2015年3月、仙台において第3回国連防災世界会議が行われている中、バヌアツでのサイクロンによる今までにないような被害が報道されました。このことが象徴するように、最近では、極端な気象現象が目立つようになりました。そして、この会議では、「温暖化対策と防災対策を統合すべき」という意見が強調されました。二酸化炭素などの温室効果ガスの排出規制や削減に関する国際的な取り決めが遅々として進まない中、今や現実の影響や被害に対して具体策を講じておくべき時期を迎えています。
「気候変動リスク情報創生プログラム」は、気候変動予測の基盤技術をさらに向上させ、集中豪雨などの極端な気象現象が発生する確率の予測、それによりもたらされる被害のリスク評価などを行うことを最大のミッションにしています。
プログラムディレクター(PD) |
住 明正 (文部科学省技術参与) |
国立環境研究所 理事長 |
本プログラムにおける研究は、重層的な構造になっています。一番下の階層に相当するのはテーマAです。その上にテーマB。さらにテーマC、テーマDが入ります。 テーマAは、本プログラムの根幹となる基盤モデルの開発です。前身の「21世紀気候変動予測革新プログラム」においても、基盤モデルが全体の研究を牽引してきましたが、基盤モデルそのものを強化し、より高性能なものにすることがねらいです。 テーマBは、テーマAと兄弟関係にあります。基盤モデルに物質循環や生物活動などの要素を加え、より詳細な地球システムモデルの開発、気候を安定化するための目標値の検討などを行います。 テーマCは、より詳細な予測情報を抽出したり、伊勢湾台風のようなごく稀にしか起きない気象現象について、どの程度の確かさで生じるのかを含む「想定しうるシナリオ」を描き出すことが目的です。それを受け、テーマDでは、気候変動に伴って変化する自然災害、水資源、生態系・生物多様性に対する影響を最小限に抑える適応策などを提案するためのリスク予測や評価を実現することを目指します。
温暖化はもはや避けようのないところまできています。一口に気候変動リスクといっても、その意味や深刻度は世代や立場によって大きく異なります。一方で、東日本大震災による巨大津波と原発事故を経験した私たちは、「1000年に一度」とされるきわめて小さな確率でも、甚大な被害をもたらす災害が実際に起こりうると気付いてしまいました。 少子高齢化が進み、資金も潤沢ではない難しい状況のもとで、具体的な行動を起こすには、科学的根拠と確実性のあるリスク評価が欠かせません。本プログラムに参画する私たちは、確からしいことと、いまだに良くわからないことを科学的に見極め、国民一人ひとりが考えて判断するための根拠となる成果を上げるべく、研究に邁進していく所存です。