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2009年10月9日
独立行政法人海洋研究開発機構

統合国際深海掘削計画(IODP)
地球深部探査船「ちきゅう」による南海トラフ地震発生帯掘削計画
〜第322次研究航海(平成21年度第3次研究航海)の結果について〜

1.概要

独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 加藤康宏)の運用する地球深部探査船「ちきゅう」は、本年5月10日より、統合国際深海掘削計画(IODP)(※1)による「南海トラフ地震発生帯掘削計画」(南海掘削:NanTroSEIZE)(※2)ステージ2を紀伊半島沖熊野灘にて実施していましたが、9月1日から開始したIODP第322次研究航海(平成21年度第3次研究航海)の終了(10月10日予定)をもって、今年度の南海掘削を完了いたします。第322次研究航海の結果概要を以下の通りご報告します。

2.実施内容

本研究航海では、巨大地震発生帯に運び込まれる物質の初期状態の解明を目的として、フィリピン海プレートが沈み込む南海トラフよりも沖合の四国海盆の2地点(掘削地点C0011 [NT1-07]およびC0012 [NT1-01])においてライザーレス掘削を実施しました(図1)。

掘削地点C0011では、海底下340 m以深において柱状地質試料(コア)採取を開始しましたが、著しい掘進速度の低下により、地質状況が変化したと考えられたため、海底下881mで掘削を中止しました。掘削地点を移動したのち、続く掘削地点C0012では、海底下60mから576 m までの区間でコア採取を行い、基盤岩(※3)試料採取に成功しました(各掘削孔の実績概要は別添の通り)。
 本研究航海における共同首席研究者は、斎藤実篤(海洋研究開発機構・技術研究主幹)、Michael Underwood (米国ミズーリ大学・教授)が務め、8カ国・計26名の科学者が乗船し、研究を実施しました(写真1)。

3.結果概要 〜巨大地震発生帯に運び込まれる初期堆積物と基盤岩の特徴の解明〜

掘削地点C0011およびC0012で採取されたコアを船上で観察・計測・分析・解析することによって、フィリピン海プレートの沈み込みにより南海トラフの巨大地震発生帯に運び込まれる初期堆積物と基盤岩の特徴を、以下の通り明らかにしました。


  1. 四国海盆への火山物質の供給
     後期中新世(およそ500万年〜1100万年前)の地層から火山性の粗粒堆積物が多数見いだされました。堆積物の構造・組織・組成から、これらの火山性堆積物は、掘削地点から東方に位置する火山列(伊豆・小笠原弧)から海底に広がる海底谷や海底扇状地を経由して西方へ運び込まれたことが示唆されます。四国海盆の掘削で火山性の粗粒堆積物が回収されたのは初めてのことであり、南海トラフの地震発生帯へ持ち込まれる物質の特徴を明らかにする上で重要な発見です。
  2. 西南日本からの堆積物の供給
     中期中新世(およそ1100万年〜1600万年前)の地層に認められる砂岩は陸上起源の鉱物を多く含み、この時期に四国海盆の広範囲に日本列島から砂が供給されていたことが推定されます。さらにその下位には硅長質(※4)の火山性堆積物が認められました。当時活発化していた西南日本外帯の火成活動を起源とする堆積物が四国海盆の広域に分布していたことが推定されます。
  3. 海底下を流れる2種類の「地下水」
      地層中に含まれる水を分析したところ、中期中新世の砂岩に富む地層と基盤岩直上の地層から、それぞれ起源が異なると考えられる2種類の流体が検出されました。これらは、地震発生帯に持ち込まれる流体の性質を理解する上で重要な分析結果です。
  4. 堆積岩と基盤岩の境界層および基盤岩の回収
      掘削地点C0012において、海底下540 m付近で前期中新世(およそ1600万年〜2300万年前)の堆積岩と基盤岩の境界部を確認し(写真2)、基盤岩を構成する枕状玄武岩溶岩の回収に成功しました。これらの岩石は、やがて巨大地震発生帯に持ち込まれ、アスペリティ(※5)を構成する岩石になると考えられています。今後、これらの岩石の岩石鉱物学的・物理的性質を解明することにより、巨大地震発生帯で起こる破壊現象の理解に大きく寄与することが期待されます。
  5. コアと掘削同時検層(LWD)データ(※6)との比較による孔内物理特性の解明
      本航海に先立ち実施したIODP第319次研究航海(平成21年度第2次研究航海)で取得した掘削同時検層(電気比抵抗・自然ガンマ線等)のデータ解析を行い、掘削地点C0011における地層の岩種や物理特性について、採取したコアとの対比を実施しました。また、孔壁画像の解析により、掘削地点C0011における海底下の応力の情報を取得しました。

