知ろう!記者に発表した最新研究

2009年11月20日発表
北極海に異変いへん
貝ガラをもつ生き物にとって、くらしにくい海になっちゃった!

海に住む貝のカラは、何からできているのでしょう?答えは、炭酸たんさんカルシウムというものです。この炭酸カルシウムは、炭酸イオンとカルシウムイオンという海水中の成分から作られます。ところが今回、北極海ではこれらの量が少なくなっていることがわかりました。原因は大きく2つに分けられます。1つ目は、空気中にえた二酸化炭素の一部を海が取りこむことによって海の酸性化が進んだからです。2つ目は、温暖化おんだんか影響えいきょうによって海氷がとけたからです。炭酸イオンやカルシウムイオンが少ないと、炭酸カルシウムはとけやすくなってしまいます。北極海は今、炭酸カルシウムのカラなどをもつ生き物にとって、くらしにくい海になりつつあると言えます。

炭酸イオンとカルシウムイオンってなに? 炭酸カルシウムのカラなど、貝やプランクトンの体の一部を作る材料です

炭酸イオンとカルシウムイオンは、海の生き物にとってとても大切です。これらの成分が作る炭酸カルシウムが生き物をささえるからです。たとえば炭酸カルシウムでできたカラは、動き回ることが苦手な貝にとっててきから身を守るたてとなります。また、海をただようプランクトンにとっては、うきしずみするための道具となります。カラだけではなく、サンゴや魚の骨格こっかくも炭酸カルシウムです。

そんな大切な炭酸カルシウムを作る炭酸イオンとカルシウムイオンですが、近年「北極海では少なくなっているかもしれない」との声が聞こえるようになりました。炭酸イオンとカルシウムイオンが少ないと、炭酸カルシウムが海にとけやすくなってしまいます。炭酸カルシウムがとけると、カラなどをもつ生き物は生きていけません。影響は深刻しんこくです。心配した研究者が、北極海における炭酸カルシウムのとけやすさを調べました。

北極海の炭酸カルシウムのとけやすさは、どうなっていたの? 炭酸カルシウムはとけやすくなっていました
「酸性化が進んだこと」と「海氷がとけたこと」の2つが重なったためです

図1:1997年と2008年の炭酸カルシウムのとけやすさ

2008年、研究者は研究船にのって北極海を観測かんそくし、1997年のデータとくらべました。結果はおどろきで、研究者は目をみはりました。1997年では十分にあった炭酸イオンとカルシウムイオンの濃度のうどが、2008年ではうすくなっていたのです。つまり、炭酸カルシウムがとけやすくなってしまったのです(図1)!

さらにくわしく研究を進めたところ、この原因は「海の酸性化が進んだこと」と「海氷がとけたこと」の2つが重なったためだとわかりました。


どうして海の酸性化が進んだり海氷がとけると、炭酸カルシウムがとけやすくなるの? (1)酸性化が進むと、炭酸イオンが消費されるからです
(2)海氷がとけると、二酸化炭素が海に取り込まれやすくなって酸性化が進み、また炭酸イオンとカルシウムイオンの濃度がうすくなるからです

(1)北極海で炭酸カルシウムがとけやすくなった理由の1つ目は、海の酸性化が進んだためです。海の酸性化とは、ふつうは弱いアルカリ性の海が酸性に近づくことです。海の酸性化の原因げんいんは工場のけむりや自動車の排気はいきガスなど、人間が生活の中で出す二酸化炭素です。


図2:海と空気の間を出入りする二酸化炭素

二酸化炭素は海と空気の間でたえず出入りしていて、中でも人間が出す量のおよそ3分の1は海に取りこまれます(図2)。


二酸化炭素は水にとけると酸性になるので、海の二酸化炭素が増えると海は酸性に近づきます。すると、酸性化をやわらげよう(中和ちゅうわ)として、炭酸イオンが消費しょうひされます。つまり、酸性化が進むほど炭酸イオンがり、さらに限界げんかいをこすと炭酸カルシウムはとけやすくなってしまうのです(図3)。


図3:酸性化・二酸化炭素・炭酸イオンの関係。これらは、炭酸カルシウムのとけやすさに大きな影響を与えます。

今回の研究では、北極海では空気中の二酸化炭素が増えたことにともなって海の二酸化炭素も増えて、酸性化が進み炭酸カルシウムがとけやすくなったことが明らかになりました(図4)。


図4:北極海の炭酸カルシウムがとけやすくなった理由(1)

(2)炭酸カルシウムがとけやすくなった理由の2つ目は、温暖化によって海氷のとける量が増えたためです。海氷がとけると、これまで海水面をおおっていた海氷のふたが減ることになります(図5(a))。すると空気にふれる海水面が増えて、空気中の二酸化炭素が海に取りこまれやすくなります。結果、海の酸性化が進み、これをやわらげようとしてまた炭酸イオンが消費されたのです。さらに、真水まみずに近い海氷のとけ水によって海水がうすまり、したがって炭酸イオンとカルシウムイオン濃度もうすまったのです(図5(b))。


図5:北極海の炭酸カルシウムがとけやすくなった理由(2)

これからはどうするの? 研究者は今後も観測を続け、北極海の変化を明らかにしていきます

炭酸カルシウムがとけやすくなって貝やプランクトンが減ると、これをエサとしてきた魚などの食べ物も減ってしまいます。1つの種の生き物がいなくなると、他の生き物をもほろぼし、さらに他の生き物へと影響を広げるかもしれません。生き物への影響を調べるために、研究者はこれからも観測を続けます。また一方で、生き物にどんな影響がでるのかを予測するために、実験室で実験をします。研究者は地球を守るために、北極海の変化とそれによる影響を明らかにしていきます。

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