・エイジング※1 により黄砂に付着した水溶液は有機エアロゾルの隠れた生成要因であることが判明した。
・黄砂が、日本周辺地域において年間で二次有機エアロゾルの2~3割程度、液相化学反応器として働く可能性が示された。
黄砂のような大気中に浮遊する小さな粒子(エアロゾル)は健康被害をもたらし、気候変動の一因ともなっています。さらに主にサブミクロン粒子に含まれる一部の水溶性有機物質は、鉄と錯体を形成し、より安定な「溶存鉄」を、海洋の植物プランクトンにとって必要な栄養素として供給することがこれまでに考えられています(2023年 3月 1日既報)。これらのエアロゾルがどこでどのように形成されるかを理解することは、発生源付近の住民にとっては健康被害の観点から、沿岸地域の住民にとっては食糧問題の観点から重要となります。
本研究では、サラハやゴビのような砂漠から舞い上がる鉱物ダストが、大気汚染においてこれまで知られていなかった役割を果たしていることが、新たに明らかになりました。
これまで科学者たちは、二次有機エアロゾルは主にサブミクロン粒子で形成されると考えていました。この科学的仮説に従うと、黄砂に代表されるより大きな鉱物ダストはこれまで二次有機エアロゾルを生成する液相反応を起こさないと考えられていました。しかし、中国、日本、英国、その他の国々の科学者が主導する共同研究によって発表されたこの研究では、実際には「空の化学反応器」として機能し、大気中の粒子の主要成分である二次有機エアロゾルの形成を促進していることを明らかにしました。
国際共同研究で進められた本研究の共同責任著者であるJAMSTEC地球環境部門の伊藤彰記主任研究員は、JAMSTECが運用するスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を用いて、観測に裏付けられた全球大気化学輸送モデル※2 を開発しました。その計算結果、地球規模での鉱物ダストによる二次有機エアロゾル生成の寄与を明らかにしました。図はゴビやタクラマカン砂漠などから発生する鉱物ダスト(黄砂)が、日本周辺地域で2~3割程度、液相化学反応器として働くことを示しています。
本研究は文部科学省 気候変動予測先端研究プログラム※3 領域課題2「カーボンバジェット評価に向けた気候予測シミュレーション技術の研究開発(物質循環モデル)」の研究に基づいたものです。
また本成果は、「National Science Review」誌に掲載されました。
図. 鉱物ダストの液相反応で生成される二次有機エアロゾルへの寄与率(%)。暖色系は、鉱物ダストが主要な液相化学反応器であることを示す。
エイジング
気体との相互作用により滞留時間の経過とともに生じる化学組成や粒子形状の変成作用。
大気化学輸送モデル
大気中への化学物質の排出、化学反応や風などによる輸送、沈着過程を考慮し、大気中の様々な物質の分布とその時間変化を、大型計算機を用いて計算する数値モデル。過去の物質分布の変動要因を解析するためだけでなく、さまざまな化学物質の放出規制が環境に及ぼす影響を評価するためなどにも利用される。
気候変動予測先端研究プログラム
気候変動予測シミュレーション技術の高度化等による将来予測の不確実性の低減や、気候変動メカニズムの解明に関する研究開発、気候予測データの高精度化等からその利活用までを想定した研究開発を一体的に推進することで、気候変動対策(気候変動適応策・脱炭素社会の実現に向けた緩和策)に活用される科学的根拠を創出・提供することを目指す。
英語による研究紹介はバーミンガム大学の プレスリリース(EurekAlert!)をご覧ください。