プレスリリース


プレスリリース

2007年11月16日
独立行政法人海洋研究開発機構

統合国際深海掘削計画(IODP)
地球深部探査船「ちきゅう」による南海トラフ地震発生帯掘削計画(速報)
〜平成19年度第1次研究航海の結果について〜

1.概要

海洋研究開発機構(理事長:加藤康宏)の地球深部探査船「ちきゅう」は、平成19年9月21日から、初めての科学掘削航海となる統合国際深海掘削計画(IODP)(※1)「南海トラフ地震発生帯掘削計画」(南海掘削:NanTroSEIZE)を紀伊半島沖熊野灘において実施しておりますが、11月15日に本年度の第1次研究航海が完了いたしましたので、その結果概要をご報告します。

2.第1次研究航海の実施内容

平成19年9月21日から11月15日までの全56日間、南海トラフ地震発生帯浅部において、プレート境界断層の上盤側の特性を明らかにすることを目的として、掘削同時検層(LWD)(※2)を実施しました。本研究航海における共同首席研究者は、木下正高(海洋研究開発機構地球内部変動研究センター海洋底観測研究グループリーダー)とハロルド・トビン(米国ウィスコンシン大学マディソン校地質・地球物理学部准教授)で、6カ国から全16名の科学者が乗船し研究を実施しました。

3.第1次研究航海の結果

本研究航海では、掘削海域の付加体(※3)堆積物はプレートの沈み込みにより歪が蓄積されるため強い圧縮応力が働いており、さらに4ノットを超える黒潮の潮流下という、従来の科学掘削では経験したことがない厳しい環境下での掘削でしたが、合計6地点(C0001からC0006)、12箇所(パイロット孔、土質試験孔及び掘削同時検層(LWD)孔の合計)での掘削を行い、うち5地点で掘削同時検層(LWD)を実施(表1参照)し、海底下400mから1400mまでの掘削孔内の各種物理データを連続的に取得することに成功しました。各掘削地点の結果概要は表2参照。

主な結果としては、南海トラフの付加体(掘削地点C0001とC0004)と陸側の熊野前弧海盆(掘削地点C0002)で実施した掘削同時検層(LWD)で得られた掘削孔壁のイメージデータにより、海底下1000mから1400m程度の地震発生帯上部における応力状態や地質構造に関する情報が取得できました。これらのデータは、熊野灘沖における付加体の発達過程及び地震の準備段階から発生までのメカニズムを解明する重要なデータになると期待されます。

また、熊野前弧海盆で実施した掘削同時検層(掘削地点C0002)で得られた地層の比抵抗イメージデータにより、海底下220mから400mの区間にメタンハイドレートに富む地層群が、泥質堆積物に挟まれた砂層を充填するように濃集して存在していることが確認されました。

4.今後の航海予定

乗船研究者が交代し、引き続き、11月16日より第2次研究航海を開始しました。(当初計画より1日繰り上げ)。本研究航海では、ステージ2で実施予定の巨大分岐断層へのライザー掘削に向けた上部孔井設置作業及び海底下約1,000m程度までの試料採取を行い、付加堆積物の調査を実施する予定です。

(※1)統合国際深海掘削計画(IODP:Integrated Ocean Drilling Program)

日・米が主導国となり、平成15 年(2003 年)10 月から始動した多国間国際協力プロジェクト。現在、欧、中、韓の21ヶ国が参加。日本が建造・運航する地球深部探査船「ちきゅう」と、米国が運航する掘削船を主力掘削船とし、欧州が提供する特定任務掘削船を加えた複数の掘削船を用いて深海底を掘削することにより、地球環境変動、地球内部構造、地殻内生命圏等の解明を目的とした研究を行う。

(※2)掘削同時検層(LWD: Logging While Drilling)

ドリルパイプの先端近くに各種の物理計測センサーを搭載し、掘削作業と同時に現場での地層物性の計測を行う技術。地質試料の採取はできないが、掘削箇所の地層状況を“現場”で連続測定することにより、比較的短期間に地質情報を得ることができる。これらにより、科学情報と共にその後の試料採取掘削等に有用な掘削孔の安全監視及びリスク回避等の情報が得られるため、南海トラフのような複雑な地質構造での掘削には非常に有効である。今回、取得したデータは、地層密度、空隙率、音波速度、自然ガンマ線、比抵抗等。

(※3)付加体

駿河湾から東海沖-紀伊半島沖-四国沖-九州沖まで続く南海トラフ(トラフとは海底の細長い凹地を指すが、ここでは海溝を意味する:長さ約770 km程度)は、南からフィリピン海プレートが、西南日本列島の地下に沈み込んでいくところである。南海トラフでは海洋のプレートの上に堆積した堆積物(一部火成岩も)がはぎ取られ、陸側のプレートに付加していく地質現象が起こっている。このプレートの沈み込みに伴い形成された地質体を付加体と呼んでいる。付加体の発達は造山運動の基本的なプロセスとして重要であると認識され、また巨大地震の発生場所としても、第一線の研究がなされている。


【表-1 掘削実績データ】

※1土質試験孔:ライザー掘削での上部孔井設置に向け、海底の土質強度を評価するための地質試料を採取



【表-2 掘削結果の概要】

※2掘削提案地点名:事前に掘削を予定していた候補地点の名称
※3掘削地点名:実際の掘削後にIODP掘削孔として時系列に付けられた名称



【図-1 掘削海域図】



写真1:各種の物理計測センサーを搭載した掘削同時検層(LWD)ツールを降下する


写真2:掘削同時検層(LWD)で得られた掘削孔内のデータを検討する乗船研究者

お問い合わせ先:

(「ちきゅう」及び掘削計画について)
地球深部探査センター
企画調整室長
田中 武男  電話:045-778-5640
(報道について)
経営企画室 報道室長
大嶋 真司  電話:046-867-9193