「よこすか」は、ブラジルのサントス、そしてプエルトリコに寄港し、カリブ海の英領ケイマン諸島周辺へ向かいます。この海域の調査には、イギリス・サザンプトン大学やアメリカ・ウッズホール海洋研究所が参加予定で、BioGeos の高井 研 プログラムディレクターが指揮を執ります。
ケイマンライズには水深5,000mという世界最深の熱水域があり、400°Cを超える熱水が湧いているといわれています。400°Cの環境でも生物は生息できるのか、生命の生息限界に迫り、微生物との共生など、極限環境における生き残り戦略を明らかにします。
かつてつながっていた太平洋と大西洋が、300万年前にアメリカ大陸が陸続きになったことで分断されました。生物の交流が絶たれ、太平洋に起源を持つ生物が大西洋でどう進化しているかを調べ、生命の適応や進化について探ります。
※気象、海象などの事由により、今後変更される可能性があります。
YK13-05首席研究者(研究者リスト)
海洋・極限環境生物圏領域
深海・地殻内生物圏研究プログラム
プログラムディレクター
高井 研(たかい けん)
プロフィール
1969年京都府生まれ。1997年京都大学大学院農学研究科水産学専攻博士課程修了。2000年海洋科学技術センター入所。2005年極限環境生物圏研究センター プログラムディレクターを経て、2009年より現職。
専門は、地球生物学、宇宙生物学。
2009年から2010年にかけて、アメリカとイギリスの共同研究チームは、ウッズホール海洋研究所のハイブリッドROV ネレウス、サザンプトン海洋研究所のハイビス、という調査機器を投入して、世界の未探査深海熱水地帯のラストピースオブラストピーシズ(究極の未解明熱水地帯)と呼ばれるカリブ海ケイマン諸島沖の中部ケイマンライズという海溝みたいな海嶺の調査を行いました。
その結果、世界最深の熱水活動を発見しただけでなく、風変わりな熱水活動がいくつも存在していることを突き止めました(ナショジオを初め世界的なニュースにもなりました)。しかしニュースが世界を駆け巡ったとき、実際の潜航調査による探査は計画されていませんでした。
そんな時、ワタクシはとある国際学会でアメリカ研究チーム代表のクリス・ジャーマンが熱水発見の発表しているのを聞いて、「あら。調査するROVがないのなら、しんかい6500を使えばいいじゃない?」とマリー・アントワネット風に半分冗談で尋ねてみました。クリスは「そいつぁー、グレイトだぜ。ケン。ぜひしんかい6500で世界最深熱水の調査をしようず」と超ノリ気でした。
それから、「しんかい6500をカリブ海に連れてって」作戦が展開されることになったのですが、いかんせん東北沖地震やらその後の調査など、喫緊の事情もあり、随分と実現に時間がかかってしまいました。当初の予定では、「うまくいけば海底での熱水活動発見一番乗りのチャンスがあるかもよ」という「ごっつあんゴール」を秘かに狙ってましたが、現実はそう甘くありませんでした。
米・英の意地と意地がぶつかり合った潜航調査競争が行われ、二つの新しい熱水フィールドが潜航調査によって見つかり、新しい熱水化学合成生物の発見等、熾烈な成果競争が展開されつつあります(2012年12月現在)。
では、これまでも研究から見えてきたカリブ海中部ケイマンライズの熱水の特徴とはどのようなものだったでしょう?
調査された二つの熱水は、明らかに玄武岩溶岩地形の中にあります。しかし、その熱水はカンラン岩の蛇紋岩化の影響を強く受けています。二つの熱水に含まれる水素濃度は20mMを超え、世界最高記録です。ヤバいです。蛇紋岩化高温熱水の微生物生態系研究では、かつて世界最強の男と恐れられたワタクシは、異常高濃度水素を見るとハイパースライムを想像して、ヨダレが止まりません。パブロフの犬状態です。しかも、かいれいフィールドやレインボーフィールドと言ったかつての戦場とは大きく違うのは、その水深です。5000mを超える水深で、400℃という温度!それは超臨界熱水の存在を予感させます。にもかかわらず、塩化物イオンが海水の半分なんて、少なくとも現時点では説明不可能状態。
とまあ、すでにいろいろ分かってきていると言う点では残念ではありますが、むしろその謎を解くための準備をしっかりできると言う意味では、後出しじゃんけん的な旨味はありそうです。
新しい地質場での新しい熱水化学を示すカリブ海中部ケイマンライズ熱水における微生物生態系の研究は、まさしくこれからが勝負です。ワタクシたちが開発した新型チムニー回収装置や海底化学固定装置、現場培養器を駆使して、米・英と協力しながらも独自の成果を挙げて、ぎゃふんと言わせてやりますよ。
新種のオハラエビやチューブワームなどの記載は既に米・英が着手していますが、QUELLE前半戦インド洋編でチャレンジする熱水化学合成生物の発生学的研究や熱水化学合成生物の共生システムのエネルギー代謝の定量など、熱水化学合成生物の研究においても、独自の戦略で研究を進めて行きます。
そして、まだうまくいくかどうかわかりませんが、ぜひ、この米・英・日が相まみえる真夏のカリブ海決戦の様子や潜航の様子を衛星中継発信したいと思っています。
2013年の夏(6-7月)、日本中が震撼する!そんな航海にしたいと意気込んでいます。
YK13-05 | ||
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名前 | 所属 | 役職 |
首席研究者 高井 研 |
海洋研究開発機構 海洋・極限環境生物圏領域 | プログラムディレクター |
川口 慎介 |
海洋研究開発機構 海洋・極限環境生物圏領域 | 研究員 |
宮崎 淳一 |
海洋研究開発機構 海洋・極限環境生物圏領域 | 研究員 |
宮本 教生 |
海洋研究開発機構 海洋・極限環境生物圏領域 | 研究員 |
柳川 勝紀 |
海洋研究開発機構 海洋・極限環境生物圏領域 | 研究員 |
矢萩 拓也 |
東京大学大学院 新領域創成科学研究科 | 大学院学生 |
渡部 裕美 |
海洋研究開発機構 海洋・極限環境生物圏領域 | 研究員 |
Danielle Morgan Smith |
East Carolina University | Postdoctral Fellow |
Diva Joan Amon |
University of Southampton | Graduate student |
Jonathan Timothy Peter Copley |
University of Southampton | Lecturer |
Priya Narasingarao |
Scripps Institute of Oceanography | Postdoctral Fellow |
Verity Ellen Nye |
University of Southampton | Graduate student |