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2009年6月26日
独立行政法人海洋研究開発機構

統合国際深海掘削計画(IODP)
地球深部探査船「ちきゅう」による南海トラフ地震発生帯掘削計画(速報)
〜平成21年度第1次研究航海 ライザー掘削開始のお知らせ〜

1.
概要

独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 加藤康宏)の運用する地球深部探査船「ちきゅう」は、統合国際深海掘削計画(IODP)※1による「南海トラフ地震発生帯掘削計画」平成21年度第1次研究航海を実施するため、平成21年5月12日17時に和歌山県新宮市新宮港から紀伊半島沖(新宮市南東沖約58km)の熊野灘の掘削海域(図1)に向けて出港し、同日23時に最初の掘削地点であるNT2-11(水深2,054m)に到着しました。地形調査、音響トランスポンダの設置等を実施した後、ライザー掘削のための上部孔井設置、ライザーパイプ及び噴出防止装置(BOP)の降下作業を進めてきました(写真1)。ライザーシステムを結合後、泥水循環の確認試験を実施し、6月25日よりライザー掘削を開始しました。なお、一連の作業は、ほぼ当初の予定通り進捗しています。

この後、目標深度約1,600mまで掘削を進め、物理検層の一環として、VSP (Vertical Seismic Profiling) ※2 を実施する予定です。

(*)上記の予定は海気象等の状況によって変更することもあります。なお、「ちきゅう」の掘削作業の最新状況は、下記URLの当機構ホームページで確認できます。
http://www.jamstec.go.jp/chikyu/jp/Expedition/NantroSEIZE/special.html

2.
ライザー掘削について

「ちきゅう」と海底の掘削孔を連結したパイプ(ライザーパイプ)の中をドリルパイプが通る二重管構造での掘削方法です。ライザーパイプとBOPを用いて、泥水循環掘削(泥水で孔壁を保護し、地層圧力とバランスを取りながら行う掘削)を行うことで、掘削孔の崩れを防ぎ、より深くまで安定して掘削することを可能とします(図2)。

米国のジョイデス・レゾリューション号や欧州の特定任務掘削船等、従来の科学掘削船がライザー掘削能力を持たない船舶であるのに対し、「ちきゅう」はライザー掘削能力を有する初の科学掘削船として、地下深部や地震発生帯等の掘削困難な場所において全く新しい科学知見を得ることを期待されています。

南海トラフは、日本列島の東海沖から四国沖にかけて位置するプレート沈込み帯で、地球上で最も活発な巨大地震発生帯の一つであり、断層により掘削地層が非常に複雑になっています。また、熊野灘は黒潮の流れが速い海域であることに加え、台風等の悪天候の影響も予想されます。このように極めて厳しい海気象地質条件下において2,000mを超える大水深のライザー掘削を実施することは、海洋掘削史上いまだかつてない挑戦です。

なお、現在掘削を実施している海域の黒潮の流速は、熊野灘としては比較的遅い約1.0ノットですが、強潮流下でライザー後方の流れをスムーズにし渦励振を抑制するため、ライザーパイプの外側にフェアリング(整流装置)を取り付けて、併せてライザー挙動を計測し、これらの技術データを解析することにより、今後の運用に生かします。(図3写真2

※1 統合国際深海掘削計画(IODP: Integrated Ocean Drilling Program)

日・米が主導国となり、平成15年(2003年)10月から始動した多国間国際協力プロジェクト。現在、欧、中、韓の21ヶ国が参加。日本が建造・運航する地球深部探査船「ちきゅう」と、米国が運航する掘削船を主力掘削船とし、欧州が提供する特定任務掘削船を加えた複数の掘削船を用いて深海底を掘削することにより、地球環境変動、地球内部構造、地殻内生命圏等の解明を目的とした研究を行います。

※2  VSP (Vertical Seismic Profiling)

掘削孔の中に約20台の地震計を「ちきゅう」から降ろし、同時に当機構所属の深海調査研究船「かいれい」を移動させながら、エアガンにより音波を発信し、高精度にプレート境界や付加体の地質構造情報を得るための測定も併せて行います(図4)。

【図1】調査海域図
【図2】ライザー掘削とライザーレス掘削のシステム
【図3】フェアリング概念図
【図4】NT2-11地点の高精度VSP概念図
【写真1】ライザーパイプ降下作業の様子
【写真2】フェアリング取付状況

お問い合わせ先:

独立行政法人海洋研究開発機構
(本内容について)
地球深部探査センター 企画調整室長 田中 武男 TEL:045-778-5640
(報道担当)
経営企画室 報道室長 村田 範之 TEL:046-867-9193