地球発見 まだまだ知らない「ちきゅう」がある。

CDEX
Graphic Guide:風と波と潮で揺れる海上で位置を保持する高度な技術DPS(自動船位保持システム)

海底掘削で欠かせない要件の一つが定位置の保持。作業中の「ちきゅう」は海底と金属のパイプでつながっているため、もし船が流されれば大きな事故を招きかねない。四方から風が吹いて波が押し寄せ、海流が渦巻く海の上で同じ位置を保つことができるのは「DPS」と呼ばれる自動船位保持装置があるからだ。高度な技術力に支えられたシステムの詳細を見ていこう。
(2011年12月掲載)

山崎泰之 取材協力
山崎泰之
地球深部探査センター(CDEX)
運用室
工務グループ
技術主任

そこに留まり続けるための技術

図1.直径約4メートル、定格出力4200kWのアジマススラスタ。
船首側の3基と船尾側中央の1基は格納式で、浅瀬では船尾側2基のみで航行する 

図2.常にGPS(全地球測位システム)により船の位置を確認し、常時7基(6基のアジマススラスタと1基のトンネルスラスタ)のスラスタの推進方向を360度変え、風や潮流等に流されることなく、船体の位置を一定に保持します。

 常に風と波と海流の力を受ける洋上で船舶が定位置を保つ方法は二つある。一つはアンカーや係留装置などによって繋ぎ止める方法。船が動かないように物理的に固定するのである。もう一つは船底に取り付けられた巨大なプロペラ型のスラスタを使って位置を調整する方法。例えば、南から北に風が吹いている場合、船を北から南に前進させる推力と、船が風から受ける力のバランスが取れれば、同じ位置を保つことができる。
 「ちきゅう」が搭載する「自動船位保持装置(DPS:Dynamic Positioning System)」は後者の原理に従っている。DPSの技術は海底資源等の掘削船に一般的に使われているが、船首や船底の形状などによって外力から受ける影響が異なるため、「ちきゅう」のDPSは専用に開発されたものだ。
 「DPSは船が受ける外力の向きや大きさ目標位置からの差などを自動計算し、その影響力を相殺するようにスラスタを制御します。」そう語るのは運用室工務グループの山崎泰之技術主任。
 「ちきゅう」船底には船首側に3基、船尾側に3基、合計6基のアジマススラスタと、船首部に1基のサイドスラスタが搭載されており、いずれも発電機による電力で動く。
 アジマススラスタは直径が約4メートルで、水平方向に360度動かすことができる。「ちきゅう」のDPSでは、設定した位置、船首方位で各スラスタの消費電力の合計が最少となるように、自動でスラスタの向きを制御する。機能としては少ないスラスタでも制御できるが、「ちきゅう」ではDPSによる位置保持中はすべてのスラスタを使用し、湾内の移動などでは船後部の2基のみ使用する。 サイドスラスタは主に港湾内で使用される他、DPSでの位置保持にも使われる。
 「もしもDPSが故障すれば、所定の位置を保つことも、目指す場所に移動することもできません。海底掘削中であれば重大事故になる可能性もあります。そこで、多少の機器の故障が起こっても機能を維持でいるように、DPSには二重三重の安全対策が施してあります。スラスタは1基故障しても制御可能です。」