知ろう!記者に発表した最新研究

2010年8月3日発表
日本のまわりの海は、生き物がいっぱい!

日本をとりかこむ海には、何種類の生き物がいるのでしょうか?クジラ、マグロ、イカ、エビ、ヒトデ、クラゲ…。

今回、研究者は「日本近海にはどんな生き物がどれだけいるのか」を明らかにするために、50人の研究者と協力して、これまで 蓄積ちくせきされてきたデータを調べました。その結果、3万3,629種が確認かくにんされました。その種の数は、約25万種いるとされている地球上の海の生き物のうちの、約13.5%にあたります。実は、日本近海の容積は地球全体の海の1%もありません。それにも関わらず約13.5%の生き物の種がいるということは、日本近海というせまい範囲はんいには様々な種類の生き物がいるということになります。特に多かったのは、イカやカイなどの軟体なんたい動物(8,658種)、エビやカニなどの節足せっそく動物(6,393種)でした。

研究者は、「今回確認できたのは、まだほんの一部。日本近海には調べられていない種が、まだまだたくさんいるはず」と話していて、調査は今後も続けられる予定です。

どうして海の生き物の種類の数を調べるの? 海の生き物の豊かさを守るためです

みんなは、ふだんどんなふうに海の生き物と関わっていますか?一番身近なのは、食卓しょくたくにならんだ魚や貝でしょうか。他にも、ホヤやサメにふくまれる成分から薬がつくられるなど、人間は海の生き物からたくさんの恩恵おんけいを受けています。けれども近年、たくさんの種が絶滅ぜつめつしつつあります。その原因は、工場や家庭から出る排水はいすい、開発などによる自然破壊はかい、また地球ちきゅう温暖化おんだんかなどです。これらは海の環境かんきょうを変え、生き物の「おたがいをささえあう」関係(食って食われる関係)(図1)のバランスをくずしてしまうのです。そのバランスはとても微妙びみょうなので、一度くずれてしまうと、人間の力ではもとにもどせません。

海の生き物の食って食われる関係

図1:海の生き物の食って食われる関係


人間は自然破壊をせずには生きていけないことも事実です。だからこそ、まずは自然環境、生物の多様性たようせい解説1)を理解して、守る努力が必要です。そのためにはまず、どんな種が、どこに、どれくらいいるのかを知ることが大切です。そこで2000年、「海洋生物のセンサス」という国際プロジェクトがスタートしました(図2)。これは、生き物の種、 海域かいいき、数などを調べて、世界初の海の生き物のデータベース(解説2)を作ろうという壮大そうだいなプロジェクトです。80カ国からおよそ2,000人の研究者が参加しています。今回は、日本近海の生き物に関する調査が行われました。

地球の気候を安定させる大切な海流

図2:世界各国が参加する海洋生物のセンサス

調査はどうやって行われたの? 全国の研究者50人が協力して、日本近海のこれまでのデータをまとめました

調査の対象は、沿岸から約370kmまでの範囲の海です(図3)。

調査を行った海域

図3:調査を行った海域

生き物の種の数については、なんと、目に見えないくらい小さなバクテリアから、大きなほにゅう類まで、すべての生き物を調べました。50人の海洋生物の研究者が協力しました。

これまで蓄積されてきたデータを調査

図4:これまで蓄積されてきたデータを調査

どんな成果がでたの? 日本近海は生き物の宝庫であることがわかりました!!

【その1】日本のまわりには、バクテリアからほにゅう類まで合わせると3万3,629種類の生き物がいました。これは、世界の海の1%にも満たない日本近海が、世界の海の生き物の種の数(25万種)のおよそ13.5%をしめるという結果です(図5)。日本近海には実に様々な生き物がいるということになります。

日本近海の生き物の割合

図5:日本近海の生き物の割合


【その2】種の数が1番多かったのは、イカ、タコなどの軟体動物で8,658種でした(図6)。2番目はエビやカニなどの節足動物で6,393種でした。また、日本近海にしかいない固有種(解説3)は1,872種、外国の海からきた外来種(解説4)は39種が確認されました。

多かった種トップ3

図6:多かった種トップ3

どうして日本近海にはたくさんの生き物がいるの? 日本近海には様々な気候と環境があるからです

日本列島は南北に長い列島です(図7)。北からは冷たい海流が、南からはあたたかい海流がそれぞれ流れ、様々な気候を作りだします。気候がちがえば、寒い海が好きなものやあたたかい海が好きなものなど、生き物の種が変わります。さらに、太平洋側には海底の谷である 海溝 かいこうがあります。明るい浅い海で生きるもの、まっ暗で高水圧の深海に生きるもの、深さによっても種は変わります。様々な環境があれば、それだけ生き物の種類も広がるのです。

様々な環境がある日本近海

図7:様々な環境がある日本近海

これからはどうするの? もっと調査をして、データを蓄積させていきます

2010年10月に名古屋で行われる「生物せいぶつ多様性たようせい条約じょうやく」に関する国際こくさい会議かいぎでは,海の生物の大切さや利用のしかたについて話し合いが行われる予定です。一方で、研究者は今後も調査を続けて、データベースを蓄積させていきます。このようなデータベースがあれば、人が海の生き物を大切にしながら利用する社会をきずくことにつながります。たとえば、特にたくさんの種がくらす海域がわかれば、そこを優先ゆうせんして保護する海域にできるでしょう。また、海をうめ立てて開発する場合、候補こうほの海域に棲む生物がわかれば、めずらしい生き物などのくらす海域をさけることもできます。

生物多様性の豊かさを守るために、研究者は今日も研究にはげみます。

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解説が入る

解説1:生物の多様性

様々な種の生き物がいること。そのさま。

解説2:データベース

あるテーマに関するデータをたくさん集めて、目的にあわせて必要なデータだけを探したり取り出したりするもの

解説3:固有種

その国、その地域、その海域にしか棲んでいない生き物の種のこと。

解説4:外来種

別の場所から、人間活動によって運ばれてきた生き物の種のこと。