プレスリリース


2010年 12月 6日
独立行政法人海洋研究開発機構

統合国際深海掘削計画(IODP)第330次研究航海の開始について
〜ルイビル海山列掘削:ホットスポット移動仮説の検証と
地球化学的進化の解明〜

この度、統合国際深海掘削計画(IODP:Integrated Ocean Drilling Program)()の一環として、「ルイビル海山列掘削:ホットスポット移動仮説の検証と地球化学的進化の解明」(別紙参照)を実施するため、米国が提供するジョイデス・レゾリューション号の研究航海が12月13日から開始されます。

本航海では、これまで全く掘削研究がなされてこなかった南太平洋のルイビル海山列(図1)を世界で初めて掘削し、岩石試料を採取・分析します。主な研究目的はマントル対流によってホットスポットが移動する可能性の検証と、ホットスポットの地球化学的進化を明らかにすることです。日本から共同首席研究者を含む8名が乗船するほか、米国、欧州、中国、オーストラリアからも含め、計27名が乗船研究者として参加する予定です。

※統合国際深海掘削計画(IODP:Integrated Ocean Drilling Program)

日・米が主導国となり、平成15年(2003年)10月から始動した多国間国際協力プロジェクト。現在、欧州、中国、韓国、豪州、インド、NZの24ヶ国が参加。日本が建造・運航する地球深部探査船「ちきゅう」と、米国が運航する掘削船ジョイデス・レゾリューション号を主力掘削船とし、欧州が提供する特定任務掘削船を加えた複数の掘削船を用いて深海底を掘削することにより、地球環境変動、地球内部構造、地殻内生命圏等の解明を目的とした研究を行う。

別紙

ルイビル海山列掘削:マントル対流によるホットスポット移動の検証と
地球化学的進化の解明

1. 日程(現地時間)

平成22年12月13日
オークランド(ニュージーランド)にて乗船
(準備が整い次第出港)
南太平洋ニュージーランド北東沖にて掘削を実施
平成23年 2月12日
オークランド(ニュージーランド)にて下船
(掘削航海終了)

なお、気象条件や調査の進捗状況等によって変更の場合があります。

2. 日本から参加する研究者

氏名 所属/役職 乗船中の役割
山崎 俊嗣 産業技術総合研究所/研究グループ長 共同首席研究者
佐野 晋一 福井県立恐竜博物館/主任研究員 堆積学者
羽生 毅 海洋研究開発機構/主任研究員 無機地球化学者
星 博幸 愛知教育大学/准教授 古地磁気学者
町田 嗣樹 早稲田大学/助手 岩石学者、火山学者
守屋 和佳 早稲田大学/助手 古生物学者
GANBAT,
Erdenesaikhan
東北大学/大学院生(博士課程) 岩石学者
NICHOLS,
Alexander
海洋研究開発機構/研究員 岩石学者、火山学者

3. 研究の概要

1)目的

ホットスポットは、マントル深部から煙突状に立ち上がるマントルの上昇流(広い意味でのプルーム)であり、その上をプレートが移動することにより海底に海山列が形成されます(図2)。1960-70年代にプレートテクトニクスの枠組みが確立した頃は、ホットスポットの位置は不動であるものとされ、過去のプレート運動を知るための基準として用いられてきました。しかし、最近になって、ハワイ・ホットスポットの天皇海山列の掘削結果から、ホットスポット自体が南に移動した可能性が指摘されました。ホットスポットが移動する原因として、マントル対流に影響されてゆらいだとするモデル、コア(核)に対して地殻とマントル全体が一体として回転したとするモデルなど、いくつかの仮説が提案されています。ルイビル・ホットスポットは、ハワイ・ホットスポットと同じ太平洋プレート内にある典型的なホットスポットと考えられています。その軌跡であるルイビル海山列を掘削して、岩石試料を採取・分析することにより、ホットスポットが移動する可能性について検討し、さらにどのモデルで説明できるのかについて検証することが、今回の掘削の第一の目的です。

ホットスポットは、マントル内を上昇する過程で周囲のマントルと反応して進化し、浅部まで上昇した後マグマとなって海底に噴出するため、ホットスポット起源の海山列の岩石から、その下にあるマントルの化学的・熱的情報を読み取ることができます。ここから、ホットスポット起源の火山の形成史やマントルの地球化学的進化を明らかにすることが、今回の掘削の第二の目的です。さらに、海山の頂上を覆う石灰岩を採取して過去の海洋環境に関する研究も並行して実施します。

2)実施計画

約2ヶ月の本航海では、ニュージーランド沖南太平洋のルイビル海山列のうち4つの海山(図1;赤丸)について、約350mづつ掘削する計画です。海山の形成年代は北西に向かって古くなっており、対象とする海山は、約5千万年前〜約8千万年前に形成されたと推定されています。掘削による岩石試料採取の他、掘削孔内にセンサーを降ろして連続的に周囲の岩石の物理・化学的な測定を行う「孔内計測」も予定されています。

ホットスポットの移動は、海山が形成された当時の緯度により調べます。それを知るためには、採取される岩石に記録されている、溶岩が噴出した当時の地磁気(「古地磁気」)の伏角を利用します。掘削船「ジョイデス・レゾルーション号」船上で概略の測定を行い、さらに陸上の実験室に持ち帰ってより詳しい分析を行います。

ホットスポット火山の形成史やマントルの地球化学的進化の研究のためには、採取された岩石の光学顕微鏡による観察を船上で行い、さらに放射年代測定や各種の元素や同位体の測定などの詳しい分析を主として陸上の実験室で行います。

図1 (右上)ルイビル海山列、ハワイ・天皇海山列の位置。(左下)掘削予定地点(赤丸)と予備地点(黄色)

図1 (右上)ルイビル海山列、ハワイ・天皇海山列の位置。(左下)掘削予定地点(赤丸)と予備地点(黄色)

図2 (a) 古典的ホットスポット・モデルによる海山列形成のイメージ(b)アナログ実験による、マントル上昇流(広い意味でのプルーム)のイメージ

図2 (a)古典的ホットスポット・モデルによる海山列形成のイメージ(b) アナログ実験による、マントル上昇流(広い意味でのプルーム)のイメージ

お問い合わせ先:

独立行政法人海洋研究開発機構
(本航海について)
地球深部探査センターIODP推進・科学支援室 科学計画グループ
グループリーダー 菊田 宏之 TEL:045-778-5644
(IODPについて)
海洋研究開発機構 経営企画室
研究企画統括 星野 利彦 TEL:03-5157-3900
(報道担当)
海洋研究開発機構 経営企画室
報道室長 中村 亘 TEL:046-867-9193