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プレスリリース

2022年 10月 18日
内閣府戦略的イノベーション創造プログラム
革新的深海資源調査技術
国立研究開発法人海洋研究開発機構

レアアース泥採鉱装置による水深2,470m海域からの
海底堆積物揚泥試験の成功について

1. 発表のポイント

深海に堆積するレアアース泥採鉱を可能にする技術を開発し、水深2,470mの地点における実海域試験を実施し、海底堆積物の揚泥に世界で初めて成功した。
当該試験で用いた採鉱装置は南鳥島海域水深約6,000mの海底下に賦存することが確認されている「レアアース泥」を採鉱することを念頭に設計されており、今後残りの3,000m分のパイプを追加することで南鳥島沖におけるレアアース泥採鉱への道が拓かれる。
採鉱試験に際して、我が国が提案して発行された国際標準(ISO)規格に則り、「江戸っ子1号」などを使用して環境モニタリングを実施し、その実用性を実証した。

2. 概要

南鳥島沖水深6,000mの海底下には広くレアアース泥が分布することが知られています。しかし、レアアース泥は海底面直下に存在する堆積物であり、これまでは大量に海上に引き上げる技術は世界のどこにも存在しませんでした。

今回、内閣府・戦略的イノベーション創造プログラム(以下「SIP」という。※1)革新的深海資源調査技術(プログラムディレクター 石井正一、以下「SIP海洋」という。※2)とSIP海洋の研究推進法人である国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 大和裕幸、以下「JAMSTEC」という。)は、深海に堆積するレアアース泥採鉱を可能にする技術を開発し、JAMSTECが運航する地球深部探査船「ちきゅう」(以下、「ちきゅう」という。図1※3)を用いた茨城県沖水深2,470mの地点(図2)において実施した実海域試験で、海底堆積物の揚泥に世界で初めて成功しました。加えて、実際の採鉱作業を想定した環境モニタリングの試験運用では、これまでSIPで開発してきた手法の実用性を確認することができました。

図1

図1. 地球深部探査船「ちきゅう」(2022年8月12日清水港出航時)

図2

図2. 茨城県沖試験海域

【用語解説】

※1
内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP):
内閣府総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)が自らの司令塔機能を発揮して、府省の枠や旧来の分野の枠を超えたマネジメントに主導的な役割を果たすことを通じて、科学技術イノベーションを実現するために新たに創設したプログラム。
https://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/
※2
革新的深海資源調査技術:
SIP第2期(2018-2022年度)にて選定された海洋課題。世界に先駆けて深海の海底に賦存するレアアース泥等の鉱物資源に関する革新的深海資源調査技術を段階的に確立・実証し、社会実装を進めて将来を見据えた産業化モデル構築に道筋をつけることを目指す。
※3
地球深部探査船「ちきゅう」:
JAMSTECの所有する科学掘削船。海底下をより深く掘削するため、ライザー掘削技術を科学研究に初めて導入した。巨大地震・津波の発生メカニズム、海底下生命圏、地球規模の環境変動の解明などに挑戦している。
https://www.jamstec.go.jp/chikyu/j/

3. 背景

SIP海洋では、南鳥島沖水深6,000mの深海におけるレアアース資源の生産技術開発を目的として研究開発を進め、その当初から「ちきゅう」の既存設備及び能力を最大限活用することを前提とした採鉱システムの開発を目標としました。2020年には「ちきゅう」で吊下げ可能な6,000mの揚泥管(ライザー)の基本設計を完了し、揚泥管の製作にはコロナ禍の影響で遅延が生じたもの、2021年8月に今回の試験に向けた3,000m分の揚泥管が納入されました。同年9月には「ちきゅう」船上に操作機器を設置し、新規導入の揚泥管の接続試験を行いました。2022年5月には水深6,000m仕様の採鉱装置(図3)が完成し、同年6月に揚泥管及び採鉱装置と「ちきゅう」既存設備を一体化した採鉱システムの作動確認を駿河湾において行いました。(図4

他方、SIP第1期(2014-2018年度)では、海底鉱物資源開発に伴う環境影響評価に利用可能な環境モニタリング手法の技術規格を国際標準化機構(※4)に提案しており、SIP海洋においても継続してこれらの国際標準化に取り組み、2021年(ISO 23731,23732,23734)と2022年(ISO 23730)にISO規格として発行されました(2021年9月27日既報:https://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/20210927/)。今回の採鉱試験は、これらの環境モニタリング手法を実際の採鉱作業において検証する機会となりました。

図3

図3. 水深6,000m仕様の採鉱装置

図4

図4.作動確認試験(2022年6月)

【用語解説】

※4
国際標準化機構(ISO:International Organization for Standardization):
世界各国の代表的標準化機関からなる国際標準化機関であり国際規格作成を取りまとめている。

