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超先鋭研究プログラム

研究内容紹介

[2020年]

「学会って必要か?」ver2020




川口 慎介 研究員


日本における学術研究団体(学会)の現状
埴淵知哉・川口慎介
E-journal GEO Vol 15(1) 137-155, 2020 Doi: 10.4157/ejgeo.15.137


【いきなりサマリー】

(1) ゼロベースで学会存否の議論を

(2) 中小学会の統合・連合化でスケールメリットを

(3) 学会組織に拘らない小規模学術集会で濃密な学術議論・次世代育成を



【前置き】

みなさん、学会に入っていますか?


学術界に身を置いていると、なんとなく学会に入会し、ずるずると学会員を続け、なりゆきで学会の役員やら委員やらを勤め、でもいまいち学会活動のメリットが感じられない、ってことが多いですよね。

川口は、某学会で役員を務めているのですが、会員数の減少(1000名を下回った)や論文雑誌の低迷(引用率が悪い・会員の投稿が少ない・他国からの低品質原稿が多い)、あるいは学会の財政状態の悪化なんかが議論されています。そういう議論に参加する度に「じゃあ学会を解散したら良いのでは?ラクになれるじゃない!」という言葉がノドの奥まであがってきて、口から飛び出しています。でも他の役員から「そうだそうだ!解散しよう!」という意見はなくて、ずっと不思議に思っていました。

高井さんとはそんな話をたびたびしていて、それが具体的な動きになったのが微生物生態学会2016横須賀大会での『パネルディスカッション 「学会って必要か? 微生物生態学会ってホントにいるけ?」』という企画でした。オモシロかったですね。とはいえ、個別の学会の役員会やパネルディスカッションで、それぞれが個人の思いを述べているだけじゃ、ただの不平不満や自画自賛にしかならず、結局のところ「学会って必要か?」という一般的な議論を着地させる糸口が掴みきれないままです。

この話題を日本学術会議若手アカデミーで話題にあげたところ、中京大学(当時)の埴淵さんが興味を持ってくれました。「朋友!」(ガシッ!)と熱き血潮を滾らせて抱き合う劇画調の展開もないまま本格的な調査を進めることになり、その結果の第一弾をまとめたのが今回の論文です。なおこのサイトでは川口の独断と偏見による解説のみを紹介しており、論文の内容をベースにしているものの、論文と同一視できるものではないことをご承知おきくださいませ。

なお論文化にあたって、辞書みたいな厚さの冊子に掲載されている情報をパソコンでひたすら打ち込む作業にまったく気乗りがしなかったのですが、ジョバンニが一晩でやってくれました(=パートタイマーの伊藤さんと田中さんがコツコツと入力してくれたおかげで論文化できました)。海の研究所の実験室で働いているはずが謎作業に駆り出されても文句を言わず取り組んでいただき、ダンケシェーン。



【論文の紹介】

この論文でやったことはシンプルです。『学会名鑑』という学会の名鑑の最新版(2019年版・ウェブサイト)と旧版(2007-2009年版・冊子体)に掲載されている基礎データを整理して、統計情報の一覧を作りました。この数値情報を用いて『2019年時点の学会の現状(対象団体数: 約2000)』と『過去約10年間の変化(対象団体数: 約1500)』を議論しました。 *データの詳細は論文を要確認。ここでは詳細を省略しています。

『学会名鑑』最新版の掲載団体は、日本学術会議が指定する協力学術研究団体を対象にしています。指定要件として以下の4条件があるため、最新版に掲載されている団体はこれをすべて満たしています。

  • [1] 学術研究の向上発達を主たる目的として、その達成のための学術研究活動を行っていること
  • [2] 活動が研究者自身の運営により行われていること
  • [3] 構成員(個人会員)が100人以上であり、かつ研究者の割合が半数以上であること
  • [4] 学術研究(論文等)を掲載する機関誌を年1回継続して発行していること

