YK13-02航海の目的をもういっちょ紹介する,その前に!編

2013/02/19

川口 慎介(海洋研究開発機構 海洋・極限環境生物圏領域)

【では教えてくれ。ポン酢の“ポン”とはなんのことだ】
熱水噴出孔周辺には,スケーリーフットやアルビンガイなどの腹足類を代表に,大量の生物が棲んでいます。このレポートを読んでいる皆さんは,「そんなこと知ってるよ」と当然のように思っているかもしれませんが,これはすごいことですよ。少しでも熱水噴出孔から離れると,たとえば100mとか,それぐらいの距離でも,もうパッタリと生物はいないんです。じゃあなんで熱水周辺にはたくさん棲んでいて,そうじゃないところには棲んでいないんでしょうか。

こたえは食糧です。熱水などが噴いていない単なる海底では,海洋表層でつくられた有機物が降ってくるのを待つしかありません(「海に降る」粒子のことをマリンスノーと言ったりもします)。降ってきた食べ物の分だけしか養えないので,少しの生物しか生きることができません。しかし熱水噴出孔には,熱水の化学成分を食べる微生物が大量にいます(この話はまた後日,たぶん)。腹足類など大型生物は,熱水の化学成分を直接食べることはできませんが,有機物(つまり微生物の体)なら食べられます。そこでスケーリーフットやアルビンガイは,熱水を食べられる微生物を体の中で飼うことで,間接的に熱水から食糧をゲットする「共生」というスタイルをとることで,食糧問題を見事に克服し,ブクブクと肥え太っているわけです。

ちなみにワタクシ,大学生の時にこの「共生」の話を初めて聞いたわけですが(その時はチューブワームが例に出されていましたが),どうにも腑に落ちない部分がありました。そして,その時から納得がいかないままになっている部分が,この航海の研究課題の1つになっています。つまり,10年前,まだ研究業界に足を踏み入れる前の大学生のワタクシが気になった部分は,先端研究の世界においても,いまだに未解明の問題なのでした。今日のレポートにも,その謎は埋め込まれています。
ここまで「ふむふむ」とか言いながら納得して読み進めてきたあなた,もう一度ちゃんと考えて読み直してみましょう。はたしてそれは何でしょうか。謎解きはディナーの後で。
ヒントは2月16日のレポートに。


写真:「よこすか」1ラボのワタクシ周辺の様子。黒いゴムの滑り止めを敷いた白いパソコン,引き出しに挟むことで揺れの中でも立ち続けるタンブラー,キャベツにもパンにも使える私物サルサソース,暇つぶしの剣玉と本。職住一体。