プレスリリース


2010年 10月 22日
独立行政法人海洋研究開発機構

統合国際深海掘削計画(IODP)第332次研究航海の開始について
〜南海トラフ地震発生帯掘削計画ステージ2 ライザーレス掘削による長期孔内観測装置の設置〜

この度、統合国際深海掘削計画(IODP:Integrated Ocean Drilling Program)(※1)の一環として、「南海トラフ地震発生帯掘削計画ステージ2 ライザーレス掘削による長期孔内観測装置の設置」(別紙参照)を実施するため、海洋研究開発機構(理事長 加藤 康宏)が提供する地球深部探査船「ちきゅう」の研究航海が10月25日から開始されます。

第332次研究航海「ライザーレス掘削による長期孔内観測装置の設置」は、巨大地震発生メカニズムの解明のため、紀伊半島沖熊野灘において掘削を行い、長期孔内観測装置を設置することを目的としています。日本から共同首席研究者を含む3名が乗船するほか、米国、欧州からも含め、計8名が乗船研究者として参加する予定です。

※1 統合国際深海掘削計画(IODP:Integrated Ocean Drilling Program)

日・米が主導国となり、平成15年(2003年)10月から始動した多国間国際協力プロジェクト。
現在、欧州、中国、韓国、豪州、インド、NZの24ヶ国が参加。日本が建造・運航する地球深部探査船「ちきゅう」と、米国が運航する掘削船ジョイデス・レゾリューション号を主力掘削船とし、欧州が提供する特定任務掘削船を加えた複数の掘削船を用いて深海底を掘削することにより、地球環境変動、地球内部構造、地殻内生命圏等の解明を目的とした研究を行う。

別紙

南海トラフ地震発生帯掘削計画ステージ2 ライザーレス掘削による長期孔内観測装置の設置

1. 日程

平成22年10月25日
和歌山県新宮港にて乗船(10月28日出港予定)
熊野灘にて掘削および長期孔内観測装置の設置を実施
平成22年12月12日
洋上にて掘削航海終了
(研究者は12月13日にヘリコプターにて下船)

なお、気象条件や調査の進捗状況等によって変更の場合があります。

2. 日本から参加する研究者

氏名 所属/役職 乗船中の役割
荒木 英一郎 海洋研究開発機構/技術研究主任 共同首席研究者
北田 数也 海洋研究開発機構/技術研究副主任 孔内観測スペシャリスト
木村 俊則 海洋研究開発機構/技術研究副主任 孔内観測スペシャリスト

3. 研究および掘削の概要

「南海トラフ地震発生帯掘削計画」は、プレート境界断層および津波発生要因と考えられている巨大分岐断層を掘削し、地質試料(コア・サンプル)の採取や掘削孔内計測を実施することにより、プレート境界断層内における非地震性すべり面から地震性すべり面への推移及び南海トラフにおける地震・津波発生過程を明らかにすることを目的としています。

本研究航海では、昨年度に掘削した巨大分岐断層最浅部掘削孔(C0010サイト【図1】、【図2】、【図3】、水深約2,500m、掘削深度560m)内に設置した温度・圧力計の回収および新たな観測装置の設置を行います。さらに、巨大地震発生帯掘削孔井サイト(C0002)において水深約2,000mの海底から1,000mのライザーレス掘削(【図4】)および掘削同時検層(LWD)(※2)を新たに行います。その後、ケーシングパイプを設置し、恒久型の長期孔内観測装置を設置します。

4. 南海トラフ地震発生帯掘削計画(南海掘削:NanTroSEIZE)の全体計画

本計画は、全体として以下の4段階(ステージ)に分けて掘削する計画で、紀伊半島沖熊野灘において南海トラフに直交する複数地点を掘削する計画です(【図3】)。

ステージ1

巨大分岐断層やプレート境界断層の浅部(1,400m以浅)のライザーレス掘削を実施し、地層の分布や変形構造、応力状態など、地震時に動いたと考えられる断層の特徴を把握しました。

ステージ2

巨大地震発生帯の直上を掘削し(ライザーおよびライザーレス掘削)、地質構造や状態を明らかにします。掘削した孔内には後年に観測システムを設置し、地震準備過程をモニタリングします。また、プレートとともに地震発生帯に沈み込む前の海底堆積物を掘削しコア試料を採取することで、組成、構造、物理的状態等を調査します。

ステージ3

巨大地震を繰り返し起こしている地震発生帯に到達するライザー掘削を実施します。地震発生物質試料を直接採取し、物質科学的に地震発生メカニズムを理解します。

ステージ4

長期間にわたり掘削孔内で地球物理観測を行うシステムを巨大地震発生帯掘削孔に設置します。将来は、地震・津波観測監視システム(DONET)と連携し、地震発生の現場からリアルタイムでデータを取得します。

※2 掘削同時検層(LWD:Logging While Drilling)

ドリルパイプの先端近くに各種の物理計測センサーを搭載し、掘削作業と同時に現場での地層物性の計測を行う技術。地質試料の採取はできないが、掘削箇所の地層状況を“現場”で連続測定することにより、比較的短期間に地質情報を得ることができる。これらにより、科学情報と共にその後の試料採取掘削等に有用な掘削孔の安全監視及びリスク回避等の情報が得られるため、南海トラフのような複雑な地質構造での掘削には非常に有効である。

図1 南海トラフ地震発生帯掘削計画 調査海域図(本航海の関連掘削孔サイトを赤で表記)
図1 南海トラフ地震発生帯掘削計画 調査海域図(本航海の関連掘削孔サイトを赤で表記)
図2 南海トラフ地震発生帯掘削計画 3D高精度地震探査による掘削海域の海底地形と海底下構造
図2 南海トラフ地震発生帯掘削計画 3D高精度地震探査による掘削海域の海底地形と海底下構造
図3 南海トラフ地震発生帯掘削計画 概要図(本航海の関連掘削孔サイトを赤で表記)
図3 南海トラフ地震発生帯掘削計画 概要図(本航海の関連掘削孔サイトを赤で表記)
図4 ライザーレス掘削とライザー掘削のシステム
図4 ライザーレス掘削とライザー掘削のシステム

お問い合わせ先:

独立行政法人海洋研究開発機構
(IODPについて)
経営企画室 研究企画統括 星野 利彦 TEL:03-5157-3900
(本航海について)
地球深部探査センターIODP推進・科学支援室 科学計画グループ
グループリーダー 菊田 宏之 TEL:045-778-5644
(報道担当)
経営企画室 報道室長 中村 亘 TEL:046-867-9193