プレスリリース


プレスリリース

2008年12月10日
独立行政法人海洋研究開発機構

人工衛星を利用した深海探査機の遠隔制御試験に成功
〜世界初の小型船舶による探査機の遠隔制御システムを開発。深海研究者に新たな手法を提供〜

1.概要

独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 加藤 康宏、以下「JAMSTEC」という。)、は、技術試験衛星VIII型「きく8号」(※1図1)を用いた深海探査機の遠隔制御システム(図2)を開発、このシステムを用いた実証試験を実施し、潜航中のハイビジョンカメラ搭載小型深海探査機「HDMROV」(※2写真1)を、陸上の基地局で海中映像をモニターしながら、「きく8号」を介して遠隔制御する試験に成功しました。(写真2

これまでの静止衛星を利用した同様のシステムは、衛星通信装置の制約から、動揺の小さい大型の専用母船上での利用に限られていましたが、開発したシステムは、携帯電話程度の非常に小さな端末からでも「きく8号」搭載の世界最大級の大きな送受信アンテナにより直接衛星と通信できるという特長を最大限に生かし、衛星遠隔制御型の小型深海探査機を開発するとともに、探査機にも搭載可能な小型の追尾装置及びアンテナを開発したことにより、世界で初めて、漁船などの小型船舶を母船として利用できることを確認しました。

本システムを用いることで、陸上の研究室に居る研究者も乗船研究者と同時に深海調査に参加できるようになり、例えば観測対象について知識のある研究者の意見を聞くことで、調査方法や範囲を臨機応変に変えて調査を進めることが可能となり、調査観測の効率を向上させることが期待されます。

なお、本試験は独立行政法人宇宙航空研究開発機構(理事長 立川 敬二、以下「JAXA」という。)、独立行政法人情報通信研究機構(理事長 宮原 秀夫、以下「NICT」という。)及びETS-VIII利用実験実施協議会(会長 近藤 喜美夫 独立行政法人メディア教育開発センター教授)(※3)の協力を得て実施いたしました。

2.遠隔操縦システムの特長について

本システムは基地局(写真3)、静止衛星、洋上局(写真4)、中継局(ギャップフィラー)(写真5)で構成され、洋上局に接続されている深海探査機等を基地局から遠隔制御することが可能です。また、洋上局で使用するアンテナ(20cm角程度)、洋上局と基地局で使用する端末(ラップトップPC程度)とも非常にコンパクトで簡単に持ち運ぶことが可能であり、基地局から洋上局へは指令を、洋上局から基地局へは映像を含む観測データと洋上局の状態を高速で送信できます。(最大1.5Mbps)

3.試験内容と考察

JAMSTEC横須賀本部に基地局を設置し、東京大学三崎臨海実験所敷地内(神奈川県三浦市)に中継局を設置、東大の「臨海丸」に洋上局と「HDMROV」システムを搭載しました。11月18日と11月20日、神奈川県三浦市油壷湾に「HDMROV」を潜航させたのち、遠隔制御に切り替え、JAMSTEC横須賀本部にて圧縮された水中映像を見ながら「HDMROV」を遠隔制御して水中生物の観測を行いました。(図3

衛星回線の帯域を有効活用するため、生物を発見するまでは、データ容量の小さい解像度の低い映像で「HDMROV」を操作し、生物を発見した場合にはデータ容量の大きい解像度の高い映像に切り替えることで、陸上に居ても母船に乗っているのと同じように観測が行えることができ、非常に有効な研究手段となり得ることが確認されました。また、航行中の「臨海丸」から衛星を常時捕捉することができ、切れ間の無い映像伝送が可能であることが確認されました。

今回の試験では、母船が大きく動揺しても衛星の通信品質を十分確保できるように、画像サイズを640x480ピクセルに縮小して圧縮し、衛星回線の通信速度を64kbpsに制限して実験を行いました。その結果、衛星信号の受信レベルが十分得られていたことから、6倍の通信速度(384kbps)でも通信品質を保つことができると推測されるため、同様の方式でフルハイビジョンサイズの画像(1920x1080ピクセル)を伝送できることが期待できます。

4.今後の予定と展望

来年3月には相模湾にて自律型無人探査機の遠隔制御の試験を予定しており、この試験においては母船が無い状態でも探査機の遠隔操作が可能であることを確認する予定です。

研究室からの探査機のリアルタイム遠隔制御が可能となれば、これまで限られた人数の研究者しか得られなかった深海調査の機会が格段に増えることとなります。

このシステムを積極的に用いることで、地球温暖化の調査や海溝型地震調査、生物多様性調査など緊急性の高い調査の速度を格段に向上できることが期待でき、研究効率の向上やコスト削減、危険海域での調査についても貢献できるものと考えております。

※1 技術試験衛星VIII型「きく8号」(ETS-VIII)

JAXA、NICT、NTTが共同開発。2006年12月18日にH-UAロケット11号機により打ち上げられた8番目の技術試験衛星で、テニスコート大の大型展開アンテナを2枚搭載することで地上の端末のアンテナを小型にすることができ、携帯電話やモバイル機器など通信需要の増大へ対応するもの。

衛星全体の重量は約3トンで、かつ通信容量が最大1.5Mbpsあることが特徴。

※2 HDMROV

2004年にJAMSTECが広和(株)と共同で開発した1,000mまで潜航が可能な細線光ファイバー遠隔制御型の小型深海探査機「MROV」(全長1.4m、空中重量100kg)をベースとし、ハイビジョンカメラを搭載し、衛星遠隔制御を可能とした小型深海探査機(High definition TV camera MROV「HDMROV」)。

HDMROV」と母船上の洋上局との間は直径1mmの光ファイバーケーブルで接続されており、探査機への指令ならびに探査機で撮影したハイビジョン映像と探査機の状態を伝送することができる。衛星遠隔モードに切換えることにより、衛星経由で基地局から制御することができる。

※3 ETS-VIII利用実験実施協議会

総務省が公募した利用実験の実施者をメンバーとし、実験に関する連絡・調整等を行うことを目的に設置された協議会。

図1 技術試験衛星VIII型「きく8号」のイメージ

図2 遠隔制御のシステム構成図

図3 試験海域図

写真1 揚収前のハイビジョンカメラ搭載小型深海探査機「HDMROV」

写真2 基地局で受信した水中映像と制御画面

写真3 JAMSTEC横須賀本部に設置した基地局

写真4 船上のアンテナと衛星通信装置(洋上局)

写真5 東京大学三崎臨海実験所敷地内に設置した中継局

お問い合わせ先:

独立行政法人海洋研究開発機構
(遠隔制御システムについて)
海洋工学センター先端技術研究プログラム
巡航探査機技術研究グループ
サブリーダー 吉田 弘 046-867-9382
(報道担当)
経営企画室
報道室長 村田 範之 046-867-9193