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プレスリリース

2022年 12月 27日
国立研究開発法人海洋研究開発機構

トンガの大規模噴火が引き起こした気象津波のメカニズムを解明
―大気波動「ラム波」と「ペケリス波」が振幅の増幅に重要な役割―

1. 発表のポイント

2022年1月のフンガ・トンガ =フンガ・ハアパイ火山の大規模噴火に伴い、日本付近で観測された海面変動「気象津波(※1)」を数値シミュレーションで再現した。
日本に到達した気象津波は噴火によって発生した大気波動「ラム波(※2)」と「ペケリス波(※3)」によって励起・増幅されたことがわかった。
海底火山噴火の際に発生する気象津波の予測可能性を示唆する成果であり、沿岸防災対策等への貢献にも繋がると期待される。

【用語解説】

※1
気象津波:気圧擾乱などが海洋の波と同じ速度で進むことによって海洋に効率的にエネルギーを渡して(プラウドマン共鳴)、津波と同程度の周期を持つ波を引き起こす現象。
※2
ラム波:音波と同様に、空気の密度の粗密が伝わる波。地表面に拘束されて音速に近い速さで遠方まで水平に伝わる性質を持つ。
※3
ペケリス波:1937年にペケリス博士が理論的に提唱した地球大気の固有の共鳴振動による波。ラム波と異なり、大気の上下で位相が反転する特徴がある。

2. 概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 大和 裕幸、以下「JAMSTEC」という。)地球環境部門環境変動予測研究センター鈴木立郎グループリーダー代理らは、数値シミュレーションを用いて2022年1月15日に生じたフンガ・トンガ=フンガ・ハアパイ火山の大規模噴火(以下「トンガの大規模火山噴火」という。)によって生じた気象津波を数値シミュレーションで再現することで、そのメカニズムを解明しました。

本研究では、スーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を用いた海洋モデルのシミュレーションによって、大気波動であるラム波やペケリス波が本気象津波を励起するとともに、日本の東沖、水深の深い北西太平洋海盆においてプラウドマン共鳴により気象津波が大きく増幅されたことを示しました。また、大陸棚斜面ではその地形効果によってさらに増幅され、日本沿岸で大きな水位変化をもたらしていたことも明らかにしました。

本研究で得られた知見は、気象津波の増幅メカニズムの物理的理解を深めるだけでなく、火山噴火に伴う気象津波の予測可能性を示唆しており、沿岸防災上の観点からも重要です。

本研究は、文部科学省の「気候変動予測先端研究プログラム(JPMXD0722680395)」、「科学研究費助成事業(JP20H05728)」の支援を受けて実施したものです。

本成果は、「Ocean Modeling」に12月24日付け(日本時間)で掲載されました。

タイトル:
Mechanism of a meteorological tsunami reaching the Japanese coast caused by Lamb and Pekeris waves generated by the 2022 Tonga eruption
著者:
鈴木立郎1、中野満寿男1、渡辺真吾1、建部洋晶1、高野雄紀1,2
所属:
1. 海洋研究開発機構、2. 東京大学大気海洋研究所
DOI:
https://doi.org/10.1016/j.ocemod.2022.102153

3. 背景

トンガの大規模火山噴火により、火山から約8,000km 離れた日本列島においても噴火から8時間足らずで潮位上昇が観測されました。この潮位変化は通常の噴火による津波より3時間以上早く日本に到達しており、噴火によって発生した大気波動に伴う気象津波であることが、多くの研究より指摘されています。これらの研究の多くは、伝播速度300m/secのラム波に着目していましたが、JAMSTECの渡辺らの解析の結果、今回のトンガ大規模噴火では、ラム波に加えて伝播速度240m/sec程度のペケリス波が確認され、気象津波の増幅に重要な役割を果たしている可能性が示唆されました(2022年9月12日既報)。

