知ろう!記者に発表した最新研究

2014年10月20日発表
北極域(ほっきょくいき)で地温に対する影響力(えいきょうりょく)が大きいのは、雪だった!
雪が多いと、地温が上がって永久凍土(えいきゅうとうど)がとける!

北極域のシベリアやカナダ、アラスカなど1年の平均気温が氷点下(ひょうてんか)地域(ちいき)では、2年以上凍ったままの土「永久凍土(えいきゅうとうど)」が広がっています。その永久凍土がいま、地面の温度(地温(ちおん)上昇(じょうしょう)にともない急激(きゅうげき)にとけだしています。大きな原因は、地球(ちきゅう)温暖化(おんだんか)。しかし、地域によっては単なる気温の上昇だけではなく、「積もった雪」が大きな影響を与えることが、このたび明らかになりました。いったいどういうこと?

朴昊(パク)(ホーテク)博士による最新研究を紹介します!

写真 永久凍土がとけだし陥没した地面

写真 永久凍土がとけだし陥没した地面(シベリア ヤクーツク)

 
永久凍土って、なに?

氷をふくみ凍った状態(じょうたい)の土や岩石を「凍土」、少なくとも2年以上凍った状態の凍土を「永久凍土」と呼びます(図1)。ただ永久凍土といっても(つね)に凍っているわけではなく、夏に気温が上がると表層(ひょうそう)がとけます。そのとける層を「活動(かつどう)(そう)」と呼び、その下に2年以上凍った状態の「永久凍土」があります。

図1 永久凍土

図1 永久凍土

 

近年、地球温暖化が進み、その永久凍土に異変(いへん)が起きています。それまで1.0〜1.5mほどだった活動層が2mを超すようになり、永久凍土が急激にとけだしたのです。

この影響で、シベリアなどでは土の中の水が増え 地盤(じばん)がゆるみ、地面が陥没(かんぼつ)したり木の根がくさって森林が()れたりしました(図2)。永久凍土の中には二酸化炭素やメタンなどの温室効果(こうか)ガスが()じこめられているので、永久凍土がとければそれらが大気に放出されて地球温暖化を加速させる(おそ)れがあります。北極域の環境が変われば、陸と大気の間の熱や水蒸気(すいじょうき)のやり取りが変わり、日本の気候にも影響をおよぼすでしょう。

地球の環境や気候変動を正しく理解し予測していくためには、永久凍土がとけだすメカニズムや将来どう変化するのか知ることが重要です。

図2 永久凍土がとけだすことによる影響

図2 永久凍土がとけだすことによる影響

 
なぜ、永久凍土は急にとけているの?

地温が上がり永久凍土が急激にとけている大きな原因は地球温暖化ですが、単なる気温上昇だけではなく、「積もった雪」も関係すると指摘(してき)されています。雪は空気をふくんでいるため、積もると地面をおおう 布団(ふとん)のような役わりを果たします。このため、大気の冷たさが地下へ伝わらず、また夏にあたたまった熱が大気へ放出されるのを (ふせ)ぐのです。つまり雪による断熱(だんねつ)効果(こうか)です。雪がたくさん積もれば断熱効果は高く、反対に雪があまり積もらなければ断熱効果は低くなります(図3)。

図3 雪による断熱効果

図3 雪による断熱効果

 

しかし、地温に対する雪の断熱効果がどれほどの影響力か数値的(すうちてき)にはわかっていません。そこで朴博士が、研究を始めました。

どんな研究をしたの?

朴博士は、永久凍土の広がる北極域で、地温に対する雪の影響力を明らかにするため、データを解析(かいせき)しました。

まず北極域の傾向(けいこう)を知るため、1901年から2009年まで109年間の、気温、地温、積もった雪の深さのデータを解析しました。その結果、東シベリアでは、気温がプラス1.5℃、地温はプラス1.87〜2.5℃と、気温より地温の方が上がっていました。雪は、1950年以降(いこう)が増えていました(図4左)。

一方、北米では、気温はプラス1.33℃、地温はプラス0.68〜0.97℃。気温に比べ地温はあまり上がっていません。特に1990年以降は、気温は急に上がっていますが、地温は横ばいか下がりぎみ。この期間の雪は、急に減っていました(図4右)。

図4 過去109年間の、東シベリアと北米の変化

図4 過去109年間の、東シベリアと北米の変化

 

何が起きたのでしょう。雪による断熱効果を考えると、地温が上がった東シベリアでは、雪がたくさん積もったため断熱効果が高くなり、大気の冷たさは地面の下へあまり伝わらず、地下の熱もこもったのだと考えられます。

反対に1990年以降地温があまり上がらなかった北米では、雪があまり積もらなかったために断熱効果が低く、地下の熱が大気へ逃げたのだと考えられます。

この仮説(かせつ)を確かめるため、朴博士はコンピュータで実験を行いました。まず、10月から2月の冬の間、雪のふる量を30パーセント増やすと(図5左)設定(せってい)①)…北極域の地温が高くなりました。反対に、雪のふる量を30%減らすと(図5右 設定②)…、北極域の地温は低くなりました。

図5 雪の降る量を増やすと、地温はどうなる?

図5 雪の降る量を増やすと、地温はどうなる?

 

雪と地温は連動する、つまり、地温に対して雪の影響力が確実(かくじつ)にあることを裏付けています。その傾向は特に高緯度で強くなっていました。

でもまだ、地温に対する気温の影響力も否定できません。朴博士は、雪と気温の影響力を比べるため、先ほどの実験に気温の変化も加えました。

雪を30%増やした設定①のまま気温を下げると…北極域の地温は上がったまま(図6左 設定③)。反対に、雪を30%減らした設定②のまま気温を上げると…北極域の地温は下がったまま(図6右 設定④)。

北極域の地温は、気温よりも雪と連動していたのです!

図6 雪に加えて気温を変化させると、地温はどうなる?

図6 雪に加えて気温を変化させると、地温はどうなる?

朴博士は、積もった雪の影響力を数値的に知るため過去40年間のデータを解析しました。その結果、北極域のアラスカや東シベリアでは地温に対する雪の影響力は50%を ()え、気温の影響力を上回っていたのです(図7)。この傾向は特に秋に強く見られ、冬全体の効果に匹敵(ひってき)するほど!

その一方、気温の影響力が大きい地域もあり、同じ北極域でも地域によって(こと)なることがわかりました。

図7 地温に対して影響力が大きいのは、気温と雪、どっち?

図7 地温に対して影響力が大きいのは、気温と雪、どっち?

これからはどうするの?

これまで地温に対する影響力が大きいのは気温だと考えられてきましたが、東シベリアやアラスカでは雪の方が大きく、同じ北極域でも地域により異なる特性があることが明らかになりました。

 

地球温暖化の影響で、今後、東シベリアと北米の一部地域では雪が増えると予測されています。雪が増えれば地温が上がり、永久凍土がとけて、温室効果ガスが大気に放出され地球温暖化が進み…と、さらに深く複雑なからみ合いが出てきます(図8)。

朴博士は、「これからはとけた水が植物に、また河川に分配されるプロセスを明らかにしたい」と語ります。

図8 気候への影響

図8 気候への影響

  << 一覧に戻る