研究領域

研究領域

領域課題1
気候変動予測と気候予測シミュレーション技術の高度化(全球気候モデル)
東京大学大気海洋研究所
領域代表者
渡部 雅浩
東京大学大気海洋研究所 教授
領域課題
  • 気候シミュレーション技術の高度化研究
  • 地球システム変動の要因分析と予測
参画機関
  • 海洋研究開発機構、国立環境研究所、気象業務支援センター
領域課題2
カーボンバジェット評価に向けた
気候予測シミュレーション技術の研究開発(物質循環モデル)
海洋研究開発機構
領域代表者
河宮 未知生
海洋研究開発機構 地球環境部門 環境変動予測研究センター センター長
領域課題
  • 階層的アプローチによる先端的地球システムモデリング
  • 包括的な地球気候システム研究のための基盤構築
  • 地球―人間システムの相互作用および将来シナリオ分析
  • 領域課題間連携のための技術・事務支援
参画機関
  • 国立環境研究所、電力中央研究所
領域課題3
日本域における気候変動予測の高度化
気象業務支援センター
領域代表者
辻野 博之
気象業務支援センター 研究推進部 第一研究推進室 室長
領域課題
  • 日本域気候変動の予測システム開発とメカニズム解明
  • 地域・流域の適応策推進に向けた
    気候変動予測情報の創出・極端現象メカニズムの解明
  • 海外の脆弱地域における高精度気候予測データセットの創出

ワークス
  • 「プロダクツ利活用促進」
参画機関
  • 北海道大学、東北大学、海洋研究開発機構、名古屋大学
領域課題4
ハザード統合予測モデルの開発
京都大学防災研究所
領域代表者
森 信人
京都大学防災研究所 教授
領域課題
  • 統合ハザードモデル開発と全国規模の将来予測
  • 精緻なハザードモデル開発とメカニズムの解明
  • 激甚化する災害ハザードの温暖化要因の定量化
  • アジア太平洋地域でのハザードおよびリスク評価と国際協力
  • ハザード・社会の将来変化に対応できる適応戦略
参画機関
  • 北海道大学、土木研究所ICHARM、農業・食品産業技術総合研究機構

領域課題1

領域課題1
気候変動予測と気候予測シミュレーション技術の高度化(全球気候モデル)

エビデンスに基づく
地球システム変動の理解と予測

領域代表者 渡部 雅浩(東京大学大気海洋研究所 教授)
領域代表者 渡部 雅浩(東京大学大気海洋研究所 教授)

 2021年8月に公開された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書(AR6)において、「観測されている温暖化が人間活動に起因する温室効果ガス排出増により生じていることに疑う余地はない」と明言されました。全球規模の温暖化は産業革命前から既に1.1℃を記録し、これに伴い世界各地で熱波や豪雨といった極端気象が頻度・強度を増していることも分かってきました。国内でも、気候変動に対する適応が進められるとともに、温暖化を緩和するためのカーボンニュートラル実現を目指す動きが活発になっています。
 気候変動に対する適応・緩和施策のベースとなるのは、過去の気候変動に対する科学的根拠(エビデンス)に基づく説明と、それに整合する全球から地域までの温暖化予測情報です。我々は、文部科学省が20年にわたり進めてきた研究プログラムにおいて、我が国独自の全球気候モデルMIROCを開発し、地球シミュレータを活用した温暖化予測計算を行ってきました。そのデータはIPCCの報告書に活かされており、個別にも世界トップレベルの研究成果が得られています。
 本プログラムでは、IPCC第7次報告書(AR7)を見据え、MIROCのさらなる高度化を、人工衛星データなども活用しつつ実施します。あわせて、AR6で確信度の低かった現象に対する科学的理解を進展させ、エビデンスに基づく地球システム変動の理解と予測を目指します。具体的には、近未来の気候変動・温室効果ガスの挙動にかかわる全球的な予測データを創出するとともに、全球規模の気候変動メカニズムの解明、過去の気候変化の要因分析、将来予測の不確実性制約、個別の極端気象に対する人為的温暖化の影響を評価するイベント・アトリビューション研究などを発展させてゆきます。

