃海作業(※2)をおこなったものの、回収できませんでした。今後は、結氷期に入り海氷が形成されることや風が強くなるなど海況も厳しくなることから、回収を断念せざる得ないと判断いたしました。
2.原因
バロー海底谷に設置した3係留については、同時期に他機関が設置していた係留系3系も回収できず、うち1系は1kmほど北東に流されていたところで発見されており、海底の堆積物の流れなどの強い流れで、係留系全体がシンカーごと流失したか、切り離し装置より下の部材が破断したと考えられます。
3.対応
昨年10月の段階で対応の必要性があると考え、検討した結果、今後設置する係留系について、海底の堆積物を含む流れなどの強い流れに対しては、シンカーをより重くするとともに形状を変更して設置場所における流れに対する抵抗を増やしました。部材の破断に対しては、チェーンやワイヤー等をより強度の高いものに変更しました。また、これらの対応でも不十分だったときに備え、位置確認のためのアルゴス位置発振装置を浮力体へ取り付け、流された場合においても位置確認ができるようにしました。
この係留系を用いることによって、今後は、海底の堆積物の流れなど強い流れがあっても、係留系を亡失する可能性は低くなります。
バロー海底谷については、太平洋水が北極海内部に注ぎ込む本地点は研究上重要な観測点であることから、今後も同海域で係留系の設置を継続していきたいと考えており、今回BCCとBCEにこの係留系を設置したところです。
※1 海洋構造の形成過程とその変化などを調査するために、水温や塩分、海流などのデータを取得するセンサーを取り付けた観測システムで、海底に設置し、浮力体で立ち上げている。1年から2年で、回収と再設置を行い継続してデータを取得している。切り離し装置の電池の寿命は2〜3年。
※2 係留系を絡め取る絡み索を先端に取り付けた特殊なワイヤーを曳航し、ワイヤーを絞り込むようにして係留系に絡めて回収する作業