まずは現況を確認しましょう。


各団体を会員数で分類した場合の「団体数の分布」です。会員数2000名未満の団体だけで、全団体数の80%超を占めます。この区分を中小規模学会として一括りにします。同様に会員数2000-9999名の団体を大規模、10000名超の団体を巨大学会とします。ちなみに巨大学会は61団体あります。




次に、同じ会員数別区分による「会員総数の分布」です。分布の様相が、団体数と会員総数とでは大きく違います。中小規模と大規模を一括りにすると総会員数は209万人ですが、巨大学会61団体だけで151万人も会員がいます。

協力学術研究団体の会員数を足し合わせた延べ会員数は360万人です。これは都道府県別で10位の静岡県の人口に匹敵します。ちなみにすべての年会費が1名10,000円だとすると、年間360億円のキャッシュフローとなり、日本プロ野球12球団の年俸総額と同等です。




次に30の学術分野で区分した場合の「各分野における会員総数の分布」です。臨床医学が断トツ、ぶっちぎりですね。会員数区分で巨大学会に分類される団体のうち半数以上が、臨床医学分野です。臨床医学分野では「学会認定専門医」などの制度があるそうで、これが他分野との違いを生んでいるのかもしれません。




「各分野における会員総数の分布」について、臨床医学と歯学を除くと、上の図になります。みなさんの主たる活動の場にしている分野が、全体から見た場合にどのような位置にあるかが見て取れますね。業界団体(大手企業・学校など)がある分野では会員数が多いのかもしれません。なお、団体の自己申告による学術分野が複数選択されている場合は、この分野別集計からは除いたので、環境学のような学際的な分野では実態よりも少なく集計されている可能性もあります。




「各分野における女性役員比率の分布」を見ると、分野ごとの特徴がクッキリと浮かび上がります。なんとなく各分野に対して持っていた印象の通りだなぁと思いましたが、これは個人の感想ですね。女性比率15%というのは、役員20名のうち女性が3名ということです。いずれにせよ縦軸の上端は45%ですから、全体に低いです。




この結果が今回の解析で一番の目玉です。
各団体を会員数で区分した後、各区分での「過去10年間での総会員数の変化量の分布」を表しました。会員数2000名未満の中小規模学会では、会員総数が減少しています。大規模・巨大学会では会員総数が大幅に増加しており、全区分総計で延べ会員数は約22万人も増加しています。明暗がわかれています




「各団体の過去10年間の個人会員数の増減率」を算出した上で「各増減率の区分に該当する団体数の分布」を表したヒストグラムです。50%超の大幅な増加があった区分を除くと、『10-20%減少』にピークのある正規分布のようにも見えます。強引にまとめると「会員数が減少傾向にある団体の方が一般的」と言えるかもしれません。




「理学・工学系の各分野における個人会員数の増減」を確認すると、機械工学を除き、すべての分野で会員数が減少しています。理学・工学系の全体では、延べ会員数で約7.3万人の減少(12%減)です。ただしこの集計は、両年代の名鑑に登録されており、かつ、複数分野を選択していない団体のみを対象とするスクリーニングをかけているため、実態とは乖離している可能性があります。



【これからの学会活動のありかた】

『ごく少数の会員が多大な労力で運営し、大多数の会員は僅かな恩恵を受けているものの相応の年会費を払っている』というのが各団体の実態ではないでしょうか。団体が一定以上の規模になると、事務機能や雑誌経営を外部委託できるため、労力負担は大幅に軽減されるでしょう。そういう意味で、もっとも負担が大きいのは、外部委託できるほどの収入はないが会員数や事業がそれなりに多い中規模団体の運営かもしれません。

英語の学術誌を運営している団体では、世界的な雑誌乱立の煽りを受け、雑誌の編集や経営に苦心していると想像されます。資格事業が収入となり経営の柱になっている場合もあれば、資格事業の運営が大きな負担となっている場合もあるでしょう。法人格を取得した団体では、会計監査の出費がかさむ上に法律に束縛され、運営が窮屈になっているかもしれません。

