知ろう!記者に発表した最新研究

2013年3月14日発表
新たな地震計じしんけい誕生たんじょう
超深海型ちょうしんかいがた海底地震計かいていじしんけい」と「大規模展開型だいきぼてんかいがた海底地震計かいていじしんけい

海底地震かいていじしんのみはり番、「海底地震計」。このたび、新たな海底地震計が2種類誕生たんじょうしました。浅川 賢一 博士あさかわけんいちはかせが京セラ株式会社と開発したセラミックスせい耐圧球たいあつきゅうを使った「超深海型ちょうしんかいがた海底地震計かいていじしんけい」と、渡邊 佳孝 博士わたなべよしたかはかせ日本海洋事業株式会社 にほんかいようじぎょうかぶしきがいしゃと開発した「大規模展開型だいきぼてんかいがた海底地震計かいていじしんけい」です。いったいどんなもの? 今回は、最新の海底地震計を紹介しょうかいします!


まず、海底地震計ってなに? 地震の発生しそうな海底に設置して、地震による地面の動きをとらえる観測所です

海底地震計には種類がありますが、今回は「自己浮上式じこふじょうしき海底地震計かいていじしんけい」を紹介します。これは、耐圧容器たいあつようきに入ったセンサ(3次元速度計じげんそくどけいまたは加速度計かそくどけい)や記録装置きろくそうち、電池のほかに、重り、位置計測いちけいそくや重りの切りはなしに使う音響おんきょうトランスポンダ、浮上時ふじょうじに位置を知らせるフラッシャーやラジオビーコンなどからできています。

地面の動きを調べるのはセンサ(速度計)で、耐圧容器の中でもっとも地面に近い底に位置します。1台が上下方向、もう2台が水平方向の動きをとらえます(図1)。

センサ

図1:センサ

センサは、コイルで巻かれた永久磁石えいきゅうじしゃくなどからできています。地震でゆれると永久磁石の磁界じかいの中でコイルが動いて電気が発生し、電流が流れます(図2)。ゆれが大きければ電流はたくさん流れ、ゆれが小さければ電流は少し。その電気信号の変化が観測データとして記録されます。

地面の動きをとらえるセンサ(速度計)の原理

図2:地面の動きをとらえるセンサ(速度計)の原理

設置は、重りをつけて海中へ自由落下(図3)。その後、自然地震の観測のほか、海底下構造かいていかこうぞうの調査を行います。海底下構造は、船のエアガン(※エアガン:圧縮あっしゅくした空気を急激きゅうげきに開放することで人工地震波じんこうじしんはを発生する装置そうち)から発振される人工地震波(音波)の海底下の地層からの反射波はんしゃは解析かいせきして行います。観測や調査が終わると、船から音響信号おんきょうしんごうを送り、重りを切り離し浮上させて回収します。その後、記録された観測データを取り出します。

海底地震計の設置から回収まで

図3:海底地震計の設置から回収まで

海底地震計は地震研究において非常ひじょうに重要ですが、これまでのものは研究船に一度に搭載とうさいできる数や、運用とメンテナンスにかかる作業に制限せいげんがあるため、一度の研究航海で広い範囲はんいにたくさんは設置できませんでした。また、耐圧性不足たいあつせいぶそくにより、水深6,000mより深い震源域しんげんいきは観測できませんでした。そこで浅川博士と渡邊博士が、新たな海底地震計の開発にいどんだのです。

どんな海底地震計を開発したの? 「大規模展開型海底地震計」と「超深海型海底地震計」です

まず、渡邊博士が日本海洋事業株式会社と開発した「大規模展開型海底地震計」を紹介します(写真1)。たくさんの数を効率的こうりつてきに設置する海底地震計で、大きなポイントは次の3つです。

大規模展開型海底地震計

写真1:大規模展開型海底地震計

ポイント1. 小型・軽量化で、使いやすさも性能もアップ!

これまでのガラス製耐圧容器は直径約43pでしたが、大規模展開型海底地震計では直径約33pまで小型化しました。中にはセンサや記録装置、電池、そしてこれまで耐圧容器の外にあった音響トランスポンダ、ラジオビーコン、フラッシャーをおさめました(図4)。これにより面積は約4分の1の0.16m2、重さは約3分の1の35s! 容器の小型化により、水深7,000mまで設置可能になりました。

大規模展開型海底地震計

図4:大規模展開型海底地震計

小さく軽いと使いやすいだけではありません。海底地震計で最も重要なのは、「いかに正確に、海底の動きを観測できるか」。もし海底に速い潮流ちょうりゅうがあれば、耐圧容器本体や外に配置はいちされている装置が流れの影響えいきょうを受けて振動しんどうするおそれがあります。それをふせぐために大規模展開型海底地震計は、これまで耐圧容器の外にあったものを中に収め周囲の影響を減らし、海底の動きをきわめて正確にえるようにしたのです。

