プレスリリース


プレスリリース

2007年08月22日
独立行政法人海洋研究開発機構

首都圏の化学天気予報システムを開発
〜オゾン(オキシダント)の当日予報が可能に〜

概要

海洋研究開発機構(理事長 加藤康宏)地球環境フロンティア研究センター大気組成変動予測研究プログラムの滝川雅之研究員と秋元肇プログラムディレクターは、東京大学気候システム研究センター高橋正明教授と共同で、首都圏を対象に、有害物質であるオゾン(オキシダント)(※1)の化学天気予報システム(図1)を開発しました。本システムを用いれば、首都圏各地で、オゾン濃度が高くなる時間と場所を予測することが可能となります。この成果は8月22日、日本気象学会の英文レター誌「SOLA」に掲載される予定です。

背景

最近、我が国における光化学オキシダント注意報の発令回数が増加する傾向にあり、中国からの越境大気汚染が議論されています。光化学オキシダントは、目や呼吸器への影響のため学校における体育の授業が中止されるなど、その社会的影響が大きく、より精度の高い当日予報が求められています。

これまでの光化学オキシダント予報は、主に過去の統計や都市近傍のみの計算モデルを基にしたものであり、周辺地域や越境大気汚染までを含めた予報計算はほとんど行われてきませんでした。

内容

本研究では、これまで当研究グループが開発・利用してきた全球化学輸送モデル(CHASER)(※2)を用いた領域スケール(※3)の化学天気予報システムと領域化学輸送モデル(WRF/Chem)(※4)とを組み合わせて、首都圏を対象としたオゾン(オキシダント)当日予報システムを開発しました。その結果、大陸をわたるオゾン前駆物質を含む汚染気体の輸送と都市スケールの大気汚染とを同時に評価することが可能となりました。

この予報システムを用いた首都圏におけるオゾン濃度の予測値と環境省などによる観測値とを比較したところ、高い相関が得られ、首都圏各地(分解能5km間隔)における午後1時のオゾン濃度を当日の午前9時までに予測できることが確認されました。

詳細説明

(1)計算条件等
1.計算領域(図2)
 外側領域(日本のほぼ全域):空間分解能15km間隔
 内側領域(関東・中部地方):空間分解能5 km間隔
2.外側領域境界条件:全球モデルの計算結果を使用
3.領域モデル計算に用いた気象予報値:気象庁による15時間予報(※5)値
4.領域モデル計算に用いた日本の発生源データ:JCAP(※6)及びEA-grid2000(※7)による1 km分解能データ
(2)予測結果と観測データの比較結果
1. 首都圏全域常時観測データとの比較

図3に2007年7月27日及び28日について本システムによる午前9時に予報した午後1時のオゾンの予報マップを環境省大気汚染物質広域監視システム「そらまめ君」による同時刻の首都圏の常時監視データとを重ねて表示した。

同濃度の計算値と実測値のオゾンを同じ色で表しているので、色が合っていれば予報が正しかったことを示す。27日には東京南部から神奈川県に高濃度オゾンが出現し、28日には埼玉県から北に高濃度オゾンが出現することが、正しく予報されている。

2. 各地の監視局における1ヶ月データとの比較

図4は2006年8月1日から31日までの1ヶ月間の埼玉、神奈川、東京の各監視局におけるオゾンの実測と予報を比較したものである。

オゾンの高濃度日は比較的良く予報されているが、例えば8月8日など、全く当たっていない日も見られる。この理由として、この日には3つの台風が日本列島に接近し、モデルに使用している気象予報に関するデータ自体が当たらなかったためと考えられる。

同期間の首都圏251ヶ所の常時監視データと予測値を比較したところ、相関係数0.7以上(※8)と高い相関が得られ、予測が可能であることが十分に確認された。

注記説明

※1:
物質から光化学反応によって生成される酸化性物質の総称。オゾン、過酸化水素、有機過酸化物などの化学物質の総称であるが、主成分はオゾン。オゾンは紫外線を吸収するといった有益な面もあるが、反応性が強いため人体には有害であり、吸入するとぜんそく等の障害を引き起こす可能性がある。
※2:
地球規模でのオゾン前駆物質の輸送や化学反応等を計算することが可能なモデル。現在の水平解像度はおよそ280km。本研究で用いられたCHASERは東京大学気候システム研究センターで生まれ、当センターで引き続き開発してきたモデル。
※3:
東アジア域など、1,000-数1,000 kmスケールの地域を領域スケールと呼んでいる。
※4:
アジア域や日本域など、特定の領域における汚染気体の輸送や化学反応をより細かく計算するためのモデル。本研究で用いられたWRF/Chemはアメリカ大気研究センター(NCAR)およびアメリカ国立海洋大気圏局(NOAA)で開発された領域化学輸送モデル。本件では水平スケールは15km(日本域)、5km(関東域)で計算を行っている。
※5:
気象庁メソ数値予報モデル(MSM)。水平分解能10kmで、対象領域は日本域。
※6:
(財団法人)石油産業活性化センターが作成した地表発生源データセット。
※7:
地球環境研究総合推進費C-1「北半球における越境大気汚染の解明に関する共同研究(1)次世代型ソース・リセプターマトリックスの精緻化と検証に関する研究」で作成された地表発生源データセット。
※8:
相関係数とは、二つのデータ列の間の類似性の度合いを示す統計的指標。二つのデータセットが完全に一致すれば値は1になり、まったく一致しなければ0となる。

お問い合せ先

(研究内容について)
地球環境フロンティア研究センター
大気組成変動予測研究プログラムディレクター 秋元 肇 
Tel: 045-778-5710
大気組成変動予測研究プログラム 研究員 滝川 雅之 
Tel: 045-778-5728
研究推進室長 増田 勝彦 
Tel: 045-778-5700
(報道について)
経営企画室
報道室長 大嶋 真司 
Tel: 046-867-9193