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令和6年能登半島地震で生じた海底地すべりの痕跡を検出

2025.06.12
国立研究開発法人海洋研究開発機構
国立大学法人東京大学大気海洋研究所
海上保安庁

1. 発表のポイント

  • 地震前後の海底地形データの解析により、富山深海長谷沿いに令和6年能登半島地震で生じた海底地すべりの痕跡を新たに検出することに成功した。
  • 他の海域でも海底地形の変化が広範囲にわたって検出される可能性があり、地震前のデータが存在する海域を対象にさらにデータ解析を進める。
  • 海域における詳細な海底地形データ取得などの調査は、海底地すべりなどの発生リスクを評価することに繋がることから、津波に限らず海底ケーブルなどの海洋インフラへの影響や沿岸域における防災の観点でも重要である。

2. 概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 大和 裕幸、以下「JAMSTEC」という。)海洋機能利用部門海底資源センターの笠谷貴史センター長代理、金子純二技術副主幹、国立大学法人東京大学大気海洋研究所の沖野郷子教授、小野誠太郎大学院生(研究当時)、海上保安庁海洋情報部の南宏樹課長補佐らは、地震前後の海底地形データを比較して令和6年能登半島地震で生じた海底地すべりと考えられる痕跡を新たに検出しました。解析には、地震前の海底地形データは海上保安庁海洋情報部が地震発生前年の2023年5月に取得したものを使用し、地震後のデータは学術研究船「白鳳丸」(写真1)による第一次から第三次緊急調査航海(2024年1月~3月)によって得られたものを使用しました。分析の結果、能登半島地震による海底地形の変化が広範囲にわたって生じた可能性が示唆されました。

本研究の海上保安庁の研究の一部は日本財団海上保安研究基金の助成を受けて実施されました。

 本成果は、「Earth, Planets and Space」に5月21日付け(日本時間)で掲載されました。

論文情報
タイトル

Submarine landslides caused by the 2024 Noto Peninsula earthquake.

著者
笠谷 貴史1、 南 宏樹2、 沖野 郷子3、 金子 純二1、 小野 誠太郎3
所属
  1. JAMSTEC海洋機能利用部門
  2. 海上保安庁海洋情報部
  3. 国立大学法人東京大学大気海洋研究所
写真1

写真1 第一次から第三次緊急調査航海で使用した学術研究船「白鳳丸」

3. 背景

令和6年1月1日に津波を伴うM7.6(JMA)の大きな地震が能登半島北東部で発生しました(令和6年能登半島地震)。この地震は、能登半島を中心とした広い範囲に地震動に伴う大きな被害を引き起こしただけでなく、津波による被害も沿岸域で発生しました。この地域は、周期的に群発地震活動が活発になり、ときおり被害を及ぼす大きな地震が発生することで知られています。過去にも、2007年に能登半島北西部で発生した地震(M6.9)では30cm程度の津波が発生し、津波が沖合の海底地形の影響を受けて一部で増幅したことが指摘されていました。

令和6年能登半島沖地震の発生後、海上保安庁は測量船を現地に派遣し、広域にわたってマルチビーム測深機※1 による海底地形調査を実施しました。海上保安庁が令和5年に能登半島沖で実施していた海底地形調査のデータと比較したところ、余震域に近い能登半島東方30km沖の領域で海底地すべりが生じたことが報告されました(2024年2月22日既報、発表1)。

用語解説
※1

マルチビーム測深機
船底に装備した送受波器から海底に向け音波を扇状に発射し、反射した音波を捉えることで広範囲に海底地形を把握することのできる観測装置。

4. 成果

JAMSTECは他機関と合同で、学術調査船「白鳳丸」を用いた緊急調査を2024年1月から3月にかけて、第一次航海(2024年1月12日既報、発表2)、第二次航海(2024年2月16日既報、発表3)、三次航海(2024年3月1日既報、発表4)で実施しました。全ての航海でマルチビーム測深機による観測を実施し、余震域を中心とした広域の地震発生後の高精度な海底地形データを収集するとともに、第二次航海では令和5年に海上保安庁が実施した地形調査の仕様に合わせた地震前後の地形変化の抽出を目的として稠密観測も実施しました(図1左図の赤枠)。

図1

図1 (左図)「白鳳丸」第一次~第三次緊急調査航海で得られたデータを全て合わせて作成された海底地形図。(右図)稠密観測を実施した領域の詳細な海底地形図。

この領域の海底地形は、富山深海長谷が北側に向きを変えた後、急な角度で蛇行しながら北側に延びている特徴を有しています。取得されたデータのノイズ処理や補正を行い、海上保安庁の地震前のデータと比較を行ったところ、明瞭な海底地形の変化を4ヶ所(図2右図)検出することができました。このうち、北側(A-A’)と南側(D-D’)の地形変化があった場所を含む地形断面を図2に示します。

図2

図2 検出した海底地形の変化。(上図)北側A-A’断面、(下図)南側 D-D’断面。
図中の黒矢印の地点で有意な地形変化が認められる。

地形変化の確からしさを検証するために、地震前の地形データとしてJAMSTECが2005年から2013年までに海洋調査船「なつしま」で取得した地形データとも比較を行ったところ、今回検出した地形変化が有意であることが確認されました。一番北側のA-A’断面では令和6年に測量船「拓洋」で取得されたデータも用いて検証を行っています。一方、海底谷の底部に崩落した物質の有意な再堆積(地形が高くなる)は認められませんでした。これは、崩落した物質の量が少なかったか、海底谷に沿った流れにより下流に流された可能性が考えられます。また、稠密観測の範囲内で、過去の崩落地形と考えられる特徴的な地形(図1右図の赤矢印)を検出しました。

5. 今後の展望

今回の成果は、能登半島地震による海底地形の変化が広範囲にわたって検出される可能性を示唆しています。地震前のデータが存在する他の海域でも同様の地形変化があるかどうか、さらにデータ解析を進めて行く予定です。

また、今回検出した地形変化が令和6年能登半島地震で発生した津波と関係するかは不明ですが、陸域から近い海底で大規模な地形変動が生じた場合には、沿岸域における津波災害を引き起こすリスクが高まります。また、地震動による海底地すべりなどの海底変動は、海底ケーブル取水管などの海洋インフラにも影響を与える恐れがあります。このため、詳細な海底地形データ取得など多面的な調査による海底地すべりなどの発生リスク評価を行うことも防災の面から重要と言えます。

関連する過去のプレスリリース

本研究のお問い合わせ先

海洋研究開発機構
海洋機能利用部門 海底資源センター
センター長代理 笠谷 貴史

報道担当

海洋研究開発機構
海洋科学技術戦略部報道室
海上保安庁
海洋情報部 沿岸調査課
東京大学大気海洋研究所
附属共同利用・共同研究推進センター 広報戦略室