ジャムステックに、新しい研究船が加わりました。その名前は「新青丸」です(写真1)。目的は、2011年3月11日に起きた東日本大震災が、東北の海の環境と生きものに及ぼした影響と回復の状況を調べ、震災の復興に役立てること。今回は、その「新青丸」を紹介します。建造にたずさわった人と、船を動かす人たちにインタビューをしてきました。
写真1:東北海洋生態系調査研究船「新青丸」
「新青丸」は、全長66メートル、幅13m、総トン数1,629トン、最大航海速力13.2ノット(時速約24.4q)、定員41名。ジャムステックの中では、もっとも小さな研究船です。船名は、2013年1月に退役した「
淡青丸
」の
後継船であること、そして東北地方の「新生」に貢献することを目指して命名されました。
「新青丸」のコンセプトは、「東北の海を走り回って何でもできる船」。そう語るのは、「新青丸」の建造に最前線でたずさわった、前田 和宏さんです(写真2)。
写真2:前田 和宏さん
もともとは、淡青丸の心臓部「機関」を担当する機関士です。手にもつのは、特別につくったキャップ。船員さんがデザインした船のマークが入っています。
そのコンセプトをかたちにするため、「船を造る人、動かす人、そして調査をする人たちで一緒に考え、これまでつちかった技術
と最先端の技術を結集させました」と話します。
「新青丸」の最大の特徴
は、動きの良さです。そのカギを
握るのは、「アジマス推進器」と「ダイナミックポジショニングシステム」(DPS)です。
推進器とは、船尾についたプロペラです(図1)。多くの船は、前に進むときはプロペラを回転させ、曲がるときはプロペラの後ろにある舵
の向きを変えます。でも実は、船は曲がるのが苦手です。この方法だと、たとえば自転車のように、ある
程度以上のスピードで走らないと曲がれず、細かい動きもできません。
図1:舵の向きを変えて曲がる船
そこで「新青丸」は、「アジマス推進器」と呼ばれる直径250pのプロペラ(2基)にしました(図2)。プロペラ自体が360度ぐるぐる自在に回転します。回転スピードを変えながら船の向きや位置を調整し、一カ所にどまることも真横に動くこともできるのです。
図2:「新青丸」のアジマス推進器
実際に「新青丸」を操船する航海士の藤井 商藏さんは、「操船ハンドルをちょっと傾けるだけでびゅーっと曲がる。これなら、万が一の時にも回避が早い。「新青丸」に乗ってよかったと思うのは、アジマス推進器!」と大絶賛
しています(写真3)。
写真3:元気いっぱいの藤井航海士
海中に機器などをおろして調査をするとき、船は
潮
に流されずに一カ所にとどまらなければなりません。でも船が海上で一カ所にとどまるのは大変です。多くの船は流れや波、風を考えながら舵を調整しパワーを大量についやします。そこで「新青丸」につけたのが、ダイナミックポジショニングシステム(DPS)です。
人工衛星からの電波や海底に置いたトランスポンダという装置からの音の信号により、常に現在地を調べて、コンピュータによりアジマススラスタ2基と船首にあるバウスラスタ1基を動かし一カ所にとどまります。早い流れや波がきても流されません。
図3:DPS
「ジョイスティック」を使えば、手動で微調整もできます(写真4)。
写真4:DPSを操作するところ
船を操船するコンソール(操舵室)のコンセプトは、「飛行機のコクピットのように」。前田さんは、「すべての情報がわかって、右側のイスに座れば一人でも操船できるようにした」と説明します。
黒いシックな操縦盤には、レーダー、電子海図、警報装置、操船ハンドル、DPS操縦スタンドなどをコンパクトに配置しました(写真5)。上にはモニタがあり、船内24カ所にあるカメラが映す船内の様子を確認できます。
写真5:最新の計器などが組みこまれた操縦盤
船内には無線LANを使ったネットワークも作りました。ノートパソコンやタブレットコンピュータを使えば、航跡、気象、船のかたむきや燃料、エンジンがどれくらいパワーを使っているか、などはもちろん観測機器で得られたデータだってリアルタイムに確認できます(写真6)。わざわざその現場に移動せず部屋でもかんたんに確認できるので、とっても便利!
写真6:タブレットコンピュータで情報を手軽に確認
前田さんは、「いままでの考えも大切にしつつ、これから先ふつうになっていく最先端の技術を取り入れて、これまでの考えにとらわれない船を造りたかった」と語ります。
そして誕生した、コンパクトな船体に最先端の技術がつまった「新青丸」には、東北の海を調査して震災の復興に役立てるための「こだわり機能」もつまってます。後編では、それらを紹介します。
<< 一覧に戻る