気候変動予測先端研究プログラムについて
現在、国内外で異常気象、災害等が多発しており、これらは気候変動によって今後より頻発化、激甚化することが懸念されています。2021年8月に公表された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書第1作業部会報告書(自然科学的根拠)では、温暖化について、人間活動の影響があることは疑う余地がないとされ、従来の報告書からさらに踏み込んだ表現がなされました。こうした気候変動への対策は、世界が一体となって取り組むべき課題であり、新たに始まるIPCCの第7次評価報告書の作成サイクルや2030年目標の持続可能な開発目標(SDGs)等、国際的な気候変動に関する取組に対して、我が国としても、気候変動に関する先進的な科学技術により積極的に貢献していくことは重要です。
また、国内でも2018年に気候変動適応法が施行されたことをはじめ、国における気候変動に関する法整備や計画の策定、関連する取組が実施されているほか、自治体や民間企業等においても気候変動対策の具体的な検討が進められています。こうした取組に必要となる将来予測等の科学的根拠の重要性・ニーズは日々高まっている一方、予測精度やニーズの高い情報の不足、データの使いやすさ等の問題からこれまで気候変動研究で得られた成果の活用の範囲は限定的となっていたため、社会的なニーズにも対応できるよう、気候変動研究を進めていく必要があります。
そこで、本事業では、「統合的気候モデル高度化研究プログラム」(平成29年度~令和3年度)の成果を発展的に継承しながら、4つの研究領域課題を連携させ一体的な研究体制を構築し、気候変動メカニズムの解明や気候変動予測の不確実性の低減を行うとともに、ニーズを踏まえた高精度な気候変動予測データの創出とその利活用までを想定した研究開発を推進することで、気候変動適応策・脱炭素社会の実現に向けた緩和策に活用される科学的根拠を創出・提供することを目指します。
国立環境研究所 理事長
IPCCの報告書で「疑いない」と断定された人為起源の気候変動に対処し、脱炭素、循環型社会の実現に向けて人類は大きく舵取りをしようとしています。国のリーダー達が集まる会議では、2030年までの10年間を「勝負の10年」と呼んで、変革への揺るぎない決意が示されています。人間活動によって温室効果気体が増えて地球の平均気温が上がることには疑いの余地がありませんが、その結果として地域、季節ごとにどのような変化が現れ、想定していなかったような災害がもたらされるのか、それに対してどんな対策を、どんな範囲で、いつまでに取るべきなのか、個人や社会の各セクターでどのような行動を取ればよいのかは自明ではないところも多いのが実情です。
人類の大きな決断が、気候変動の科学的証拠に立脚していることを自覚すると同時に、その決断に基づく大きな変革を成功に導くためにも、気候変動のさまざまな様相についての緻密な科学的知見や証拠が決定的な後押しの役割を果たすことを強く意識して、今回与えられた気候変動先端予測プログラムに総力を挙げて取り組んでまいります。そもそも気候システムの外的条件への応答はもちろんのこと、自然の状態での振る舞いそのものについてもわからないことがまだまだ多くあります。サイエンスですから、一般の人にはわかりにくい面もあり、知りたくてもわからないこともあるのは当然ですが、できる限り噛み砕いたご説明を心がけ、不確実性の大きさについてもできるだけ定量的な情報を付して、国民、そして人類のみなさんの断固たる行動を進めることに貢献したいと考えております。
20年以上にわたって国内で気候変動科学の推進に取り組んできた当プログラムの研究グループですが、自分たちだけでは力の及ばぬ面もあることを自覚し、国内外の関連研究者との連携やステークホルダーとの対話を活発に行いたいと考えています。忌憚のないご意見、ご鞭撻を頂けるよう、お願い申し上げます。
(2022年11月)
東北大学大学院理学研究科
名誉教授
領域課題毎にPO(プログラム・オフィサー)が配置され、研究課題の進捗管理、研究計画の調整等、PDの役割を補佐します。