知ろう!記者に発表した最新研究

2014年5月7日発表
(ねつ)帯域(たいいき)気候(きこう)が1カ月先までわかる!
スーパーコンピュータ「(けい)」を使って「マッデン・ジュリアン振動(しんどう)現象(げんしょう)予測(よそく)に成功!

熱帯域には、巨大(きょだい)積乱雲(せきらんうん)()れがもくもく発生して東へ進む「マッデン・ジュリアン振動」(MJO)と呼ばれる現象があります。発生すると、熱帯域の気象やエルニーニョ現象に大きな影響(えいきょう)を与え、熱帯域には 豪雨(ごうう)、日本には猛暑(もうしょ)・冷夏などをもたらします。

そのMJOを、これまでの倍の1ヶ月先まで予測することに成功しました。宮川(みやかわ) 知己(ともき) 博士(はかせ)の最新研究を紹介します!

マッデン・ジュリアン振動って、なに?

マッデン・ジュリアン振動(MJO)とは熱帯域で発生する現象です。まず、インド洋で数千kmもの巨大な積乱雲群が発生して、赤道ぞいに東へ進み、太平洋上で消えます(図1)。水蒸気(すいじょうき)が雲に変わるときに熱が放出(ほうしゅつ)されるため、巨大な積乱雲ができて 移動(いどう)するということは、大きな熱のかたまりが移動するということ。だから積乱雲が消えても影響はのこって、大気の波がすーっと地球を1周して伝わってきます。この一連がMJOです。発生から終息まで30〜60日ほどです。

図1 マッデン・ジュリアン振動

図1 マッデン・ジュリアン振動

MJOは熱帯域で豪雨や洪水などを引き起こし、農作物や人々の生活に大きな打撃(だげき)をあたえます(図2 )。エルニーニョ現象の発生・終息や、台風の発生とも関わり、日本に熱波(ねっぱ)/寒波(かんぱ)や多雨・ (かん)ばつをもたらすこともあります。

図2 MJOによる被害

図2 MJOによる被害

MJOがいつ発生し、どこへどれくらいの強さで進むのか。それが予測できれば防災(ぼうさい)や天気予報に役立ちます。そこでジャムステックは、実際(じっさい)に熱帯域へ行ってMJOを 観測(かんそく)したり、シミュレーションを使った研究に取り組んでいます。

シミュレーションって、なに?

シミュレーションとは、実験できない地球(ちきゅう)規模(きぼ)の現象などを調べるときにコンピュータの中にその現象を再現することです。地球の大気や海を細かく区切り、それぞれの区切りの中で気圧や気温、海水温、風などを計算して行います。

これまでジャムステックは、MJOのシミュレーションを横浜研究所にあるスーパーコンピュータ(スパコン)「地球シミュレータ」でモデル「NICAM」を使って取り組んできました。「NICAM」とはコンピュータに計算をさせる手順書のようなもの。区切りを数百m〜十数km (はば)の正20面体まで細かくして計算することで、ふくざつな動きをする「雲」を1つひとつ精密(せいみつ)につくりだし、シミュレーション技術を大きく向上させた優れたモデルです。

図3 NICAMの原理イメージ

図3 NICAMの原理イメージ

ただ、それでも、MJOはとてもふくざつなため、1回は再現できても繰り返しはできませんでした。予測レベルに上げるためには、もっと繰り返し再現してデータが必要です。そうなるとさらに 莫大(ばくだい)な計算が必要ですが、「地球シミュレータ」ではできる量もスピードも計算が追いつきません。

そこで宮川博士たちが、新技術(しんぎじゅつ)を使ったMJOのシミュレーション研究に(いど)んだのです。

どんな研究をしたの?

宮川博士が考えたのは、「 理化学研究所( りかがくけんきゅうしょ)のスーパーコンピュータ『 (けい)』(写真)を使えば、MJOをたくさんシミュレーションできる。それを実際の観測データと (くら)べれば、どれだけシミュレーションが正しいかわかる。もし正しくできていたら、予測に役立つ」という流れ。「京」とは、莫大な計算を 超高速(ちょうこうそく) でこなせる(計算速度は1秒間に1京回(1兆の1万倍)!)、2011年には世界第1位を記録した優れたスパコンです。

写真 スーパーコンピュータ「京」(兵庫県) 写真提供:理化学研究所

写真 スーパーコンピュータ「京」(兵庫県神戸市)
写真提供:理化学研究所

 

宮川博士たちの研究チームはNICAMを「京」で使えるようにつくりかえ、2003年〜2012年までの冬に発生した19回のMJO のシミュレーションに挑みました。

シミュレーションは、MJOが移動すること、またMJOの中心がどこにいると日本の気象が影響を受けるかという点などをふまえ、スタート地点をインド洋西部、インド洋東部、アフリカ大陸上の3カ所に設定し、計54回行いました。そして実際の観測データと比べました。 その結果、観測データと近いシミュレーションに成功しました(図4)! ふつうのプログラムでは苦手とする局所的(きょくしょてき)な豪雨もばっちり!

図4 シミュレーションと観測データの比かく

図4 シミュレーションと観測データの比かく

では、シミュレーションはどれほど正しかったか。それはスコアで 判断(はんだん)します。シミュレーションと観測データが完全に 一致(いっち)すればスコアは1、まったく一致しなければスコアは0。天気予報に使えるレベルは、スコア0.6以上です。

その結果、26〜28日前の予測からはスコア0.6以上となりました(図5)。これまでの技術では、スコア0.6以上をキープできたのは10〜14日くらいまででしたが、今回はその倍まで伸ばしたのです。

いいかえると、MJOは約1カ月先まで予測できる、ということ。世界最高レベルです!

図5 スコアの結果

図5 スコアの結果

これからはどうするの?

今回の研究により、MJOを約1カ月先まで予測できるようになりました。熱帯域で予報に使えば、災害に(そな)えることができるでしょう。日本では、 気象庁(きしょうちょう)などと協力すれば、日本付近の 季節(きせつ)予報(よほう)や台風発生の予測精度が上がるかもしれません。

しかしながら、まだMJOの発生メカニズムにはなぞが多く残されています。宮川博士は、「MJOについて一番重要(じゅうよう)なエッセンスを見つけ出して、MJOとはこういうことだよ、とかんたんに説明できるようにすることが目標」と話します。

また、「スパコンを使うシミュレーション研究は長年続けて積み重ねていくことが大切。みんな、将来はこの研究をしにきてね!」と、これを読んでくれているみなさんに期待をよせています。

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