ポイント2. 非接触電力ひせっしょくでんりょく伝送技術でんそうぎじゅつの開発

ふつうの海底地震計の充電じゅうでんや設定を行うときは、専用せんようの場所で1台ずつ耐圧容器をあけてケーブルをつなぎます。これでは手間も時間もかかって大変! そこで大規模展開型地震計は、ケーブルを使わずにそれらを行う「非接触電力伝送技術」を開発しました。

充電は耐圧容器の外から耐圧容器のガラスごしに行います(図5)。耐圧容器にケーブルを通すためのあなをあける必要がなく、孔からひびわれが広がるリスクがります。

非接触電力伝送技術で、ケーブルでつながずに充電

図5:非接触電力伝送技術で、ケーブルでつながずに充電

観測条件かんそくじょうけんの設定や観測データの回収は、無線LANを使って、数十台の海底地震計を耐圧容器を閉じたまままとめて行います。観測で重要となる時刻設定じこくせっていもGPSを使ってかんたんに正確に調整。ちょう時短ワザです。

 
ポイント3. 切り離し装置に細径樹脂ワイヤを使う

海底地震計を回収するときは、まず船から音響信号を送ります。すると、音響信号を受けた音響トランスポンダから切り離し装置に電流が流れ、本体と重りの接続部分せつぞくぶぶんがとけて重りが切り離され海底地震計が浮上します。

これまでその切り離し部分はステンレスでできていて、電蝕作用でんしょくさようでとけるまでに約10分かかりました。そこで大規模展開型海底地震計では、電流の流れやすいニクロム線をまいた細い樹脂じゅしワイヤを熱でとかす方式を開発し、超短時間で切り離しできるようにしました(図6)。重り切り離しまでの時間は約3秒! 時間も電力も超節約!

切り離し装置

図6:切り離し装置

大規模展開型海底地震計は、これまでと同じ設備せつびや人数と時間で一度にあつかえる台数がこれまでの4〜5倍にふえます。より大規模かつ精密せいみつに観測できると期待されます。

次は、浅川博士が開発に京セラ株式会社と開発したセラミックス球耐圧容器を用いた「超深海型海底地震計」を紹介します(写真2)。設置できる水深は、水深11,000m! 大きなポイントは次の2つです。

超深海型海底地震計

写真2:超深海型海底地震計

ポイント1. 圧力に強いセラミックス製の耐圧容器を開発

大深度で使う耐圧容器に求められるのは、高い水圧を受けてもつぶれない頑丈がんじょうさと、回収するとき浮き上がりやすい軽さが求められます。浅川博士は、金属よりも圧縮の力に強くて軽いセラミックスを選びました(図7)。

セラミックスの特徴

図7:セラミックスの特徴

ポイント2.耐圧容器の強度を維持する孔を設計

超深海型海底地震計の耐圧容器には、耐圧容器の外の機器(音響送受波器おんきょうそうじゅはきや重り切り離し装置など)と、中の電子回路をつなげるケーブル用の孔をあける必要があります。でも、孔をあけると耐圧容器が弱くなるので補強ほきょうが必要です。とは言っても補強しすぎると、力のバランスがくずれて今度はそのまわりが弱くなります。浅川博士は計算しながら、圧力がバランスよく分散ぶんさんする孔の形や大きさをデザインしました。

この新たなセラミックス製耐圧容器を海底地震計に使うことで、世界で最も深い水深11,000mへの地震計設置が可能になりました(図8)。

耐圧容器の強さを維持したまま、孔をあける!

図8:耐圧容器の強さを維持したまま、孔をあける!

これからはどうするの? より多くの海底地震計で、より深い震源域まで調査していきます

新たな海底地震計により、地球上すべての海で観測できるようになりました。大規模展開型海底地震計を一度に大量に設置できれば、大深度の震源域に超深海型海底地震計を設置できれば、これまでわからなかった海域や構造をよりくわしく調べることができます。地震発生メカニズムの解明につながると期待されます。

大規模展開型海底地震計を開発した渡邊博士は、「地震を防ぐことはできない。けれど、地震計を使った調査で、被害ひがいを減らすことにつなげていきたい」と話します。

超深海型海底地震計を開発した浅川博士は、「この耐圧容器は、地震計だけではなく他の分野でも使える。様々な分野で活かしてほしい」と語ります。

 
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