トンガの大規模火山噴火の際に観測されたラム波による海面気圧変化の大きさは約2hPaで、高潮などを引き起こす単純な吸い上げ効果(*1)としてはわずか2cmの水位変化しか生じません。また、存在が確認された「ペケリス波」の影響を考慮しても、同波の振幅はさらに小さく、これら大気波動による吸い上げ効果だけでは日本沿岸で観測された大きな水位変動(10~20cm程度; 沿岸固有の地形の影響がある場合は1m近くなる)を説明できません。しかしながら、このような波として移動する大気擾乱が存在すると、プラウドマン共鳴と呼ばれるメカニズムによって、海洋に気象津波と呼ばれる波が励起されることがあります。気圧変化(ΔP)の移動速度Vが海洋波の速度(c=√gh, g:重力加速度, h:水深)と等しい場合、海洋の波は移動に伴い大気からエネルギーを受け取り続けるため、大きく増幅します(図1)。このような気象津波が、日本沿岸域をはじめ多くの国々で大きな被害をもたらした可能性があることから、海況の数値シミュレーションを実施し、そのメカニズムの解明を試みました。

図1

図1.気象津波のイメージ(高野2014より)

(*1)【参考】「高潮などを引き起こす通常の吸い上げ効果」
気象庁HP参照
https://www.data.jma.go.jp/kaiyou/db/tide/knowledge/tide/takashio.html

4. 成果

本研究では、海面水位の変動を再現するため、大気の高層まで良く再現できる2つの高解像度大気モデルJAGUAR(*2)とNICAM(*3)で計算した火山噴火による大気波動で、海洋モデルを動かし、海面水位変化をスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」でシミュレーションしました。その結果、再現性に差はあるものの、どちらの大気モデルの気圧変動で動かした海洋モデルの数値シミュレーションでも、日本沿岸域で観測された大きな水位変動や海底圧力変動を概ね再現することに成功しました。本研究で用いた海洋モデルはJAMSTECと東京大学大気海洋研究所などが共同で開発している海洋大循環モデルCOCOで、現実的な海底地形(図2)を再現するため、水平解像度をおよそ10kmとしています。

(*2)【参考】「赤道上の成層圏を吹く不思議な風の、崩壊現象の再現に成功」
https://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/quest/20180203_2/index.html

(*3)【参考】「世界中の雲の生成を計算して、台風の動きを予測する! 全球雲解像モデル「NICAM」の実力」
https://www.jamstec.go.jp/j/pr/topics/explore-20221110/

図2

図2. 海洋モデルで使用した日本周辺の海底地形(水深m)、日本の東から南東にかけて水深6,000mを超える北西太平洋海盆が広がっている。星印はトンガの場所、英数字は今回比較した日本沿岸の潮位計と海底圧力計の場所をそれぞれ示す。

観測された水位変化は、通常の噴火による津波到達時間よりも早く、噴火で生じたラム波やペケリス波と呼ばれる大気波動とほぼ同時に日本沿岸に到達しており、このことから早期の水位変化はこれらの大気波動によって励起された気象津波と考えられます(図3)。

図3

図3. トンガ噴火時の日本沿岸の水位変化(1.釧路、2.宮古、3.串本、4.土佐清水)と海底圧力変化(a.S-net、b.DONET)。英数字は図1中の場所を示す。赤線が噴火による大気変動を与えた海洋モデルによるシミュレーション結果(実線は大気モデルJAGUAR、破線は大気モデルNICAMの大気変動を与えた結果)。黒線は観測値。青線は通常の津波の到達予想時刻。LとPはそれぞれ大気のラム波とペケリス波の到達時刻を示す。ラム波とペケリス波によって生じた気象津波(赤)は観測と同程度の振幅を持っている。これらの気象津波は通常の津波より早く到達する。串本、土佐清水は沿岸固有の地形による影響で港湾スケールの固有振動が卓越しており海洋モデルの結果と合わないが、沿岸から離れた場所に設置してある海底圧力計の結果(b.DONET)とはよく一致する。
(注:モデルに与えた大気変動の火山噴火と実際の火山噴火のタイミングにズレがあるため、シミュレーション実験による水位変動の到達時刻は観測より少し早くなっている。)

