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プレスリリース

2022年 5月 10日
国立研究開発法人海洋研究開発機構
国立大学法人京都大学
国立大学法人京都工芸繊維大学
国立大学法人静岡大学

圧力でオンデマンド分解が可能なプラスチックの研究開発に着手
― 深海研究を応用したプラスチックのケミカルリサイクル ―

1. 発表のポイント

廃棄プラスチックを構成単位であるモノマー・オリゴマーに解重合し、再度重合してプラスチックへと戻すケミカルリサイクルは、プラスチックの真の資源循環を実現するための最も本質的かつ有効な解決策です。
ケミカルリサイクルを実現するにはプラスチックに「安定性」と「分解性」という究極の相反する機能を両立させるイノベーションが必要です。
深海研究で培われた高圧技術を活用して、圧力をスイッチとしてオンデマンドで自在に分解可能なサステイナブルプラスチックを開発します。

2. 概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 大和 裕幸、以下「JAMSTEC」という。)、国立大学法人京都大学(総長 湊 長博)、国立大学法人京都工芸繊維大学(学長 森迫 清貴)、国立大学法人静岡大学(学長 日詰 一幸)は、圧力をスイッチとしてオンデマンドで自在に分解可能なサステイナブルプラスチックの開発を目的とした共同研究契約を締結しました。

3. 背景

20世紀初頭のベークライトの開発に端を発し、多種多様なプラスチックが開発され、様々な用途で利用されてきました。安価、軽量、長期に渡って安定、成形加工が容易などの特徴を持つプラスチックは、現在では我々の社会生活に幅広く浸透しています。その一方でその安定性が故に使用済プラスチックの処理が常に問題となっていました。2017年の中国による使用済プラスチックの禁輸措置や海洋のプラスチック汚染に対する社会的関心の高まりを契機として、使用済プラスチックに関わる諸問題が一気に顕在化した今日では、効率的なリサイクルを主体とした持続可能なプラスチック利用の実現に向けたイノベーションの創出が急務となっています。

プラスチックを基本構成単位であるモノマー・オリゴマーに解重合し、再度重合してプラスチックへと戻すケミカルリサイクルは、プラスチックの真の資源循環を実現するための最も本質的かつ有効な方法と考えられています。しかしながら膨大な研究が行われてきた重合とは真逆の解重合の化学はさほど進んでおらず、2020年6月に公開された国際化学サミット白書「Science to Enable Sustainable Plastics」でも「解重合の化学は今後の方法論、理論、プロセスの開発にとって重要な新分野である」と位置付けられています。

プラスチックの効率的なケミカルリサイクルを実現するには、何らかの外部刺激をスイッチに用いたオンデマンド分解の仕組みを実装し、「安定性」と「分解性」という究極の相反する機能を両立させる必要があります。本研究ではJAMSTECが持つ深海極限環境に発想を得た化学(深海インスパイヤード化学)、京都大学が持つ高分子物性理論、京都工芸繊維大学が持つ機能性生分解性プラスチック、静岡大学が持つプラスチック分解酵素に関する研究シーズを統合して、圧力をトリガーとしてオンデマンドで自在に解重合可能なサステイナブルプラスチックを開発します(図1)。

本研究は国立研究開発法人科学技術振興機構(理事長 橋本 和仁、以下「JST」という。)が進める戦略的創造研究推進事業(CREST)研究領域「分解・劣化・安定化の精密材料科学」(研究統括 高原 淳(九州大学 特任教授))における研究課題「バロポリエステル:圧力による精密分解制御」(研究代表者 出口 茂 JAMSTEC 生命理工学センター長)として2021年10月より実施しています。共同研究契約の締結を受けて、今後はJST創発的研究支援事業の採択課題「プラスチックを探して壊すバイオマイクロドローンの創出」(研究代表 中村 彰彦 静岡大学 准教授)などとも連携し、プラスチック生分解の超高感度アッセイシステムの開発、バイオマテリアルなどの新素材の創生、さらには起業予定のベンチャーを通した成果の社会実装などにも取り組みます。

JAMSTEC生命理工学センター 新機能開拓研究グループでは、深海の極限環境に特異的な物理化学現象に発想を得た「深海インスパイヤード化学」をコアシーズに、オープンイノベーション体制による課題解決型の研究開発によって新たな社会的価値を共創することを目的とした拠点形成を進める予定です。その第一弾としてJAMSTEC初となるサテライトラボを横浜金沢ハイテクセンター・テクノコア(神奈川県横浜市金沢区福浦1-1-1)に設置しました。

JAMSTECと京都大学は2015年10月に包括連携協定を締結し、先端材料科学と深海の極限環境にインスパイアされた革新的プロセス技術とのインテグレーションによる次世代ナノ材料システムの創出を目指した「フロンティア材料工学」を推進しています。

図1

図1.本研究開発のコンセプト図

(本研究について)
海洋研究開発機構
海洋機能利用部門 生命理工学センター長 出口 茂
京都大学
大学院工学研究科 教授 古賀 毅
京都工芸繊維大学
繊維学系 教授 谷口 育雄
静岡大学
学術院農学領域 准教授 中村 彰彦
(報道担当)
海洋研究開発機構 海洋科学技術戦略部 報道室
京都大学 総務部広報課国際広報室
京都工芸繊維大学 総務企画課広報係
静岡大学 広報・基金課広報係
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