知ろう!記者に発表した最新研究

2009年8月6日発表
新技術・合成ごうせい開口かいこうソナー誕生たんじょう
海の下を、はっきりうつし出す!

海の下はどのようになっているのでしょうか。深いふかいところまでもぐると、そこは静けさと暗やみにつつまれています。大きなライトを使っても遠くまでは見えないので、カメラでは海の下をきれいにうつすことはできません。ですが暗くても海の様子を教えてくれるものがあります。ソナーという装置そうちです。どんなに暗くても、これを使えば海底火山などがどこにどんな形であるのかわかります。さらに海底の土の種類までも見分けられます。

このたび、新しいソナー「合成開口ソナー」が誕生しました。これを使えば、今までのソナーよりも海の様子をもっとくわしくきれいに調べられます。これからは海の下の形の調査や資源しげん探査たんさがさらに進むでしょう。

ソナーってなに? 音で海の下を調べる装置です

図1:ソナーのしくみ

ソナーは海の下の様子を画像にうつしだす装置で、ほとんどの船や水中ロボットに付いています。原理は次の通りです。

(1)まず情報を集めるために、見たい所にソナーから音を送ります(図1)。この送った音は海底や物に当たると、はね返ってきます。この「はね返ってくるまでの時間」と「はね返ってきた音の大きさ」を、ソナーで計ります。ソナーをゆっくりと移動させ、場所を変えながら何度もこれをくり返します。


(2)ソナーが集めた1つひとつの情報をコンピュータで光の点にかえて、画像を作ります。例えば、音がはね返ってくるまでの時間から、ソナーと海底や物のきょりがわかります。はね返ってくるまでの時間が長い時は、きょりが遠いと判断します(図2a)。かべに向かってボールを投げた時、かべが遠いとボールが返ってくるまでに時間がかかるのと同じです。そして、光の点を画像の上の方にうつします。反対に、はね返ってくるまでの時間が短い時はきょりが近いと判断して、光の点を画像の下の方にうつします(図2b)。



図2:「音がはね返ってくるまでの時間」と「きょり」の関係

また、はね返ってきた音の大きさから海底や物の種類(岩やどろ)を見分けます。はね返ってきた音が小さい時は、海底や物はやわらかいと判断します(図3a)。かべに向かってボールを投げた時、かべがやわらかいとボールがあんまり返ってこないのと同じです。この場合は暗い光の点を画像にうつします。反対に、はね返ってきた音が大きい時は海底や物はかたいと判断し、明るい光の点を画像にうつします(図3b)。



図3:「はね返ってきた音の大きさ」と「海底や物の種類」の関係


図4:完成した画像

(3)(1)と(2)を何度もくり返すことで、無数の光の点が画像にうつしだされます。こうすることで画像が完成し、海の下のどこに何があるかがわかります(図4)。

そして今回、このソナーをパワーアップさせた「合成開口ソナー」が発明されました。


合成開口ソナーってなに? 小さいのに、大きなソナーよりも性能が高いソナーです

写真1:合成開口ソナー


写真2:水中ロボット「うらしま」に取り付けられた合成開口ソナー

合成開口ソナーは水中ロボット(写真2)にのせられて、海の中を移動しながら使われます。


これのポイントは、ソナーを少しずつ移動させて同じところをちがう方向から何回も音をあてて調べることです(図5)。


図5:合成開口ソナーで海の下を見るしくみ

ソナーを移動させることで、はね返ってきた音を受け取る部分(開口)を合体(合成)させ、大きなソナーをコンピューターの中に作ることできます。これが、合成開口ソナーという名の由来です。さらに今回は、はね返ってくる音をより正確でベストなタイミングでキャッチするために、開口の向きを変えるビームステアリングという機能も付いています。音を正確に処理しょりできるので、もしも海があれて合成開口ソナーがぐらぐらゆらされたり、はね返ってくる音の伝わり方がきたなくなったとしても、画像のしあがりは影響えいきょうを受けません。これらの機能によって、合成開口ソナーは海底や物の形・種類をずっと細かく調べられるようになりました。合成開口ソナーのサイズは50cmくらいで小さいのに,10mのふつうのソナーよりもはるかにすぐれています!また、この合成開口ソナーに合わせて情報を処理するコンピュータの性能も高くしたので、画像が早く完成するようになりました。

どれくらい画像がきれいになったの? 画像を比べると、ほらくっきり!

下の図(図6)は海にしずんだ古い船です。左右の画像のちがいがわかりますか?合成開口ソナーで見た右の画像は、船の形がずっとくっきりうつっています。


図6:ふつうのソナー(左)と合成開口ソナー(右)の画像のきれいさ比べ

これからはどうするの? どんどん海で使って研究に役立てます

合成開口ソナーによって海の下の様子がよくわかるようになったので、これからは調査のこうりつが上がるでしょう。メタンハイドレートなどの海の下の資源をどんどんさがしだせるかもしれません。そのためにも、もっと画像がくっきりするように改良を続けます。

海にかこまれた島国、そして技術大国日本として、海の探査の技術は欠かせません。技術のさらなる発展を目指して、研究者は今日も実験にいどんでいます。

研究者のかくれた顔をご紹介

研究者は、あらゆることを解決してしまうスペシャリストです!

合成開口ソナーの開発は、失敗と問題の連続です。例えば、海で実験をしている時に、海中の合成開口ソナーの電源が入らない、ソフトウェアに不具合がおきる、などのトラブルはひんぱんです。そんな時、研究者は「なんでも屋さん」に変身します。これまでの経験と知識をいかして合成開口ソナーを修理してしまうのです。また、船上の電話で部品やソフトのメーカーに相談して解決方法をさがしだし、直してしまうこともあります。研究者は合成開口ソナーだけではなく、ソフトや電気、何でも「おまかせあれ!」なのです。

実験現場は、学校で勉強する理論りろんの通りに進まないことばかりです。研究者は、学校で専攻せんこうしたことだけではなく、トラブルに応じて解決策を見つけるパワーも求められているといっても過言ではありません。船上という道具も部品も人材も限られている世界で、研究者はあらゆる知識、経験、そして人脈じんみゃくをフル回転させて、新しい技術の開発に向けて全力をそそいでいます。かっこいいですね!


研究者からのメッセージ

将来、この合成開口ソナーが1せきの船や1台の水中ロボットに1台ずつのることを目指しています。これを読んでくれたみんな、将来一緒にソナーの研究をしましょう。楽しいですよ!横須賀の海洋技術研究とうで待っています!

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