4. 成果

南鳥島沖水深約6,000mに存在するレアアース泥は海底面直下の堆積物(固体)であり、そのままでは、天然ガスや石油(気体や液体)のように地中の圧力で自噴を促すことができないため、これまでの海底資源回収手法では連続して大量に洋上に引き上げることは出来ず、この深度の海底から堆積物を大量に揚泥する技術は未だ存在しません。そのため、本開発はSIP海洋の中でも最も難易度の高い技術開発目標と位置付けられてきました。

今回の技術開発システムは、環境負荷を極力小さくする閉鎖系二重管揚泥方式(※5)を採用し、その上で「解泥」「集泥」「揚泥」を可能とする採鉱装置を一体化した新たな採鉱システムです。具体的には、採鉱装置(解泥機)を海底に差し込む(図5)ことで海底のレアアース泥を採鉱装置に閉じ込めます。固く締まったレアアース泥は採鉱装置内の攪拌装置で攪拌され、海水と混ぜられることで懸濁液(スラリー化・液体化)(図6)となり揚泥管へと移送されます。その後は「ちきゅう」のライザー循環機能を活かし、揚泥菅内を垂直に循環する循環流を発生させ、この流れに沿う形で、レアアース泥を採鉱装置内から船上まで引き上げます。

図5

図5. 海底に差し込まれた解泥機跡の状況

図6

図6. 揚泥後の懸濁液サンプル

実海域試験は、茨城沖水深2,470mの海域で2022年8月12日から9月2日にかけて、海底3か所の採鉱サイトにおいて上記の作業を実施し、1日あたりに換算して約70トンの堆積物の回収に成功しました。この深度での海底堆積物の揚泥は世界でも初めてのケースであり、開発した技術は、JAMSTEC及び開発に参加した企業とともに7件の特許申請を行なっております。

他方で、環境モニタリング手法の検証では、「ちきゅう」に備えられた作業用ROV(遠隔操作型無人探査機)に4Kビデオカメラを搭載して採鉱サイトの状況を記録するとともに、「江戸っ子1号」(※6)COEDO型(図7)を採鉱サイトの北50mと200mの地点にそれぞれ設置し、海底堆積物の揚泥作業に伴う海底の環境モニタリングを行いました。「江戸っ子1号」COEDO型により撮影された映像には、採鉱装置の着底中に回避した魚類が装置の揚収により復帰する様子が確認できております。また、船上では、海産試験株を用いて汚染リスクを判定する洋上バイオアッセイ(※7)及び現場表層環境の健全性を監視するファイトアラートシステム(※8)による環境モニタリングを実施し、周辺環境への影響を船内の実験室でもリアルタイムで簡便に評価できることが分かりました。(図8

図7

図7. 環境モニタリングで海底に設置したCOEDO

図8

図8. 採鉱作業中の環境モニタリング

【用語解説】

※5
閉鎖系二重管揚泥方式:
海底面から解泥機を差し込み装置内の堆積物に海水を注入して流動性のある状態にして揚泥管を通じて洋上に引き揚げる方式。採鉱する堆積物が装置内に限定されるため、海底面や海水中への環境影響が低いことが特長として期待される方式である。
※6
「江戸っ子1号」:
中小企業連合を中心として開発されたフリーフォール型の小型ランダー深海探査機。高効率かつ低コストに行う海底観測のため、映像によるモニタリング手法を利用する。COEDOは軽量化を目的に開発された機種。岡本硝子株式会社が製品化。
https://ogc-jp.com/productuse/energy/cat19/
※7
洋上バイオアッセイ:
国立環境研究所が保有する海産試験株Cyanobium sp.(NIES-981)と遅延蛍光計測を組み合わせ、装置の小型化により船内ラボでも検査を可能にしたバイオアッセイ法 (ISO 23734: 2021)
※8
ファイトアラートシステム:
国立環境研究所が開発した現場海水中の植物プランクトンの光合成活性を準リアルタイムに測定し、光合成活性の変化に基づいて現場水質の健全性を評価するためのモニタリングシステム(特許公開2020-130016)

5. 今後の展望

今回の実海域試験までに完成している3,000mまでの採鉱システムに加えて、南鳥島沖の水深6,000mに存在するレアアース泥回収の実現に必要となる残り3,000m分の揚泥管を入手して6,000m級のレアアース泥回収システムを完成させることで、速やかに南鳥島沖でのレアアース泥採鉱実験及び採鉱効率実証試験の実現を目指します。併せて、今回の環境モニタリングの解析を進め、環境モニタリング手法の有用性についてさらなる検証を進めるとともに、上記南鳥島沖での採鉱実験における環境影響評価を進めてまいります。

※本件に関する資料映像は、以下のURLからご覧いただけます。
https://youtu.be/9K90jESs3A0

(本試験について)
国立研究開発法人海洋研究開発機構
革新的深海資源生産技術開発プロジェクトチーム プロジェクト長 川村 善久
(報道担当)
国立研究開発法人海洋研究開発機構
海洋科学技術戦略部 報道室
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