プレスリリース


プレスリリース

2008年06月16日
独立行政法人海洋研究開発機構

大深度小型無人探査機「ABISMO」が世界で初めて
マリアナ海溝水深1万m超の海洋〜海底面〜海底下の
連続的試料採取に成功

1. 概要

独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 加藤 康宏)の大深度小型無人探査機(「ABISMO」:Automatic Bottom Inspection and Sampling Mobile )*1は、マリアナ海溝チャレンジャー海淵において150mから10,258mまでの鉛直水塊の採取および最大水深10,350mの海底から、海底直上水を含む約1.6mの柱状採泥に成功し、世界初の10,000mを超える海洋−海底面−海底下の連続的試料採取を達成しました。

当機構では無人探査機「かいこう」(平成11年7月に10,900mまで潜航)以来、1万m級無人探査機の開発を行ってきましたが、「ABISMO」(写真1〜4、仕様は参考参照)は平成19年12月に水深9,707mの潜航に成功し、今般、マリアナ海溝チャレンジャー海淵にて水深約10,330mの海域における三回の試験潜航を行い、最大潜航深度10,258mを達成しました。

本試験潜航により、現在世界で唯一の1万m級無人探査機としての性能を確認することができました。

これにより、今後の極限環境下での新たな微生物等の発見が期待されます。

2. 試験内容

場所:マリアナ海溝チャレンジャー海淵(北緯11度22分、東経142度43分 別図
第一回潜航試験(6月1日):潜航深度:10,245m、水深:10,320m
第二回潜航試験(6月2日):潜航深度:10,252m、水深:10,330m
第三回潜航試験(6月3日):潜航深度:10,258m、水深:10,350m
試験内容:潜航試験、着・揚収試験、海底堆積物サンプリング試験、鉛直採水試験

3. 試験結果:

1) 世界最深部であるマリアナ海溝チャレンジャー海淵の水深約10,350mの海域において潜航深度10,258mを達成。世界に現存する無人探査機で最も深く潜航し調査可能なことを実海域にて確認。
2) 水深10,350mの深海底の堆積物を1.6m柱状のコアを採取。(世界初)
3) 1万m以深(水深10,258m)までの鉛直多点採水を実施。(世界初)

4. 今後の展開

世界初の1万mを超える海洋−海底面−海底下の連続的試料採取により、地球上の最も深淵な(最も高水圧下の)場での、極限生命生態系が海洋の表層、中層、深層、超深層とどのように関わり合いながら存在しているのか、地球生命の活動や拡がりの限界とは何か、といった根源的な科学命題を解明する道を切り開いただけでなく、新たな生物・遺伝子資源の探索や未知の大気−海洋−地殻相互作用の解明につながることが多いに期待されます。

国家基幹技術の一端である「次世代深海探査技術」の新しい要素技術の検証機として、大水深における動作、性能確認等に活用すると共に、大水深における極限環境生物や物質循環研究の世界唯一のツールとして利用していく予定です。

*1 大深度小型無人探査機(「ABISMO」:Automatic Bottom Inspection and Sampling Mobile )

1) ビークル

(1)型式: オープンフレーム構造
(2)寸法: 長さ 約1.3m × 幅 約0.9m × 高さ 約1.1m
(3)重量: 空中重量約350kg
(4)推進器: スラスタ(前後横方向400 W:2基、上下方向400 W:2基)
クローラ(前後方向400 W:2基)
(5)映像装置: NTSC方式カラー×1ch

2) ランチャー

(1)型式: オープンフレーム構造
(2)寸法: 長さ 約3.3m × 幅 約2.0m × 高さ 約1.8m
(3)重量: 空中重量約3000kg
(4)推進器: スラスタ(前後方向1kW:2基)
(5)作業装置: グラビティコアサンプラー×1基
(6)映像装置: NTSC方式カラー×2ch 将来的にHDTV方式カラー×1ch搭載可能

別図

試験海域図

写真1
マリアナ海溝チャレンジャー海淵(北緯11度22分、東経142度43分)での「ABISMO」
写真2
「ABISMO」通信制御装置
写真3
マリアナ海溝水深10,350mの海底より採取された約1.6mの海底堆積物
写真4
マリアナ海溝水深10,258mから鉛直多点採水を実施した採水器

参考

「ABISMO」の概要

「ABISMO」の構造

「ABISMO」は、ランチャーならびにビークルから構成される。着揚収システムならびに一次ケーブル等は、「かいれい」に既設の「かいこう」システムのものを使用する。ランチャーとビークルに関しては新規に開発・建造を行った.ランチャーは,海面から深海までの潜航する間および深海から海面に浮上する間,ビークルと採泥器を内部に収納し保持する。深海でビークルはランチャーから離脱し海底の調査を行うことができる。ランチャーは,「かいれい」船上の装置とビークルの間の中継器としての機能も有している。ビークルは,全長160mのケーブルでランチャーと繋がれており,ケーブルの長さが許す範囲で,ランチャーの下を航走しながら搭載されたTVカメラによって海底面の調査を行うことが可能である。


「ABISMO」システム構造


お問い合わせ先:

独立行政法人海洋研究開発機構
(大深度小型無人探査機「ABISMO」について)
海洋工学センター先端技術研究プログラム
高性能無人探査機技術研究グループ
グループリーダー 大澤 弘敬 046-867-9384
(報道について)
経営企画室
報道室長 村田 範之 046-867-9193