海洋の波の速さは水深に依存しており、波の伝播経路にあたる日本の東沖、北西太平洋海盆(深さ約6,000m)において速さは約240m/secとなります。この際、約300m/secで伝播するラム波によって引き起こされる気象津波の大きさは、北西太平洋海盆において、圧力変化(単純な吸い上げ効果)の2倍(4cm)程度になりました。一方、ラム波の後に続くペケリス波の速度は約230m/secから240m/secで北西太平洋海盆において海洋の波の速度に近いため、プラウドマン共鳴により気象津波は圧力変化の8倍から20倍(1cm〜2.5cm)と大きく増幅されており(図4動画12)、ペケリス波の振幅はラム波に比べて非常に小さいにもかかわらず、同程度の気象津波を励起していました。

このことから、日本周辺において、ラム波による気象津波とその後のペケリス波による気象津波が連続して到達したことによって、大きな海面水位変動が長時間にわたり引き起こされていたことが明らかになりました。

本結果は、日本沿岸に到達した気象津波の再現には、これまで考えられてきた、振幅の大きな圧力偏差を持つラム波の影響だけではなく、新たに存在が確認された、振幅の小さなペケリス波の圧力変化も適切に取り扱う必要があることを示しています。

また、急峻な大陸棚斜面の影響を調べるために海底地形を滑らかにした場合との比較実験も実施したところ、このように励起された気象津波は最終的に通常の津波と同様に、大陸斜面の急峻な斜面に入射することによってさらに増幅されて日本沿岸に到達していたことが明らかとなりました。

図4

図4. トンガから日本(釧路)へ伝播するラム波(左)、ペケリス波(右)に関する大気圧偏差の大きさ、大気圧変動によって引き起こされた気象津波の水位の大きさ、とその気圧変動に対する水位変化の増幅率を示す。赤線がJAGUARの気圧変動を与えた結果、青線がNICAMの気圧変動を与えた結果を示す。ペケリス波の増幅率が北西太平洋海盆(Northwest Pacific Basin)で8倍から20倍近くまで増幅している(右下赤丸部分)。また、地形を滑らかにした実験(破線)では、急峻な大陸斜面を持つ現実的な地形に比べて沿岸での水位変動が小さいことが分かる。

動画1

動画1. トンガ‐釧路間の(a)海底地形(青破線は滑らかにした地形)(b)噴火による大気圧変動(JAGUAR)、(c)海洋モデルで計算した海面水位変化(赤は現実的な地形、青は滑らかにした地形)横軸はトンガからの距離(km)を示す。Lがラム波、Pがペケリス波を示す。
海洋波の速度が大きくなる(ペケリス波やラム波の伝播速度に近づく)水深の深い北西太平洋海盆(a.赤線)でプラウドマン共鳴により水位の変化が大きくなる。

動画2

動画2. 動画1と同じ。ただしNICAMの大気圧変動を使用。

5. 今後の展望

本研究によって、噴火時の大気変動のデータを用いて海洋モデルを駆動することで、日本へ到達する気象津波をより正確に再現することが可能になりました。今回の数値シミュレーションで得られた知見を用いて、世界のどこかで強い火山噴火が発生したときに、その気圧変動を知ることができれば、いつ、どこに、どれくらいの海面変動が到達し得るか、どのように備えたら良いかなどの検討が可能になることから、本成果の知見を活用し、我が国の沿岸防災対策の向上に繋がることが期待できます。

国立研究開発法人海洋研究開発機構
(本研究について)
地球環境部門環境変動予測研究センター グループリーダー代理 鈴木立郎
(報道担当)
海洋科学技術戦略部 報道室
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