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2011年 8月 15日
独立行政法人海洋研究開発機構

東北地方太平洋沖地震震源海域での有人潜水調査船「しんかい6500」による潜航調査で得られた画像について(速報)

1.概要

独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 加藤康宏)は、平成23年7月30日から8月14日にかけて「東北地方太平洋沖地震」震源海域の日本海溝陸側斜面において、地震による深海生態系への影響、海水中の化学変化、海底の変動を調べるために有人潜水調査船「しんかい6500」による潜航調査を行いました。

調査の結果、三陸海岸東方の日本海溝海域の水深約3200mから5350mにおいて、海底の亀裂や段差(*1)、海底下からの湧水現象(*2)に伴うバクテリアマット(*3)・海底変色・ナギナタシロウリガイ(*4)の生息、ウシナマコ類(*5)の高密度生息が確認されました(別紙1)。

今後、これらについて検討を進めることとしており、成果としてまとめる予定としております。

なお、当該調査については、今後も継続していくこととしております。

用語説明

*1 海底の亀裂:東北地方太平洋沖地震を含む一連の地震活動で、海底が変動したため生じたものと考えられる。

*2 湧水現象:プレート沈み込み域では断層が発達し、断層に沿ってメタンが湧き出す現象が見られる。堆積物の表層から数cmの堆積層で、バクテリアによってメタンと海水中の硫酸イオンから硫化水素が合成される。その結果、湧水にはメタンや硫化水素が高濃度に含まれることになる。

*3 バクテリアマット:バクテリアが多量に繁殖しマット状になること。ここではメタンや硫化水素といった還元物質をエネルギー源にして多量に繁殖したと思われる。

*4 ナギナタシロウリガイ:大きさ15cmくらいの二枚貝で日本海溝から千島海溝の水深4700-6400mにかけて分布。シロウリガイ類は鰓の細胞内にバクテリアを共生させ栄養を得ている。足から硫化水素を吸収するために、硫化水素がある堆積物中に足を差し込むように突き刺さって生息している。集団を作り、湧水域や熱水噴出域に特有な生物。

*5 ウシナマコ類:大きさ5-6cmくらいのナマコ。ナマコ類は一般的に堆積物食性。

別紙1

写真1

写真1.8/3、「しんかい6500」第1256回潜航(潜航者:野牧秀隆、海洋研究開発機構)サイト1、水深5351m
海底の亀裂。幅、深さともに約1m。亀裂は南北方向に走り、少なくとも約80m続く。内部には崩れた堆積物がある。2006年に同じサイト1で潜航調査を行っているが、その際には亀裂は認められていないので(参考)、東北地方太平洋沖地震を含む一連の地震活動で生じたものと思われる。

【参考】

参考

2006/6/8、「しんかい6500」第957回潜航(潜航者:Xavier Prieto、プレーメン大学沿岸海洋研究所 )、サイト1、水深5351m
2006年6月8日に撮影されたサイト1の海底。このサイトでは過去に少なくとも3回の潜航調査を行っており、いずれも堆積物に覆われ、海底に亀裂は認められず、イソギンチャク類が多数生息していた。

写真2

写真2.8/3、「しんかい6500」第1256回潜航(潜航者:野牧秀隆、海洋研究開発機構)、サイト1、水深5351m
写真1の亀裂を別の方向から撮影。亀裂内部に白色の変色域が見られる。亀裂は断層上にあり、メタンなどを含む湧水現象があると思われる。特に大量のメタンがわき出す場所にはバクテリアマットが形成され白色に見える。

写真3

写真3.8/3、「しんかい6500」第1256回潜航(潜航者:野牧秀隆、海洋研究開発機構)、サイト1、水深5351m
亀裂と亀裂内にある白く変色したバクテリアマット。写真12と同じ亀裂。

写真4

写真4.8/10、「しんかい6500」第1259回潜航(潜航者:宮本教生、海洋研究開発機構)、サイト2、水深3218m
南北方向に認められた海底の亀裂。幅約20cm、長さは不明だが少なくとも数10mは超える。底は深く深さは確認できない。

写真5

写真5.8/10、「しんかい6500」第1259回潜航(潜航者:宮本教生、海洋研究開発機構)サイト2、水深3218m
段差。段差の落ち込みは1mを超える。東側が高くなり、ところどころ崩れる様子が認められる。

写真6

写真6.8/1、「しんかい6500」第1254回潜航(潜航者:藤倉克則、海洋研究開発機構)、サイト1、水深5348m
海底に線上に形成された白く変色したバクテリアマット。長さ2m程度。直上の海水からは硫化水素臭が著しい。

写真7

写真7.8/1、「しんかい6500」第1254回潜航(潜航者:藤倉克則、海洋研究開発機構)、サイト1、水深5349m
写真6のバクテリアマットの拡大。バクテリアが作り出したと思われるゼラチン様の物質がある。

写真8

写真8.8/2、「しんかい6500」第1255回潜航(潜航者:辻 健、京都大学)、サイト1、水深5341m
サイト1にある別の白色変色域。これもバクテリアマットと思われる。約20×20mにわたる。

写真9

写真9.8/5、「しんかい6500」第1257回潜航(潜航者:高井 研、海洋研究開発機構)、サイト3、水深3551m
サイト3で見つかった白色変色域。これもバクテリアマットと思われる。幅2-3m、長さ5-6m。

写真10

写真10.8/3、「しんかい6500」第1256回潜航(潜航者:野牧秀隆、海洋研究開発機構)サイト1、水深5350m
ナギナタシロウリガイの集団とバクテリアマット。ナギナタシロウリガイのコロニーは地震前から確認されており死滅していない。

写真11

写真11.8/1、「しんかい6500」第1254回潜航(潜航者:藤倉克則、海洋研究開発機構)、サイト1、水深5350m
ナギナタシロウリガイの拡大写真

写真12

写真12.8/3、「しんかい6500」第1256回潜航(潜航者:野牧秀隆、海洋研究開発機構、サイト1、水深5350m
高密度に生息するウシナマコ類。2006年6月8日には、このナマコはほとんど生息が確認できなかった(参考写真参照)。

別紙2

図1

図1 「しんかい6500」調査地点
  サイト1:39°07′N、143°53′E(水深: 5,350m)
  サイト2:38°39′N、143°36′E(水深: 3,200m)
  サイト3:37°45'N、 143°17'E(水深:3,500m)

お問い合わせ先:

独立行政法人海洋研究開発機構
(本調査結果について)
海洋・極限環境生物圏領域 海洋生物多様性研究プログラム
深海生態系研究チーム チームリーダー 藤倉 克則 046-867-9555
(報道担当)
経営企画室 報道室 奥津 光 電話:046-867-9198