サブ課題 代表者
(ⅰ) 気候シミュレーション技術の高度化研究
a 気候・炭素循環予測技術の高度化と予測情報の創出 建部 洋晶
海洋研究開発機構 グループリーダー
b モデルと衛星データの融合研究による気候変化プロセスの理解 鈴木 健太郎
東京大学大気海洋研究所 教授
c 陸域環境変化の理解と予測 芳村 圭
東京大学生産技術研究所 教授
(ⅱ) 地球システム変動の要因分析と予測
a 地球システム変動の要因分析と予測 小倉 知夫
国立環境研究所 室長
b 過去から将来の気候変動のメカニズム理解 小坂 優
東京大学先端科学技術研究センター 准教授
c イベント・アトリビューション研究の深化と発展 今田 由紀子
気象庁気象研究所 主任研究官
図1
本課題の研究対象と期待される成果:本課題が研究対象とする気候変化の諸現象(黒字)および、期待される成果(データおよび知見の創出、赤字)の模式図。本課題では全球規模の気候変化をターゲットとしますが、その結果は他課題で実施される日本の気候変動適応のためのダウンスケーリングに必須の情報となります。全球およびアジア域の気候変動予測情報に確かな科学的根拠を提供することは、政府と自治体による適応施策に活かされるだけでなく、市民の気候変動に対する行動変容を促す「アクショナブル(行動に繋がる)」サイエンスとして社会の役に立つことが期待されます。

領域課題2

領域課題2
カーボンバジェット評価に向けた気候予測シミュレーション技術の研究開発(物質循環モデル)

生態系や人間活動を含んだ地球環境モデルを構築し、
気候変動対策の意思決定に貢献する

領域代表者 河宮 未知生(海洋研究開発機構 地球環境部門 環境変動予測研究センター センター長)
領域代表者 河宮 未知生(海洋研究開発機構 気候モデル高度化研究プロジェクトチーム プロジェクト長)

 「カーボンバジェット」とは、地球温暖化を目標範囲内に抑制するために、排出してもよいCO2の上限を意味します。目標達成に必要なCO2等の排出削減量の目安となります。このカーボンバジェットを評価するための科学的基盤となるのが、森林や海洋生態系など、地球上の炭素循環に重要な要素を含んだ、地球システムモデル(ESM)です。
 2021年公表のIPCC第6次評価報告書(AR6)では、昇温を1.5℃までに抑えるために残されたカーボンバジェットは、CO2換算で4000~6500百億トン(目標達成確率33%-67%に相当)と見積もられています。カーボンバジェットは、重要な量であるにも関わらず推計には大きな不確実性が伴っており、ESMの高度化により、不確実性の要因を理解し可能な限りその幅を狭めることが望まれます。そのために、従前の炭素循環に加え、窒素やそのほかの栄養塩の循環の取り扱いを高度化するなどしてCO2以外の主要な温室効果気体すべての動態も把握することが望まれます。たとえば、メタンなどの温室効果気体の大気中での寿命を決めるうえで決定的な役割を演じる大気成分OHラジカルは、大気汚染の影響を受けます。
 その将来の増減については議論が分かれていますが、領域課題2ではこうした大気化学分野の未解明問題にも取り組みます。また、評価されたカーボンバジェットに基づいて排出削減の道筋を示すため、ESMと社会経済モデルを結合したモデルを用い、気候変動と人間社会との相互作用についての理解向上にも挑みます。得られた知見は、「グローバルストックテイク」など、排出削減に関わる国際交渉の場における科学的基盤として活用されるよう、アウトリーチにも注力していきます。