学会活動は、そもそも「学術研究の向上発達を主たる目的として、その達成のための学術研究活動」であるはずです。近年は「研究者の研究従事時間が不足していることが学術低迷の原因」とも言われ、研究者の時間こそがもっとも貴重な研究資源という認識が広く共有されているところです。「学会活動が忙しくて研究する時間が足りない」というのでは、本末転倒です。

学会活動が忙しくて研究する時間が足りない。しかしそれでも、会員のみんなが喜んでくれるなら!」と努力する気概には頭が下がります。しかし一方で、多数の会員が「僅かな恩恵しかない上に年会費負担まで・・・」と考えていることも、おそらく事実でしょう。学会誌の編集に携わっている人には「学会誌は盛り上げたいけど、自分の良い仕事は良い雑誌に載せたいし・・・」という葛藤がつきもので、任期付の研究者からは「負担がツラいけど就職活動でもあるので断れず・・・」という意見も聞かれます。学会に対して抱くこうした「・・・」という想いを見て見ぬ振りをして、学会活動に努力を続けることは、はたして・・・。

川口の学会に対する私論は以下の通りです。ここまで読み進めた奇特な読者は、きっと何らかの学会活動に深く関与しているでしょう。ぜひ本件を所属団体に持ち帰って、大いに議論してください。

(1)ゼロベースで学会存否の議論を
学会の存続そのものを目的としてはならない。「過去に先人が学会の設立に投じた労力に敬意を払うこと」と「現在・未来に活動する研究者のために学会を解散すること」は、矛盾なく両立しうる。「一度開始すると止めることが出来ずに継続する理由を探してしまう」という日本人的性癖を自覚した上で議論を行わない限り「ゆるやかだが確かな負担増大」から逃れることは出来ない

(2)中小学会の統合・連合化でスケールメリットを
中小学会の運営労力は研究活動の支障となりつつある。一方、大規模学会や学会連合であれば、資金力を背景に運営業務を外部委託できるスケールメリットが認められる。学会連合など「大きな傘」の下での部会活動として集約することで、文科省など大規模機関と向き合う意見集団となれる上、事務局能力の集中により集会開催労力軽減や社会対話能力の強化などメリットがえられる。
 雑誌の独自編集には特定分野について議論が深まるメリットが認められるが、雑誌ごとに多大な経営努力が必要であることは看過できないデメリットである。たとえば学会連合で1つの大雑誌を出版しつつ、同誌内でセクション毎に編集権を独立させ中小学会が担う『共同経営・独立編集』など、スケールの大小に合わせて事業を分担し、メリットを活かしデメリットを縮小することも可能であろう。

(3)学会組織に拘らない小規模学術集会で濃密な学術議論・次世代育成を
学術集会は、特定分野で個別に開催することで少人数による濃密な議論が可能となり、最先端の研究および幅広い裾野に触れる機会としてメリットが認められる。特に学生にとっては「人と人」の関係が見える形での絶好の成長機会であり、休憩や懇親会は進学/就職先となりうる研究者の知遇を得る機会として機能する。小規模集会であれば、学会団体という母体がなくとも開催可能である。一方、大規模な集会では並列セッションが増加し交流が希薄になる点でデメリットが大きい。



【最後にお願い】

この論文では、統計情報を用いて現状や変化を議論しました。しかし数値情報だけでは、中小規模学会に見られる会員数減少の原因など、活動の実態について探ることが出来ません。各会の活動実態を把握することを目的に、日本学術会議を通じて学会事務担当者および学会長にアンケート調査を実施し、現在はアンケートへの回答を解析しているところです。また、統計情報や学会運営側の見解のみならず、会員である研究者側からみた学会組織・活動のあり方についての意見や感慨も重要な要素なので、今後アンケート調査などを実施したいと考えております。アンケートが届いた場合は、ぜひ回答にご協力ください。また、一緒に調査を進める仲間も随時募集中ですので、ご一報ください。よろぴこ。



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