2010年 12月 13日
独立行政法人海洋研究開発機構
この度、統合国際深海掘削計画(IODP:Integrated Ocean Drilling Program)(※1)の一環として、独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 加藤 康宏)が提供する地球深部探査船「ちきゅう」の研究航海が12月12日から開始されます。
第333次研究航海は、巨大地震発生メカニズムの解明を目的として、海洋プレートが陸側プレートに沈み込む直前の地点で表層堆積物の採取を行うとともに、熱流量の測定を行うため、日本から共同首席研究者を含む8名が乗船するほか、米国、欧州、中国、韓国からも含め、計25名が乗船研究者として参加する予定です。
※1 統合国際深海掘削計画(IODP: Integrated Ocean Drilling Program)
日・米が主導国となり、平成15年(2003年)10月から始動した多国間国際協力プロジェクト。現在、欧州、中国、韓国、豪州、インド、NZの24ヶ国が参加。日本が建造・運航する地球深部探査船「ちきゅう」と、米国が運航する掘削船ジョイデス・レゾリューション号を主力掘削船とし、欧州が提供する特定任務掘削船を加えた複数の掘削船を用いて深海底を掘削することにより、地球環境変動、地球内部構造、地殻内生命圏等の解明を目的とした研究を行う。
別紙
南海トラフ地震発生帯掘削計画ステージ2 インプット掘削-2および熱流量の測定
1.日程
なお、気象条件や調査の進捗状況等によって変更の場合があります。
2.日本から参加する研究者
氏名 | 所属/役職 | 乗船中の役割 |
---|---|---|
金松 敏也 | 海洋研究開発機構/技術研究副主幹 | 共同首席研究者 |
川村 喜一郎 | 深田地質研究所/主査研究員 | 古地磁気学 |
北村 有迅 | 海洋研究開発機構/ポスドク研究員 | 古地磁気学 |
齋藤 有 | 同志社大学/研究員 | 無機地球化学 |
里口 保文 | 滋賀県立琵琶湖博物館/専門学芸員 | 堆積学 |
長橋 良隆 | 福島大学/准教授 | 堆積学 |
松林 修 | 産業技術総合研究所/主任研究員 | 物理特性 |
山口 飛鳥 | 東京大学/特任研究員 | 構造地質学/岩石学 |
3.研究の概要
巨大地震発生帯の物質がどのような状態であるかを把握することは、地震発生メカニズムを知る上で最も重要な課題であり、これは南海トラフ地震発生帯掘削計画の最大の目標です。巨大地震発生帯では、沈み込みに伴って海洋プレートの構成物である玄武岩とそれを覆う表層堆積物が運び込まれますが、巨大地震発生帯に到達するまでに物質がどのように変化しているのかはまだ解明されていません。巨大地震発生帯を構成する物質がどのようにできあがっていくのかを明らかにすることで、巨大地震発生帯における地震発生のメカニズムを理解し、地震予測研究を進展させていくことが重要です。第333次航海では巨大地震発生帯を構成する物質の初期状態を知るために、昨年行われた第322次航海に引き続き、フィリピン海プレートが沈み込む南海トラフよりも沖合にある四国海盆の2地点(C0011地点およびC0012地点:【図1】、【図2】、【図3】)において、表層堆積物およびその下の玄武岩をライザーレス掘削【図4】し、コアサンプルを採取します。同時に掘削孔内において高解像度で地層温度の計測を行って、物質変化を強くコントロールする熱流量がどの程度であるかを見積もります。
また、付加体斜面には非常に厚い海底地すべり層が堆積しているのが地震反射断面から発見されており、地震時に付加体斜面が崩壊することで海底地すべりが引き起こされ、それが厚く堆積しているものと考えられています。沈み込みに伴って運び込まれる表層堆積物の実態を解明するため、地震に起因する海底地すべり堆積物を掘削し(NTS-1A地点:【図1】)、この地層のコアサンプルを採取、分析します。
4.南海トラフ地震発生帯掘削計画(南海掘削:NanTroSEIZE)の全体計画
南海トラフ地震発生帯掘削計画は、全体として以下の4段階(ステージ)に分けて掘削する計画であり、紀伊半島沖熊野灘において南海トラフに直交する複数地点を掘削する計画です(【図3】)。本航海は本計画のステージ2の一環として行うものです。
ステージ1
巨大分岐断層やプレート境界断層の浅部(1400m以浅)のライザーレス掘削を実施し、地層の分布や変形構造、応力状態など、地震時に動いたと考えられる断層の特徴を把握しました。
ステージ2
巨大地震発生帯の直上を掘削し(ライザーおよびライザーレス掘削)、地質構造や状態を明らかにします。掘削した孔内には観測システムを設置し、地震準備過程をモニタリングします。また、プレートとともに地震発生帯に沈み込む前の海底堆積物を掘削しコア試料を採取することで、組成、構造、物理的状態等を調査します。
ステージ3
巨大地震を繰り返し起こしている地震発生帯に到達するライザー掘削を実施します。地震発生物質試料を直接採取し、物質科学的に地震発生メカニズムを理解します。
ステージ4
長期間にわたり掘削孔内で地球物理観測を行うシステムを巨大地震発生帯掘削孔に設置します。将来は、地震・津波観測監視システム(DONET)(※2)と連携し、地震発生の現場からリアルタイムでデータを取得します。
※2 地震・津波観測監視システム(DONET)
東南海地震を対象としたリアルタイム観測システムの構築および地震発生予測モデルの高度化等を目指し、東南海地震の想定震源域にあたる紀伊半島沖熊野灘に設置中の海底ネットワーク観測システム。従来の観測システムではなし得なかった深海底における多点同時、リアルタイム観測の実現を目的としており、各観測装置からのリアルタイムデータは、気象庁、防災科学技術研究所及び大学などに送られる計画。
5.その他
海洋研究開発機構では、本研究航海に関する特設ウェブページを開設いたしました(http://www.jamstec.go.jp/chikyu/nantroseize2010/)。このウェブページでは、より詳細な航海概要の紹介や乗船研究者の紹介を行うとともに、航海中の船上からのレポートなどを随時更新いたします。