プレスリリース


2010年 7月 2日
独立行政法人海洋研究開発機構

統合国際深海掘削計画(IODP)第327次研究航海の開始について
〜ファン・デ・フーカ海嶺東翼部海洋地殻の水理地質学的構造に関する調査〜

この度、統合国際深海掘削計画(IODP:Integrated Ocean Drilling Program)()の一環として、「ファン・デ・フーカ海嶺東翼部海洋地殻の水理地質学的構造に関する調査」(別紙参照)を実施するため、米国が提供するジョイデス・レゾリューション号の研究航海が7月6日から開始されます。

本研究航海は、北太平洋東部に位置するファン・デ・フーカ海嶺東側斜面(東翼部)を掘削し、掘削孔に孔内観測装置を設置し、長期モニタリングを行うことにより、海洋性地殻内(海底下)の流体の経路を解明することを目的としています。日本から共同首席研究者を含む3名が乗船するほか、米国、欧州、中国からも含め、計18名が参加する予定です。

※統合国際深海掘削計画(IODP:Integrated Ocean Drilling Program)

IODPは、独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 加藤 康宏)が提供する地球深部探査船「ちきゅう」をはじめとする海洋科学掘削船を用いて深海底を掘削することにより、地球環境変動の解明、地震発生メカニズムの解明および地殻内生命の探求等を目的とした国際研究協力プロジェクト。2003年10月1日より我が国と米国の主導によって開始され、現在、24カ国が参加。海洋研究開発機構は、日本国内の研究者がIODPへの参加に関わる支援等国内におけるIODPの総合推進機関としての役割を担っている。

別紙

ファン・デ・フーカ海嶺東翼部海洋地殻の水理地質学的構造に関する調査

1.日程(現地時間)

平成22年7月6日
ビクトリア(カナダ)にて乗船(準備が整い次第出港)
北太平洋東部ファン・デ・フーカ海域(図1)にて掘削を実施
平成22年9月4日
ビクトリアに入港・下船(掘削航海終了)

なお、気象条件や調査の進捗状況等によって変更の場合があります。

2.日本から参加する研究者

氏名 所属/役職 乗船中の役割・専門
辻 健 京都大学/助教 共同首席研究者
宮本 広樹 京都大学/大学院生(博士前期課程) コア記載(構造地質学者、検層)
増井  玲央那 京都大学/大学院生(博士前期課程) 地球物理学者、物理特性

3.研究の概要

本航海の主要目的は、ファン・デ・フーカ海嶺*1東側斜面(東翼部)において孔内観測装置を設置し、長期モニタリングを行うことで、海洋性地殻内の流体経路を解明することです。

プレートが形成される中央海嶺では、マグマの熱によって地殻中を流体が循環することが知られています。しかしながら、海嶺中央部よりも、幅数百kmに及ぶ翼部のほうが放出される熱の量が3倍程度大きく、さらに物質の流量は10倍程度多いことが知られています。つまり海洋と地球内部の物質循環とエネルギー収支を考える際には、翼部の流体循環の理解が重要と言えます。

本航海では掘削を行ってコア試料を観察・計測するだけでなく、多数の孔井に孔内観測装置を設置し、流体のモニタリングを行うことで、次の問題の解明を目指します。

(1) 海洋地殻内の流体は、どれくらいの量が、どれくらいの速度で流れているのか。
(2) 海洋地殻内の流体が流れやすい方向はどちらなのか。どのような特徴を持つフラクチャーが、流体循環に影響しているのか。
(3) 何が流体循環の動力源となっているのか。
(4) 潮汐や地震といったダイナミックな変動に対して、海洋性地殻内の流体はどのように反応するのか。
(5) 海洋地殻内の流体は、岩石の変成や地殻内微生物と、どのように関係しているのか。

4.掘削の概要

掘削地点は、太平洋北東部のバンクーバー島の沖合約200kmに位置するファン・デ・フーカ海嶺東翼部です。本航海ではSR-2という地点で、新たに2本の孔井を掘削し、コークと呼ばれる孔内観測装置を設置します。また、この海域では以前からODP*2とIODPによる掘削(第168次研究航海、第301次研究航海)が行われており、これらの孔井に設置されている観測装置も交換する予定です。

以上の作業により、多数の掘削孔間での水理試験が可能となります。このように海洋性地殻内流体のモニタリングを、多数の孔井でトレーサー(追跡観測)試験によって実施するのは初めての試みです。

*1 海嶺:大洋の底にある海底山脈。ファン・デ・フーカ海嶺は、太平洋北東部、バンクーバー沖に発達する海嶺であり、ここで太平洋の海洋地殻が生成され、年間4cm程度の速度でほぼ東西に拡大している。

*2 ODP:国際深海掘削計画(Ocean Drilling Program)。1985年から2003年に行われた、IODPの前身となる国際共同研究プロジェクト。プレートテクトニクスの実証など、さまざまな科学的成果を残した。

図1

図1.本研究航海の掘削予定地点(SR-2:それぞれ水深2,670m、掘削深度は515mおよび325mの2地点を予定)。GRB1A〜3Aは今回の代替掘削サイト、1026B、1027CはODP第168次研究航海による掘削孔、1301A、BはIODP第301次研究航海での掘削孔を示す。

お問い合わせ先:

独立行政法人海洋研究開発機構
(IODP及び本研究航海について)
地球深部探査センターIODP推進・科学支援室 科学計画グループ
グループリーダー 菊田 宏之 TEL:045-778-5644
(報道担当)
経営企画室 報道室長 中村 亘 TEL:046-867-9193