サブ課題 代表者
(ⅰ)階層的アプローチによる先端的地球システムモデリング
a 生態系・物質循環プロセスの高度化 羽島 知洋 
海洋研究開発機構 グループリーダー代理
b 気候モデルエミュレータによる知見統合 筒井 純一
電力中央研究所 研究参事
(ⅱ)包括的な地球気候システム研究のための基盤構築 建部 洋晶
海洋研究開発機構 グループリーダー
(ⅲ)地球―人間システムの相互作用および将来シナリオ分析
a 地球―人間システムのフィードバック解析 立入 郁 
海洋研究開発機構 グループリーダー
b 地球―人間システムの将来シナリオ分析 横畠 徳太
国立環境研究所 主幹研究員
(ⅳ)領域課題間連携のための技術・事務支援 河宮 未知生
海洋研究開発機構 センター長
図1
様々なプロセスを導入して地球システムモデル(ESM)開発を進め、それによって得られる多様な知見を総合して、社会が将来的な道筋を選択するための基盤的な情報を発信する様子を示しています。永久凍土からのメタン、CO2の放出など、従前からESMへの取り込みが試みられているプロセス組み入れの推進に加え、大気化学の詳細なプロセスや森林火災の導入、人間活動を直接取り込んだモデルとの結合、など野心的な取り組みも行っていきます。得られた知見の社会への還元にも注力し、今後の排出削減に関する意思決定の基盤情報を提供します。

領域課題3

領域課題3
日本域における気候変動予測の高度化

「行動につながる気候科学」を目指し
気候変動ナショナルシナリオ構築に向けた研究を推進する

領域代表者 辻野 博之(気象業務支援センター 研究推進部 第一研究推進室 室長)
領域代表者 辻野 博之(気象業務支援センター)

 世界気候研究計画(WCRP)において“行動につながる気候科学”をキーワードとして気候研究の成果の社会との結びつきが強く謳われています。我が国においても、温暖化対策策定の根拠となるナショナルシナリオ、“気候変動予測データセット”が2022年を皮切りにほぼ定期的に更新されることになり、次のデータセットへ向けてのより高精度かつ多様なデータの提供が求められています(下図を参照)。本課題では、治水・利水分野を含めた水文・水資源分野、水産分野、地方自治体等へのユーザ層の拡大に伴い、より高精度・多様、かつ、不確実性をおさえた地域気候予測情報の創出を目指して、地域気候モデルの高度化、全球モデルへの海洋の効果の導入、日本周辺の海洋情報の充実を目指したモデルシステム開発を行います。また、地域気候・極端事象に着目した社会への実装を念頭に置いた以下の研究を行います。

①モデルの高度化、海洋情報の整備、極端現象の再現性向上とメカニズム解明、利活用研究を通して、ユーザフレンドリーな情報の創出を行います。

②ユーザとの双方向のコミュニケーションなどを通じ、データ提供システムを担うDIASをはじめとした国内諸機関と連携してユーザフレンドリーな情報提供体制を整えます。

③我が国と同様に大雨、洪水、高潮等のリスクが高まっている海外脆弱地域における気候変動適応策の検討・実施に貢献するため、当該地域を対象とした高精度な気候予測データセットの創出に関する研究に当該地域の研究者と連携して取り組みます。


