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2007年12月19日
独立行政法人海洋研究開発機構

統合国際深海掘削計画(IODP)
地球深部探査船「ちきゅう」による南海トラフ地震発生帯掘削計画(速報)
〜平成19年度第2次研究航海の結果について〜

1. 概要

海洋研究開発機構(理事長:加藤康宏)の地球深部探査船「ちきゅう」は、平成19年9月21日から、初めての科学掘削航海となる統合国際深海掘削計画(IODP)(※1)「南海トラフ地震発生帯掘削計画」(南海掘削:NanTroSEIZE)を紀伊半島沖熊野灘において実施しておりますが、12月18日に本年度の第2次研究航海が完了いたしましたので、その結果概要をご報告します。

2.第2次研究航海の実施内容

平成19年11月16日から12月18日までの全33日間、プレート境界断層の上盤側の特性を明らかにすることを目的として、南海トラフ地震発生帯浅部において掘削による柱状地質試料(コア)の採取を実施しました。なお、来年度実施予定の巨大分岐断層へのライザー掘削に向けた上部孔井設置作業については、黒潮の強い潮流下での作業実施は困難と判断し、設置作業を延期しました。

本研究航海における共同首席研究者は、芦 寿一郎(東京大学大学院新領域創成科学研究科准教授)とシーグフリード・ラルモン(フランス セルジ・ポントワーズ大学地球科学学部教授)で、6カ国・全25名の科学者が乗船し研究を実施しました。

3.第2次研究航海の結果

本研究航海では、南海トラフの付加体(※2)(掘削地点C0001)と陸側の熊野前弧海盆(※3)(掘削地点C0002)の2地点(図1参照)において、計8カ所で掘削を行い、それぞれ海底下458mおよび1,057mまでのコアの採取に成功しました。各掘削孔の結果概要は別添の通り。

掘削地点C0001は、三次元反射法音波探査による事前調査により、付加体の上に小規模な斜面堆積盆(※4)が覆う構造が確認されていましたが、堆積盆の泥層および、やや厚い砂層を貫き、付加体にいたる海底下458mまでのコア採取に成功しました。同様に、掘削地点C0002においては、熊野前弧海盆の砂岩泥岩互層を貫き、付加体にいたる海底下1,057mまでのコア採取に成功しました。本研究航海において、堆積盆の下層の付加体堆積物を直接採取できたことで、今後予定しているライザー掘削による目標深度までの間にどのような地層が分布しているかを推定する基礎的なデータを得ることができました。

本研究航海の主な成果は以下の通りです。

(1)
採取したコアに多数の小断層が認められ、X線CTスキャナーによる非破壊の3次元構造解析(図2参照)により、地層に記録された過去から現在に至る詳細な応力場の履歴を捉えることに成功しました。この結果は、南海掘削第1次研究航海の掘削同時検層で明らかになった現在の応力方位とも整合しています。
(2)
採取したコアの微化石および古地磁気層序学的手法による分析により、地層年代に関する情報を得ることができ、地震発生帯周辺の地質がどのように形成されたのか理解を進めることができました。
(3)
コア採取システムに内蔵されたセンサーによる孔内温度測定を実施し、地層の温度勾配に関するデータが得られたとともに、コアの熱伝導率の実測により、地下深部の地震発生帯にいたる温度構造の推定を従来以上に正確に行なうことが可能になりました。

本研究航海で採取したコアや分析データは、今後、乗船研究者が各研究機関で進める詳細な研究により、南海トラフにおける付加体の発達過程及び地震の準備段階から発生までのメカニズムを解明する重要なデータになると期待されます。

4.今後の航海予定

乗船研究者が交代し、引き続き、12月19日より本年度最後の「ちきゅう」による研究航海となる第3次研究航海(IODP第316次研究航海)を開始いたします。共同首席研究者は、木村学(東京大学大学院理学系研究科教授)とエリザベス・スクリートン(米国フロリダ大学地質科学学部准教授)で、10カ国・26名の科学者が乗船し研究を実施します。本研究航海では、海底下約1,000m程度までのコア採取を行い、分岐断層と関連する流体状況や付加堆積物の調査を実施し、平成20年2月5日に新宮港に入港する予定です。

