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 コラム〜海底からつき出す煙突〜 熱水噴出孔 チムニー

2007年6月1日

海底からつき出す煙突
インド洋で発見されたチムニーから噴き出すブラックスモーカー
中央インド洋海嶺、南東インド洋海嶺、南西インド洋海嶺という大きな海嶺の枝分かれ地点であるロドリゲス海嶺三重会合点(図1)に位置するこのチムニーは、2000年8月に日本の研究チームにより発見されました。

海底からつき出す煙突

 チムニーとは、英語で煙突という意味を持つ言葉ですが、海洋学では、煙突状の構築物の一つである熱水噴出孔を意味する言葉としても使われています。煙突のように海底からつき出しているそのかたちから、チムニーと呼ばれているのです。チムニーから噴き出される熱水には、黒、灰、白、透明と様々な物がありますが、墨汁のような真っ黒い色をしているもの(ブラックスモーカー)が多くあります。硫黄の化合物が多く含まれているため、黒い色がついているのですが、この黒い熱水が出る様子も、黒い煙を勢いよくはき出す煙突を連想させるのでしょう。

有害物質が多いのに生物も多い

 チムニーから噴き出される熱水は、最も温度が高いブラックスモーカーで最高400℃にも達します。そのうえ、硫黄の化合物、メタン、重金属など、通常の生物にとっては有害な物質が多く含まれています。しかし、チムニーの周りを調べてみると、なぜかほかの海底域よりもたくさんの生物が集まっているのです。
 海の生態系は、海草や植物プランクトンが太陽の光をもとに光合成をして生命の維持に必要な有機物をつくり出して、それをほかの生物が食べていくという食物連鎖になっています。しかし、これらの光合成生物群集は、200mを超える海底には十分な太陽光が入ってこないので光合成ができません。したがって、海底で生きる生物の数も少なくなります。一方、チムニーを見てみると、噴き出される熱水に含まれている化合物を食べて、有機物を合成する微生物がたくさんいることがわかってきました。太陽光が届かない深海底でも、熱水に含まれる化合物をもとに有機物をつくる微生物がいるために、チムニー周辺には有機物がほかの海底よりもたくさんあります。その有機物を求めて、多くの生物がチムニーに集まって、化学合成生物群集を形成しているのです。


世界の海嶺とチムニーの分布図

図1:世界の海嶺とチムニーの分布図
赤い線が海嶺や島弧の火山フロント(火山が並んでいる線)、●で示された部分がチムニー。
プレート発散境界にできる海嶺や火山フロントに沿うように、世界中にチムニーが分布していることがわかります。


大昔の地球環境の研究にも役立つチムニー

 チムニーは、今から30年前の1977年に、赤道直下のガラパゴス諸島沖の太平洋海膨で米国の潜水調査船「アルビン号」により発見されて、その存在が初めて明らかになりました。以来、太平洋、大西洋などのプレート境界部分といった、地殻変動が活発な場所でたくさん発見されています(図1)。チムニーがたくさん発見されても、その周辺で見られる生物の種類はだいたい同じでした。チムニーは世界中に点在しているのになぜ同じような種類の生物がいるのでしょうか。これらの生物は、どのようにして世界中に散らばったのでしょうか。この謎はまだ解決されていませんが、いまのところ、一番年代の古い太平洋からインド洋を経由して大西洋の海嶺を伝って散らばっていったのではないかという説が有力です。
 また、チムニー周辺の環境は、地球が誕生して間もない頃の環境とよく似ていると考えられています。チムニーやそこに集まる生物を研究することは地球上に生息する生物がどのようにして生まれてきたのかを考えるうえでもとても重要なことなのです。

ユノハナガニ

ユノハナガニ
チムニー周辺にすむ生物は、ほかの海底では見られないものが多いですが、ユノハナガニもチムニー周辺にしか見られない生物の一種。深海の暗闇で目が退化しています。



チムニーから噴き出される熱水

陸上では水は100℃で沸騰して蒸発します。つまり、100℃以上の水(熱水)はできないはずです。しかし、水のなかに何かがとけたり、大きな圧力がかかったりすると水の沸点は上がります。チムニーがある海底付近は、海水によって地上の二百倍程度もの大きな圧力がかかります。しかもチムニーから噴き出す水には塩分や金属成分がたくさんとけています。ですから、200〜400℃という地上では考えられない温度の水が存在するのです。

(海洋地球情報部 広報課)