※領域課題3は2024年度より領域代表者を高薮代表より辻野代表に交代しました。

サブ課題 代表者
(ⅰ)日本域気候変動の予測システム開発とメカニズム解明 辻野 博之
気象業務支援センター 室長
a 全球高解像度気候変動予測システム開発(全球班) 水田 亮
気象業務支援センター 研究員
b 日本域大気・陸面変動予測システム開発(領域班) 川瀬 宏明
気象業務支援センター 研究員
c 日本域海洋変動予測システム開発(海洋班) 中野 英之
気象業務支援センター 研究員
石川 洋一
海洋研究開発機構 センター長
d 統合的解析による日本域気候変動メカニズム解明(解析班) 遠藤 洋和
気象業務支援センター 研究員
(ⅱ)地域・流域の適応策推進に向けた気候変動予測情報の創出・極端現象メカニズムの解明 山田 朋人
北海道大学大学院工学研究院 教授
a 高解像度データセットと力学的・統計的情報を統合した予測手法の開発 山田 朋人
北海道大学大学院工学研究院 教授
坪木 和久
名古屋大学宇宙地球環境研究所 教授
b 近年の極端気象に影響を及ぼす気候気象要因の分析 川瀬 宏明
気象業務支援センター 研究員
c 地域・流域スケールにおけるリスク増大・最大規模を考慮した極端現象のメカニズム解明 山崎 剛
東北大学大学院理学研究科 教授
(ⅲ)海外の脆弱地域における高精度気候予測データセットの創出 村田 昭彦
気象業務支援センター 研究員
ワークス「プロダクツ利活用促進」 仲江川 敏之
気象業務支援センター 研究員
図1
気候予測情報の流れの中での当課題の立ち位置。上の赤枠が当課題、下側の緑のドロップスはユーザとして想定される様々なセクターを表しています。

領域課題4

領域課題4
ハザード統合予測モデルの開発

風水害・水資源のプロセスモデル高度化・統合化と
防災気候情報等の極端現象の将来予測

領域代表者 森 信人(京都大学防災研究所 教授)
領域代表者 中北 英一(京都大学防災研究所 教授)

 IPCC第6次評価報告書(AR6)では、気候的駆動要因(Climatic ImpactDriver:CID)が提案され、クローズアップされました。領域課題4では、このCIDの中で、風水害、水資源およびいくつかの特徴的な生態系をターゲットに、これまで推進してきた気候変動研究をさらに発展させ、プロセスモデルの高度化・統合化と極端現象の将来予測を実施いたします。
 第1目標として、多様な時間スケールの極端気象・海象データを必要とする風水害、水資源等を主対象として、高度なプロセスモデルの開発、さらにモデルの統合化を実施します。第2の目標として、風水害等の防災気候情報、水資源や生態系等について、温暖化に伴う日本およびアジア太平洋地域への影響を明らかにするとともに、気温上昇に対するハザード変化の分析を行います。
 これらの目標を達成するため、他領域課題の気候予測シミュレーション結果を活用することにより、コーディネイトされた極端現象の将来変化予測情報を創出します。さらに、研究・過去及び現在の極端気象現象に伴うハザード予測に対する温暖化寄与の推定・定量化を行うイベント・アトリビューション(EventAttribution:EA)研究を行います。防災気候情報を適応策として活用するためのフレームワークの構築を行うと共に、IPCC第7次評価報告書(AR7)に向けた研究成果を創出します。
 本領域課題は、5つのサブ課題を設け、京都大学を始めとする4参画機関に加えて、大学、国立研究所等43の協力機関から100名を超える研究者により実施され、オールジャパンで研究を進めていきます。

サブ課題 代表者
(ⅰ)統合ハザードモデル開発と全国規模の将来予測 佐山 敬洋
京都大学防災研究所 教授
(ⅱ)精緻なハザードモデル開発とメカニズムの解明 田中 賢治
京都大学防災研究所 教授
a 風水害・水資源に関するハザード評価 田中 賢治
京都大学防災研究所 教授
b 森林・沿岸生態系に関するハザード評価 藤井 賢彦
北海道大学 大学院地球環境科学研究院 准教授
(ⅲ)激甚化する災害ハザードの温暖化要因の定量化 竹見 哲也
京都大学防災研究所 教授
(ⅳ)アジア太平洋地域でのハザードおよびリスク評価と国際協力 立川 康人
京都大学大学院 工学研究科 教授
(ⅴ)ハザード・社会の将来変化に対応できる適応戦略 藤見 俊夫
京都大学防災研究所 准教授
図1
サブ課題A~Cがモデル開発と将来変化予測、サブ課題Dがアジア・太平洋諸国を対象とした将来変化予測と現地実装、サブ課題Eがハザード予測情報をもとに展開される適応戦略モデル開発を担います。成果は論文だけでなく、国内外の政策に活用されるように、積極的にデータとノウハウの公開を行います。