4.地球深部探査船「ちきゅう」の今後の予定

10月10日 和歌山県新宮港に寄港
17日および18日 新宮港にて一般公開
19日 新宮港出港
21日 横浜港本牧埠頭着岸
22日〜31日 三菱重工業株式会社横浜製作所本牧工場にて機器取付工事等
11月1日〜 訓練航海

(※)なお、上記の予定は海気象状況等によって変更することもあります。

※1 統合国際深海掘削計画(IODP: Integrated Ocean Drilling Program)

日・米が主導国となり、平成15年(2003年)10月から始動した多国間国際協力プロジェクト。現在、欧州、中国、韓国、豪州、インド、NZの24ヶ国が参加。日本が建造・運航する地球深部探査船「ちきゅう」と、米国が運航する掘削船を主力掘削船とし、欧州が提供する特定任務掘削船を加えた複数の掘削船を用いて深海底を掘削することにより、地球環境変動、地球内部構造、地殻内生命圏等の解明を目的とした研究を行う。

※2 南海トラフ地震発生帯掘削計画(南海掘削:NanTroSEIZE)

南海トラフは、日本列島の東海沖から四国沖にかけて位置するプレート沈み込み帯で、地球上で最も活発な巨大地震発生帯の一つ。南海トラフの一部にあたる紀伊半島沖熊野灘は、東南海地震等の巨大地震震源と想定される領域の深さが世界のプレート境界のなかでも非常に浅く、「ちきゅう」による掘削が可能な海底下6,000m程度であるという特徴を有している。

南海掘削では、プレート境界断層および津波発生要因と考えられている巨大分岐断層を掘削し、地質試料(コア・サンプル)の採取や掘削孔内計測を実施することにより、プレート境界断層内における非地震性すべり面から地震性すべり面への推移及び南海トラフにおける地震・津波発生過程を明らかにすることを目的としている。

本計画は、全体として4段階(ステージ)に分けて掘削する計画で、紀伊半島沖熊野灘において南海トラフに直交する複数地点を掘削する予定。第1ステージは平成19年9月21日から平成20年2月5日まで実施した。

※3 基盤岩

一般的に堆積物(岩)の下位の地層を指し、その地域に広く分布する地層をいう。

※4 硅長質(けいちょうしつ)

石英や長石を比較的多く含む岩石の性質を示す。

※5 アスペリティ

地震時に大きなすべりが生じ地震波を出した箇所

※6 掘削同時検層(LWD: Logging While Drilling)

ドリルパイプの先端近くに各種の物理計測センサーを搭載し、掘削作業と同時に現場での地層物性の計測を行う技術。地質試料の採取はできないが、掘削箇所の地層状況を連続測定することにより、リアルタイムに地質情報を得ることができる。

調査海域図
【図1】調査海域図
コアの記載・サンプリングを行う研究者
【写真1】コアの記載・サンプリングを行う研究者
掘削地点C0012で得られた堆積岩[上] と基盤岩(枕状玄武岩溶岩)[下]の境界部分
【写真2】
掘削地点C0012で得られた堆積岩[上] と基盤岩(枕状玄武岩溶岩)[下]の境界部分


別添

掘削・コア採取概要

掘削・コア採取概要

 

掘削地名点:C0011(掘削提案地点名:NT1-07)
緯度(北緯):32°49.7’ 経度(東経):136°52.9’
掘削孔名 水深
(海面下)
コア採取深度
(海底下)
結果概要
B 4048.7m 340 - 881m 回転式掘削コア採取システム(RCB)によるコア採取を実施。海底下881mまでの堆積物層の試料採取に成功。

掘削地名点:C0012(掘削提案地点名:NT1-01)
緯度(北緯):32°44.9’ 経度(東経) : 136°55.0’
掘削孔名 水深
(海面下)
コア採取深度
(海底下)
結果概要
A 3510.7m 60 - 576m 回転式掘削コア採取システム(RCB)によるコア採取を実施。基盤岩の試料採取に成功。

お問い合わせ先:

独立行政法人海洋研究開発機構
(本内容について)
地球深部探査センター 企画調整室長 山田 康夫 TEL: 045-778-5640
(報道担当)
経営企画室 報道室長 中村 亘 TEL: 046-867-9193