2011年 11月 11日
独立行政法人海洋研究開発機構
1.概要
独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 加藤 康宏、以下「JAMSTEC」という。)の石橋正二郎技術研究主任らのグループは、海中探査機に搭載する世界最高水準の性能を有する高性能小型慣性航法装置(図1)を開発しました。
本機は、高度にモジュール化された超小型のリングレーザージャイロと最新の電子機器より構成され、同規模クラスの慣性航法装置としては世界最高水準の性能を実現しています。また、多様な航法演算手法やアライメント手法を適用した従来にない各種新機能が組み込まれており、海中探査機の性能向上が期待されます。
海中探査機において慣性航法装置は、その航行能力を決定付ける重要な装置ですが、世界的にも特定の海外製品に依存してきました。そのなか本機は、JAMSTECと日本航空電子工業株式会社が培ってきた知見と最新技術とを結集させた世界最高水準の性能を有する国産の慣性航法装置となります。
2.開発の流れ
平成16年4月 国家基幹技術として要素研究を開始
平成20年3月 試験機(図2)を完成
平成21年8月 試験機による技術検証を経て搭載機の開発に着手
平成23年9月 高性能小型慣性航法装置(搭載機)を完成
平成23年11月 新型探査機を用いた機能・性能試験(結合試験)を実施
3.主な仕様と機能
<試験機> | <搭載機> | |
・寸法 | 185mm×185mm×240mm以下 | 168.5mm×168.5mm×159.0mm以下 |
・質量 | 8.5kg以下 | 6.4kg以下 |
・位置精度※ | 0.7 Nm/hr CEP | 0.5 Nm/hr CEP |
※No aiding(純慣性航法)において | ||
<記号説明> |
||
〔試験機との性能比較例〕 |
<新機能>※※
・GPS/DVL/音響測位 ハイブリット機能:
GPS、DVL(ドップラ速度計)及び音響測位の各システムと慣性航法装置の出力値をそれぞれ組合せることにより、高精度な航法演算を提供する機能。環境への依存性を考慮した安定した位置精度を補償する。
・DVL Dead Reckoning 出力機能:
慣性航法装置の姿勢情報とDVLの速度情報のみを使用し、高精度な航法演算を提供する機能。DVLの出力精度が補償される環境において効果的。
・地上/船上/海底/ストアヘディング アライメント機能:
地上、船上、海底それぞれに探査機がある状態において、慣性航法装置のアライメント(初期整定演算)を実施するとともに、最短1分でアライメントを収束させる機能(ストアヘディングアライメント)を提供する。
・センサRawデータ出力機能:
慣性航法演算を施す以前の、各センサの計測値を出力する機能。ユーザーが独自の航法アルゴリズムを設計・適用するのに有効。
・ハイブリットゲイン設定機能:
ハイブリット航法時の各内部演算ゲインを動的に設定する機能。探査機が搭載する機器やその性能に応じた汎用性の高いハイブリットシステムを提供する。
※※国産慣性航法装置として初搭載
その他、以下のような機能も有します。
4.今後の予定と展望
本機は、海洋資源探査や海洋環境調査に資する新型の各海中探査機へ搭載されることが予定されており、現在、当該探査機の開発と並行して、機能確認及び性能確認を含む探査機制御システムとの結合試験(図3)を実施しています。今年度末には、本機を搭載した新型の海中探査機による初の海域試験が予定されています。また本機は、従来はスペースの問題から慣性航法装置を搭載することが困難な小型海中探査機への適用も想定されるだけでなく、世界最高水準の高性能化、小型軽量化、多機能化を実現したことにより、外界とのコミュニケーションが困難な環境における移動体の位置・姿勢検出の手段として、海中だけでなく航空機や鉄道試験機など様々な移動体への適用も期待されます。
※1:慣性航法装置(Inertial Navigation System: INS):
ジャイロスコープ及び加速度計を用いて移動体の角速度と加速度を検出し、これを演算処理することにより絶対位置を算出する装置。海中探査機においては、目標航路及び目標地点へ自身の位置を制御するための航行機器となる。
高性能小型慣性航法装置は、従前からの研究開発成果に基づき開発したもので、本機(搭載機)はその開発成果となります。試験機を用いた技術検証結果をベースとし、更にリングレーザージャイロの小型モジュール化に代表される新技術を合理的に組み込むことにより実現されました。