プレスリリース


2012年5月25日
独立行政法人海洋研究開発機構

地球深部探査船「ちきゅう」による統合国際深海掘削計画(IODP)第343次研究航海「東北地方太平洋沖地震調査掘削」について

海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦)は、地球深部探査船「ちきゅう」による統合国際深海掘削計画(IODP)(※1) の一環として、第343次研究航海「東北地方太平洋沖地震調査掘削」を平成24年4月1日より実施しておりましたが、5月24日に研究航海を終了しましたので、ご報告します。

1.調査事項

本研究航海では、東北地方太平洋沖地震の巨大地震と津波を引き起こしたプレート境界断層の摩擦特性の解明を目的とし、これまでの調査研究から海底面が非常に大きく変動したと推定されている宮城県牡鹿半島東方沖の海域(図1)において、海底からプレート境界に到達する海底下850.5mまでの掘削同時検層(※2)を行い、地層の物性データを取得するとともに、海底下648m〜844.5mの区間で、断層を含む地質試料を採取しました(図2)。

一方、プレート境界断層の摩擦熱を計測するために掘削孔内に設置予定であった温度計については、同作業に不可欠な水中テレビカメラシステム(※3)のケーブルに不具合が生じたため、設置を今夏に延期することにしました(平成24年5月17日既報)。

2.今後の取り組みについて

掘削同時検層、地質試料の採取、掘削孔内における温度計測により得られたデータを総合的に解析し、巨大地震発生時のプレート境界断層の摩擦特性(断層が高速で滑ったときの摩擦熱、断層帯の岩石の化学的性質、間隙率等)を分析し、巨大津波を発生させた海溝軸付近でのプレート境界断層の滑りのメカニズム解明に取り組みます。

海溝型地震発生後早期に得られたプレート境界断層のデータに基づいて滑りのメカニズムを解明する取り組みは、世界初の試みであり、その成果は、今後発生が懸念されている東海・東南海・南海地震等の巨大地震やそれに伴う津波に対する防災・減災に資するものと考えています。

3.今後の「ちきゅう」の運航予定

・5月30日〜6月下旬 アジマススラスター復旧工事及び年次検査(佐世保造船所)
・6月下旬〜7月初旬 受託事業(渥美半島沖)
・IODP下北八戸沖石炭層生命圏掘削については、スケジュール調整中

※1 統合国際深海掘削計画(IODP:Integrated Ocean Drilling Program)

日・米が主導国となり、平成15年(2003年)10月から始動した多国間国際協力プロジェクト。現在、欧州、中国、韓国、豪州、インド、ニュージーランドの25ヶ国が参加。日本が建造・運航する地球深部探査船「ちきゅう」と、米国が運航する掘削船ジョイデス・レゾリューション号を主力掘削船とし、欧州が提供する特定任務掘削船を加えた複数の掘削船を用いて深海底を掘削することにより、地球環境変動、地球内部構造、地殻内生命圏等の解明を目的とした研究を行う。

※2 掘削同時検層

地質の特性や断層を把握するため、ドリルパイプの先端近くに物理計測センサーを搭載し、掘削と同時に孔内で各種計測を行うこと。なお、この掘削同時検層において、科学掘削としては世界最長の総ドリルパイプ長(7,740m:水深6889.5m、海底下850.5m)を達成(注:その後の精査の結果、平成24年4月27日既報時から、水深と海底下の値が修正になりました。総ドリルパイプ長については変更ありません)

※3 水中テレビカメラシステム

光電気複合ケーブルを介して船上でリアルタイムモニタリングが可能な、海底およびドリルパイプ監視用の水中テレビカメラ。

【図1】掘削地点の海底地形図
宮城県牡鹿半島東方沖約200km沖合の海域。
水深6883.5メートル、海底下856.5メートル付近のプレート境界断層まで掘削

【図1】掘削地点の海底地形図
宮城県牡鹿半島東方沖約200km沖合の海域。
水深6889.5メートル、海底下850.5メートル付近のプレート境界断層まで掘削

【図2】採取に成功した日本海溝のプレート境界断層試料

【図2】採取に成功した日本海溝のプレート境界断層試料

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(本内容について)
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