2012年3月9日
独立行政法人海洋研究開発機構
独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 加藤康宏、以下「JAMSTEC」という。)は、統合国際深海掘削計画(IODP: Integrated Ocean Drilling Program)(※1)の一環として、4月1日から5月24日までの54日間、地球深部探査船「ちきゅう」を用いた「東北地方太平洋沖地震調査掘削」(別紙参照)を実施致します。
※統合国際深海掘削計画(IODP: Integrated Ocean Drilling Program)
日・米が主導国となり、平成15年(2003年)10月から始動した多国間国際協力プロジェクト。現在、欧州、中国、韓国、豪州、インド、ニュージーランド の25ヶ国が参加。日本が建造・運航する地球深部探査船「ちきゅう」と、米国が運航する掘削船ジョイデス・レゾリューション号を主力掘削船とし、欧州が提供する特定任務掘削船を加えた複数の掘削船を用いて深海底を掘削することにより、地球環境変動、地球内部構造、地殻内生命圏等の解明を目的とした研究を行う。
別紙
地球深部探査船「ちきゅう」による
統合国際深海掘削計画(IODP)第343次研究航海
「東北地方太平洋沖地震調査掘削」の実施について
〜巨大地震と津波を引き起こしたプレート境界断層の摩擦特性の解明へ〜
1.研究の目的
従来、海溝型地震はプレート境界断層深部の固着領域にひずみを蓄積し、それが破壊され滑ることで巨大地震が起こると考えられていました。しかし、2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震では、プレート間の固着がないと考えられていたプレート境界の海溝軸付近まで深部での破壊が伝播したことが明らかになってきました。これにより、海溝軸付近の海底が水平及び垂直に大きく変動し(2011年4月28日、12月2日既報)、結果として大量の海水を押し上げて巨大津波が発生した可能性が指摘されています。一方、東南海地震の想定震源域である紀伊半島沖においても、東北地方太平洋沖地震と同様に海溝軸付近に大きな滑りが起きる可能性が最近の研究成果によって示されています(2011年4月28日)。
本航海では、東北地方太平洋沖地震で大きな滑りが伝播したと考えられている日本海溝の海溝軸付近において地球深部探査船「ちきゅう」による深海科学掘削を行い、実際に巨大地震を引き起こしたプレート境界断層を構成している岩石の種類と物性を明らかにするとともに、断層面及び付近の摩擦熱の温度変化を長期にわたり直接計測することを目的としています。
プレート境界断層で発生した摩擦熱は、地震発生後2 年ほどで周囲の地層に奪われ、計測が困難となります。また、プレート境界断層を構成する岩石も変質し、摩擦特性の分析が極めて困難になるため、早期の調査・研究が必要です。海溝型地震において地震発生後早期にプレート境界断層の温度計測を実施することは世界で初めての試みとなります。
これにより、海溝軸付近まで大きな滑りが伝播したことを実証した上で、巨大地震発生時のプレート境界断層の摩擦特性(断層が高速で滑ったときの摩擦熱、断層帯の岩石の化学的性質、間隙率等)を分析し、巨大津波を発生させた海溝軸付近でのプレート境界断層の滑りのメカニズムを明らかにします。
本航海により得られるプレート境界断層の摩擦特性に関する知見を、プレート境界断層の滑り量シミュレーションに活用することで、東海・東南海・南海地震等、他の海溝型地震による地震・津波の想定に寄与することが期待されます。
なお、本航海は、東北地方太平洋沖地震の発生後に緊急掘削研究課題として統合国際深海掘削計画(IODP)へ提案され、IODP科学計画委員会において緊急性と科学的重要性が評価され、実施するものです。
2.航海の概要
水深が約7,000メートルの日本海溝の海溝軸付近において、ライザーレス掘削により海底下1,000メートル付近のプレート境界断層まで掘削する計画であり、科学掘削では世界最深となる大水深掘削作業です。
本研究航海では、1地点2孔(第A孔、第B孔、掘削深度はそれぞれ約1,000m)を掘削します。第A孔は、掘削同時検層(※2)を実施するとともに、掘削孔内に最大55点の温度計で構成された長期孔内計測システムを設置します。この後、第A孔近傍の第B孔を掘削し、断層帯の岩石コア試料を採取するとともに、掘削孔内に最大21点の温度計と2点の水圧計で構成された長期孔内計測システムを設置します。
長期孔内計測システムで得られる観測データは、研究航海終了後にJAMSTECが保有する7,000m級無人探査機「かいこう7000II」により、回収することを計画しています。
航海日程
平成24年4月1日 静岡県清水港出港
平成24年5月24日 静岡県清水港にて乗船研究チームが下船(研究航海の完了)
全54日間
なお、気象条件や調査の進捗状況によって変更する場合があります。
乗船研究チーム
共同首席研究者(以下の2名)
James J. Mori 京都大学防災研究所 教授
Frederick M. Chester 米国テキサスA&M大学Department of Geology and Geophysics 教授
およびIODP参加国から選考された26名の合計28名(10ヵ国)の研究者
3. その他
本航海の掘削工程や、乗船研究者の名簿、「ちきゅう」の画像等詳細な情報は機構ウェブページに掲載します。 http://www.jamstec.go.jp/chikyu/exp343/
※2 掘削同時検層
ドリルパイプの先端近くに各種の物理計測センサーを搭載し、掘削作業と同時に現場での地層物性の計測を行う調査
図1 調査海域図
宮城県牡鹿半島沖合約220キロメートルの日本海溝海溝軸付近の海域
(北緯37度56分 東経143度55分)
図2 掘削予定地点の海底地形図
1地点2孔:水深6,910メートル、海底下1,000メートル付近のプレート境界断層まで掘削予定
図3 掘削予定地点の海底下構造概念図
海溝型地震はプレート境界断層深部の固着領域にひずみを蓄積し(黄色部分)、それが破壊され滑ることで巨大地震が起こると考えられていた。東北地方太平洋沖地震では、プレート間の固着がないと考えられていたプレート境界の海溝軸付近まで(赤色部分)深部での破壊が伝播し、海溝軸付近の海底が水平及び垂直に大きく変動したことにより大量の海水を押し上げ、巨大津波が発生した可能性が指摘されている。
本研究航海では、実際に巨大地震を引き起こしたプレート境界断層の試料採取と、断層面及び付近に温度計を設置し、摩擦熱の長期変化を直接観測することで巨大地震と津波を引き起こしたプレート境界断層の摩擦特性を解明することを目的とする。
※海底地形の変動量は12月2日既報の発表「東北地方太平洋沖地震震源域近傍の海底地形変動」に基づく。