地球生命の核酸塩基全5種を含む南極産炭素質隕石の概念図
北海道大学の大場康弘准教授、東北大学の古川善博教授、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の高野淑識上席研究員らの研究グループは、南極の氷床で発見された炭素質隕石から、地球生命の遺伝子を構成する全5種の核酸塩基の検出に成功しました。これまで南極産隕石からはアデニンとグアニンの2種しか検出されていませんでしたが、本研究では新たにシトシン、ウラシル、チミンの3種も同定されました。また、隕石周辺の南極氷床からは核酸塩基が検出されず、約10万年の滞在期間中に地球由来の汚染を受けなかったことが証明されました。一方で、検出されたシトシンは南極の低温環境下での二次的な化学反応によりウラシルへ変化していたことも示唆されました。
本成果は、地球外からの核酸塩基が生命誕生前の地球へ供給され、化学進化に寄与したことを示唆しており、米国の宇宙化学・地球化学専門誌『Geochimica et Cosmochimica Acta』誌にオンライン掲載されました。
同グループは先行研究において、小惑星リュウグウ(既報)やベヌー(既報)の試料から全5種の核酸塩基を検出し、それらが小惑星固有の物質であると結論づけています(既報)。一方、地球に落下した炭素質隕石からは全種検出の例がごくわずかでした。そこで本研究では、地球由来の汚染リスクが極めて低い南極氷床で発見された隕石を対象に精密な分析を行いました。
国立極地研究所より配分された6種の南極産の炭素質隕石(Yamato-791198等)を用いて、適切な前処理やカラムクロマトグラフィー分画を行ったのち、液体クロマトグラフィー/超高分解能質量分析法で精密な解析を行いました。また、環境ブランクとして1989年採取のセールロンダーネ山地の氷床コア試料224グラムについても同様の分析を行い、汚染の有無を検証しました。
分析した6種中3種の隕石から、5種の核酸塩基すべてを含む最大43種の窒素複素環化合物が検出されました。これは南極産隕石からの全種同定として初の報告です。対照的に氷試料からは核酸塩基が一切検出されず、落下後の氷との接触期間中に地球由来の汚染が混入しなかったことが明確になりました。また、隕石中のシトシンの存在量が著しく少ないことも判明しました。これはリュウグウ等の試料とは異なる特徴であり、隕石落下後の長期間にわたる化学反応(脱アミノ化)でシトシンがウラシルへ変化したと考えられます。長期間の地球滞在による組成変化の確認は、今後の太陽系物質の分析結果を理解する上で重要です。
南極で発見されている数万個の隕石に含まれる地球外固有の有機化合物を分析することで、宇宙空間での化学進化や、生命誕生前の地球に供給された物質の解明が期待されます。また本研究の計測法は、火星衛星探査(MMX:Martian Moons eXploration)や月探査(アルテミス計画)で将来持ち帰られる稀少な太陽系物質の試料解析にも極めて重要な役割を果たします。
Distribution of purine and pyrimidine bases in Antarctic carbonaceous meteorites
(南極産炭素質隕石中プリン、ピリミジン塩基の分布)
Geochimica et Cosmochimica Acta
詳しくは、北海道大学のプレスリリースをご参照ください。
https://www.hokudai.ac.jp/news/2026/07/5-44.html