[2003年-2007年]
1990年代の後半から、世界各地の深海熱水環境にイプシロンプロテオバクテリアと呼ばれる一群の微生物が圧倒的に優占する事実が明らかになってきた。そのイプシロンの最も近縁な分離株は、胃ガンの原因菌とも言われるピロリ菌や下痢を引き起こすカンピロバクター属細菌であり、その不思議な類縁関係とともに、大きな謎であった。JAMSTECシュガープログラムでは、このイプシロンの謎を解明するため、とっておきのイケメン研究者(中川聡、独身及び高井研、既婚)のコンビを投入した。やはりイケメン、見事に世界に先駆けて深海イプシロンを次々に分離し、未知イプシロンが水素や硫黄化合物をエネルギー源とする化学合性独立栄養微生物であることを明らかにした。さらにゲノム解析を行い、これらの深海イプシロンが深海熱水環境で勝ち抜く為に有する遺伝的特徴や分子生物学的メカニズムが、ピロリ菌などの病原性微生物を有害性の祖先型形質であることを提唱した。
世界の熱水活動域におけるイプシロンプロテオバクテリアの優占度を示した図
イプシロンプロテオバクテリアの系統樹。深海イプシロン(黄色)がピロリ菌やカンピロバクター属細菌と近縁であることがわかる。
JAMSTECシュガープログラムによって解読された2つの深海イプシロンのゲノム。一つは常温性イプシロンプロテオバクテリア、もう一つは好熱性である。常温性イプシロンは、アルビン貝の鰓に共生するイプシロンと極めて近縁な株であり、共生イプシロンプロテオバクテリアのゲノム解析が現在進行中であり、近い将来自由生活型と共生型のゲノムレベルでの比較が可能となる。