(※1)
統合国際深海掘削計画(IODP:Integrated Ocean Drilling Program)
日・米が主導国となり、平成15年(2003年)10月から始動した多国間国際協力プロジェクト。現在、欧州、中国、韓国の21ヶ国が参加。日本が建造・運航する地球深部探査船「ちきゅう」と、米国が運航する掘削船を主力掘削船とし、欧州が提供する特定任務掘削船を加えた複数の掘削船を用いて深海底を掘削することにより、地球環境変動、地球内部構造、地殻内生命圏等の解明を目的とした研究を行う。
(※2)
付加体
駿河湾から東海沖-紀伊半島沖-四国沖-九州沖まで続く南海トラフ(トラフとは海底の細長い凹地を指すが、ここでは海溝を意味する:長さ約770km程度)は、南からフィリピン海プレートが、西南日本の地下に沈み込んでいくところである。南海トラフでは海洋のプレートの上に堆積した堆積物(一部火成岩も)が剥ぎ取られ、陸側のプレートに付加していく地質現象が起こっている。このプレートの沈み込みに伴い形成された地質体を加体と呼んでいる。付加体の発達は造山運動の基本的なプロセスとして重要であると認識され、また巨大地震の発生場所としても、第一線の研究がなされている。
(※3)
前弧海盆
付加体の発達によって堆積物がせき止められ形成された地質体。
(※4)
斜面堆積盆
付加体の上面の窪みに堆積物が溜まった地質体。

図1 掘削海域図
赤点が今回掘削した地点

図2 採取したコアのX線CTスキャン画像。

割れ目(縦に伸びた線)をずらせている多数の小断層が認められた。データの3次元的解析により地層に記録された詳細な応力場の変化を捉えることができる。(左:X線CTスキャン画像。色の違いは主に密度の差を示す。右:割れ目と小断層の位置を示す模式図)

写真1 船上の研究ラボでコアから研究用サンプルを採取する乗船研究者
(2007年11月29日撮影)

別添資料

掘削・コア採取概要

掘削地点名:C0001(掘削提案地点名:NT2-03)
緯度(北緯):33°14.0′ 経度(東経):136°42.0′
掘削
孔名
水深
(海面下)
コア採取深度
(海底下)
結果概要
E 2188.5m 0mから118.1m 水圧式ピストンコア採取システム(HPCS)によるコア採取を実施。
F 2187.5m 108.0mから229.8m
(HPCS)
229.8mから248.8m
(ESCS)
水圧式ピストンコア採取システム(HPCS)および伸縮式コア採取システム(ESCS)によるコア採取を実施。
G 2187.0m - 回転式掘削コア採取システム(RCB)によるコア採取を実施するも、開孔直後にROVケーブルがドリルパイプに絡まり掘削を中止。
H 2197.0m 240.0mから458.0m 回転式掘削コア採取システム(RCB)によるコア採取を実施。掘削が難しい深度を掘り飛ばし、海底下600mより深い地層のコア採取を試みるも孔壁が安定せず、次の掘削孔へ移動。
I 2198.5m - 海底下600mより深い地層のコア採取を回転式掘削コア採取システム(RCB)で試みるも孔壁が安定しないため断念。次の掘削地点へ移動。
掘削地点名:C0002(掘削提案地点名:NT3-01)
緯度(北緯):33°18.0′ 経度(東経):136°38.0′
掘削
孔名
水深
(海面下)
コア採取深度
(海底下)
結果概要
B 1937.5m 475.5mから1057.0m 回転式掘削コア採取システム(RCB)によるコア採取を実施。途中、孔内状況が悪化。孔壁を安定させる措置を実施するも状況の改善が見られず、以深のコア採取を断念。
C 1937.1m 0mから13.77m 水圧式ピストンコア採取システム(HPCS)によるコア採取を実施。
D 1937.1m 0mから204.0m 水圧式ピストンコア採取システム(HPCS)によるコア採取を実施。将来のライザー掘削に向けた浅部土質強度の調査。

※コア採取システムについて
水圧式ピストンコア採取システム(HPCS):

超軟質な地層のコア採取に用いる。ナイフのように鋭い先端を水圧で地層に貫入させ、ドリルビットを回転させずにコアを採取する。

伸縮式コア採取システム(ESCS):

HPCSでは採取が困難な軟質な地層のコア採取に用いる。地層の硬さに応じてバネの力で先端の刃先を調節できる。

回転式掘削コア採取システム(RCB):

中質から硬質な地層のコア採取に用いる。ドリルビットを回転させ地層を削りながらコアを採取する。割れ目の少ない固結した地層に有効。

掘削のみ:

科学目的に合わせてコアを採取せずに掘削のみを行ったゾーン。

お問い合わせ先:

(「ちきゅう」及び掘削計画について)
海洋研究開発機構 地球深部探査センター
企画調整室長 田中 武男 TEL:045-778-5640
(本航海について)
東京大学 大学院新領域創成科学研究科・自然環境学専攻
准教授 芦 寿一郎 TEL:03-5351-6439
(報道について)
海洋研究開発機構 経営企画室
報道室長 大嶋 真司 TEL:046-867-9193